四十二、あなたこそ破壊神
しるこの神は、臙脂色を追って『4』の道を北上していた。
(こちら錆色。目の前に神の背中が見えているが、攻撃せずにこのまま臙脂色を追わせとくぜ。俺は『3』の道の防衛に移る。臙脂色、頑張れよ)
僕は『B』の道に到着した。もうすぐ臙脂色と神もこの道に来るはずだ。
(臙脂色だよ。『A』まで走るのは無理だあ。このままじゃ、追いつかれる!)
「臙脂色さん。次の角を右に曲がって下さい。僕が神の足を止めます」
僕はそう言って力を溜めた。
臙脂色の姿が見える。彼は角を曲がり、僕の方へ向かって走ってきていた。死角になって見えないが、すぐ背後に神がいるようだ。
「僕が合図したら、横に跳んで下さい」
(わ、分かった。早くしてくれえ……)
目標まで一区画以上の距離がある。限界まで力を込めなくては。
そう考えている時、神の左手があがるのが見えた。いよいよ臙脂色を捕らえようとしているようだ。
「今です!」
僕は叫び、勢い良く右腕を振った。
一直線にゆで小豆が飛んでいく。臙脂色が横に飛び、すぐ背後にいる神の頭にゆで小豆が当たる。神の体は後方に吹っ飛んだ。
僕が駆け寄ると、神はヨロヨロと立ち上がろうとした。その頭は三分の一ほど吹き飛んでいた。
臙脂色が追い討ちを掛けるようにゆで小豆を投げる。神の体に穴が開き、辺りにしるこが散る。しかし散ったしるこは軟体生物のように動きだし、すぐに神の体へと戻った。
神が立つ。頭が弱点だったとかいう新しい発見はないようだ。
神は傷が完全に癒えていないにも関わらず、何か仕掛けてくるつもりか、力を溜めるように体を屈めた。僕と臙脂色は身構えた。すると神は跳んだ。それは僕達の方ではなく、屋根の上だった。
「こちら臙脂色! 神が『C4』方面に逃げた!」
その報告に赤褐色が応じる。
(は? 南下してるじゃねえか! どの道にいるんだ)
「屋根の上です。僕が追います」
僕は心のしるこを黒く沸き立たせ、そのエネルギーを足へ移動させた。
跳べ。
一跳びで屋根にあがる。しるこの神はまだ遠くへ行っていない。僕はゆで小豆を投げた。しかし、狭い道とは違って縦横無尽に屋根の上を飛び回られ、全く当たらない。
僕が苦戦していると、一本向こうの『C』の道からシルコがあがってきた。シルコからはどす黒い気配が感じられる。
シルコは額に血管を浮かび上がらせ、しるこを鍋から掬い、大きくおたまを振った。しるこの塊が放たれる。塊は虎に姿を変え、神へ向かっていった。
駄目だ。凄い力を感じるが、スピードが遅い。
案の定、神は楽々とジャンプでそれをかわした。だが、虎が足元の家を吹き飛ばし、神は足場を失って焦ったようだ。倒れずに残った柱を蹴飛ばし、隣の屋根に滑り込む姿勢で跳んだ。
「屋根ノ上ヲ逃ゲ回ルナラ、屋根ヲナクセバ、良インデスヨー」
シルコは立て続けに虎を放った。神がかわす。家が次々と吹き飛んでいく。
「ハッハッハッハッハッ、町ノ平和ハ私ガ守リマース!」
あんたが言うな。




