三十四、さあ、みんなで考えよう
「ご苦労じゃった」
しるこババアの自宅の倉庫に鍋を運び込むと、彼女は静かに労いの言葉を述べたのだった。
町の南東にある森の中にしるこババアの自宅はあった。初めて訪れる彼女の家は広い庭を備えた三階建ての豪邸だ。いつも町角に佇んでいるので、今まで彼女は路上で生活しているものだとばかり思い込んでいた。
「さて、問題はこれからじゃな。どのようにして神を鍋に閉じ込めるか考えなければならん」
広い応接間でしるこを食べながら話し合いを始める。
しるこババアの言う通り、鍋に封印出来ることが分かっていても、あの神を鍋に入れることは困難だ。
各々が唸り声をあげる中、最初に発言したのはしるこレンジャーだった。
「鍋を埋めて落とし穴にする?」
その提案にしるこレンジャーが応じた。
「偶然穴に落ちるのを期待するのか? 気が長過ぎる」
しるこレンジャーが口を挟む。
「しかし、押し込むことは不可能に近いぞ」
しるこレンジャーが頷く。
そこで、しるこババアが口を開いた。
「お主ら、前回戦ってみて気付いたことはあるかの?」
僕は決戦の日のことを思い返しながら呟いた。
「しるこの神は無敵でした。どんな攻撃も一切受け付けない。全てを一瞬でしるこにして、無効化して……あれ? いいえ、二回だけ攻撃を受けていました。一回目は子供の投げた白玉団子、二回目はお婆々様のしるこによる攻撃。でも、白玉団子は当たっても問題ないと判断したから、しるこにしなかっただけかも……」
しるこレンジャーが前のめりの姿勢で声を出す。
「あ、あと俺達のおたまの攻撃を避けていたぞ。しるこにはされなかった!」
「そういえば、神の攻撃を箸で防ぐことも出来ました」
「うむ、やはり。鍋に封印出来ることからそんな気はしていたが、あやつはしるこに関する物をしるこにすることは出来ないのじゃ。鍋、おたま、箸、おそらくお椀や匙も無理じゃろう。それから、白玉団子、ゆで小豆、しるこそのもの……」
「要するにだ、そういった物で攻撃して、鍋まで追い込めば良いんだな」
「でも、どれも武器としてはいまいちではありませんか?」
「しるこ力さえ使えば問題ないじゃろう」
その発言を聞いて、僕は首を傾げた。
「シルコリョク? なんですかそれは?」
「お主ら、シルコロシアムの決闘は見たことあるかのう? あの戦いで用いられるのが、しるこ力じゃ。シルコ、見本を見せておやり」
「ハーイ、分カリマシタ」
そう言うとシルコは、おたまでしるこを掬い、都合良く置いてあった鉄板に向けて勢い良く投げつけた。鉄板はしるこの当たった中央部分が大きく凹んだ。
「これがしるこ力による攻撃じゃ。心のしるこが爆発する際の力を利用したものじゃ」
意味が分からず僕が戸惑っていると、しるこババアは詳しく説明を始めた。
「しるこが爆発する際に波が生じるじゃろう? その波にしるこを乗せるのじゃ。サーフィンや、風に乗る紙飛行機を想像すれば分かりやすいかのう」
「いえ、しるこが爆発する辺りからもう既に意味が、その、ちょっと……」
その場にいる皆が不思議そうに僕のことを見つめた。




