三十九、祭りの始まり
町役場の駐車場には特設会場が設けられていた。入口の垂れ幕には、『夏休みキャンペーン、しるこの神祭り』と書かれている。
大きなテントの下に長テーブルを連ねた福引会場が設置され、その奥には野外ステージがあった。
そのステージ中央、煌びやかな椅子には、しるこの神が座っている。
しるこ町主催の催しとはなっているが、実際は町長、白玉総一郎が独断で決行したもののようだ。立ち並ぶ屋台は全て白玉のしるこ屋の臨時出張所であるし、何よりメインイベントの抽選会が職権乱用以外の何物でもない。白玉のしるこ屋で食事をすると一店舗毎に一スタンプが貰え、そのスタンプが三つ集まると一回福引が出来るというものなのだ。
福引の景品は、三等しるこギフトセット、二等しるこ海岸ホテル宿泊券、そして一等、名誉町民になる権利、となっている。
ガラガラ、ガラガラと回転抽選器の音が休みなく鳴っている。連日大盛況だ。
「おめでとうございます! 一等の名誉町民になる権利です! 銀座二丁目の木下さんが名誉町民になる権利を得ました! 皆さん、拍手をお願いします!」
大袈裟に騒ぐ司会者の言葉を聞いて、隣にいる赤褐色が愚痴を零した。
「また、一等賞だよ。一等賞しか出ねえんじゃねえか?」
「聞いた話だと、しるこになった人の身元を確認するのが大変なので、抽選会の名を借りて管理をしているみたいですよ。あ、また即権利執行みたいですね」
「くそ。見たくねえな」
一等を得た女が嬉しそうにステージに上がる。同時に、偉そうにふんぞり返っていたしるこの神が立ち上がる。
「おめでとー」
軽薄な笑みを浮かべながら、神は手を差し出した。その手を握った女の形は瞬時に歪んだ。
「ああ、感激。感激が、溢れる、あふ、溢れ、る、る、るべばびぼー……」
女の口から、鼻から、目から、黒い液体が大量に溢れ出す。
しるこの神は嬉しそうだ。
腕時計は十七時を示していた。しるこの神祭りの終了時刻だ。
司会者が、「また明日」と手を振り、係員が片付けを始めた。その様子を見て、僕は無線のマイクに向かって喋った。
「こちら追跡班。しるこの神祭り終了しました。後を追います」
(了解!)
複数の声が返ってくる。
一仕事終えた神は一人で町役場を後にした。ゆっくりとしるこヶ丘方面へ歩いていく。僕と赤褐色は気付かれないように尾行した。
「……間もなく三丁目に入ります。予定通り『F』の道を通りそうです」
(コチラシルコ。分カリマシタ。『F5』デ待機シマース)
(こちら錆色。『G6』は任しとけ)
神が本町三丁目に入って四つ目の十字路に達した時、僕達は姿を晒した。
神の背後に僕と赤褐色、正面にシルコ、左側に錆色、三方向から囲まれた神は戸惑っている。
神の正面に立つシルコがおたまを構えながらこう言った。
「サア、しるこノ神サーン、本当ノオ祭リノ始マリデース……」




