四十四、都合良い展開と不要な予告
「お婆々様!」
声を掛けても返事がない。彼女はじっと目を閉じている。
「お婆々様、しっかりして下さい。しるこの神が公園に到着しました!」
しばらくの沈黙の後、しるこババアは返事をした。
「……分かっておる。今丁度、充電が完了したとこじゃ」
「返事をした。良かった。動かないので老衰で死んでいるのかと思いました」
「馬鹿者め。羊羹の内容は聞いておったが、力を溜めておったので口を利けなかっただけじゃ。さて、全員予定の範囲に入ったな。やるとするか……」
そう言うと彼女は、目の前にある幅四十五センチほどの排水溝の蓋を開けた。
海沿い公園はこの排水溝が蜘蛛の巣のように張り巡らされている。僕達はあらかじめ一部排水溝を詰まらせ、しるこをなみなみと注いでおいた。しるこババアはそのしるこに手を入れ、呪文を唱えながら力を込めた。
すると、しるこが噴き出し、ガンガンガン……と、リズム良く次々と排水溝の蓋が跳ね上がり、しるこで出来た見上げるほど大きな壁が姿を現わした。その壁は僕達がいる場所の崖側以外を囲い込み、僕達を外界から隔離した。
「これで少なくとも日没まで結界内から逃げ出すことは出来ん」
イヤホンから歓声が聞こえる。
(うおぉぉ、凄え! 壁の説明は聞いていたが、実際に見てみると凄い迫力だな。あ、こちら赤褐色。神は壁にびびって俺達のことを放って西に走っていった。今追っている)
西? 振り返ると、こちらに向かってくる神の姿が見えた。
落とし穴はここよりも更に西側の大木の近くにある。そこへ誘導しなくては。
しるこババアは力を使い果たしたようで、動きが緩慢だった。僕は一人で落とし穴へと向かった。
落とし穴を通り過ぎ、距離を取ってから立ち止まり、後ろを向く。神が近付いてきている。
神は僕のことを見て、走る速度を落とした。どちらに進もうか、迷っている様子だ。だが、逃げ場はない。東と西と南側はしるこの壁に阻まれている。北側は海に面した深い崖だ。
神には僕達の攻撃を避け続けるか真向から勝負を仕掛けるかしか選択肢がない、はずだ。それも、落とし穴を中心とした位置で。
しるこの神は走るのをやめ、ゆっくりと歩き出した。そして、落とし穴のすぐ横で立ち止まった。
惜しい。ただ、本番はこれからだ。じっくりと追い詰めれば良い。
シルコとしるこレンジャーが到着し、僕達はしるこの神を取り囲んだ。
――次回予告――
ついにしるこの神を決戦の地まで導いた。
封印するまであと一歩。そう思えた時、神の発した一言で戦慄が走る。
果たして、作戦は成功するのか。
次回、しるこ地獄。
『第四十五杯目、おとしあながあるんでしょ? 悟られていた計画の巻』
乞うご期待。




