四十 、包囲網
一週間前のことだ。
「特訓も順調じゃ。そろそろ神を追い込む方法を具体的に決めようではないか」
そう言ってしるこババアは地図を広げた。
「よいか。神は十七時に町役場の催しを終えると、本町三丁目と四丁目を通り、しるこヶ丘北側のシルコロシアム方面へ向かうということまで分かっておる。追い込み作戦を決行するのは、この通行人の少ない本町三丁目と四丁目じゃ。この辺りは新興住宅地で道が碁盤の目のように走っておる。この横に走る道を北から順に、A、B、C、D、E、F、Gとする。縦に走る道を西から1、2、3、4……9とする。ここまでは良いか?」
彼女は地図にペンで線を引き、僕達の顔を見た。僕達は頷く。
「承知の通り、罠はAの道よりも更に北の海沿い公園に仕掛けておる。神はFの道を西に向かって通っておるので、これを北へ誘導しなければならん。理想としては罠から最も近いAと3が交差する点へ誘導するのが良いじゃろう」
そこで僕は尋ねた。
「誘導って、つまり、道を塞ぐということでしょうか」
「うむ。東西と南へ抜ける道を塞ぎ、北に逃がす」
臙脂色が言う。
「神が逃げるとは限らないじゃないか。戦いを挑んでくるかも」
「それは、願ったり叶ったりじゃ。北へ逃げれば良い。追い込むよりも簡単じゃろう。じゃが、あやつは面倒臭がりなのか、前の対決で逃げておる。じゃから今回も逃げることを前提に考えようではないか」
シルコが地図を指し示す。
「『A3』ニ誘導スルナラ、マズ『F3』ノ周リノ、コノ『F2』、『F4』、『G3』ヲ塞イデ、次ニ『E2』、『E4』ヲ塞グデ合ッテマスカ?」
「すんなりと北へ真っ直ぐに行ってくれるならば合っているじゃろうな。じゃが、包囲網を突破されることもあるやも知れん。神は西側に向かっておるので、余裕を持って三つほど東側の十字路で仕掛けた方がよいじゃろう。つまり、この『F6』じゃ」
それから毎日、僕達は本町三丁目と四丁目を視察した。頭で考えるのではなく感覚で地理を把握出来るまで、何度も走り込んだ。
そして、今日という日を迎えた。
『F6』の十字路に立つしるこの神は、自分を取り囲む不審者をしるこにしてしまうべきか、無視して逃げるべきか、悩んでいるようだった。
そのように悩むであろうことは想定の範囲内だ。僕達の作戦の基本は逃げて貰うこと。その為には、まず面倒な奴らだと思って貰わなければならない。
だから、一撃目は大袈裟に撃つ。
シルコが大きくおたまを振る。同時に錆色が何十粒ものゆで小豆を投げる。しるこの神は危険を察し、素早く横に飛んだ。
的を失ったしることゆで小豆はブロック塀に当たり、激しい爆発を起こした。ブロック塀が吹き飛ぶ。
シルコのしるこに至っては、塀の向こうの民家まで大きく破壊していた。
「チッ……」
神が舌打ちをし、そして、北に向かって走っていった。
ここまでは予定通りだ。




