四十三、A線上の案は
さすがに野次馬も現われ出した。引き続きシルコは家々を破壊している。
早くしるこの神を地面に降ろさなければ、この辺一体が更地になってしまう。
そう思った時、神が落ちた。隣の区画に飛び移ろうと踏み込んだタイミングで家が消し飛んだのだ。
「コチラシルコ、『C4』付近ニ神ガ落チマシター」
(こちら赤褐色。目の前に降ってきたが、猫みたいに着地して『B4』に走っていったぞ)
(こちら錆色。『B3』は押さえてある。『B5』には臙脂色がいる)
「イヨイヨ『A』デスネー。私ハ一足先ニ公園ニ行キマス。シーユー」
シルコは屋根の上をまるで空でも飛んでいるかのように北へ向かって走っていった。
ついに『A』の道だ。僕は数日前の路上視察でのことを思い出した。
「やはり難関はこの『A』の道じゃな」
しるこババアが言った。僕達は全員、『A』の道こと海岸通りにいた。
片側三車線、しるこ町最大の道路だ。
「しるこの神にこの道を横断して貰わなければならない。じゃが、住宅地の道と違って一人二人で塞げる道幅ではない。誰かが追われていれば良いのじゃが」
「公園カラ挑発スルノハ、ドウデスカ? 私、ニッポンノ伝統的挑発方法知ッテマース!」
シルコがあまりにしつこく、そして自信を持って提案をするので、その案が採用になった。ただし、道を塞ぐ作戦と併用ということでだ。
(こちら赤褐色。神は『B4』を越えた。全員『A』へ急げ!)
引き続き赤褐色は追手役を務め、僕と錆色が『A3』付近を、ワインレッドと臙脂色が『A5』付近を防衛することになった。
しかし、神よりも先に『A』の道に着いたのはワインレッドだけだった。このままでは逃げられる。その時、シルコの声が聞こえた。
「ヤーイ、しるこノ神サン。オ前ノ母チャン、デ・ベーソ」
シルコは海沿い公園の入口にある階段の上から叫んでいた。
これが自信のある挑発だったのか。ただ、それを言うなら、『デ・ベーソ』というイタリア風な発音ではなく、『でーべーそー』だ。
ところが、その抑揚の違いはかえって苛立ちを与えたのか、神が食いついた。神は物凄い剣幕でシルコのもとへと向かい、二十段以上はあるであろう階段を一跳びで越え、拳を振り下ろした。
シルコは鍋で攻撃を防いだ。車が正面衝突でもしたかのような激しい音が響く。シルコはしるこを掬う暇もなく、空のおたまを振った。
ワインレッドが叫ぶ。
「急げ! シルコを援護するぞ」
僕は走りながら、マイクに向かって報告をした。
「お婆々様、聞こえていますか? 公園に着きました」
しかし、返事がない。しるこババアは『A3』付近の入口にいるはずだ。
「お婆々様のところへ向かいます」
そう言って、僕は西に針路を変えた。
シルコと神が打ち合う音が背後からする。
神との接近戦は圧倒的に僕達が不利だ。神の攻撃は、拳にしろ蹴りにしろ、かすっただけで死に至る。それに対して僕達はおたまもしくは箸しかダメージを与える手段がない。一対一で打ち合いを演じられるのはおそらくシルコだけだろう。しかも、それも長く続くものではない。急いで戦いの舞台を整えなくては。
『A3』付近の公園の入口には、座禅を組むしるこババアの姿があった。




