二十九、最初から決まっていた
「うおぉー!」
叫びながら『土木』がツルハシをしるこの神の頭めがけて振った。
神は避ける素振りさえ見せない。ツルハシは神の体に触れると同時にしるこになり、思い切り空振りの形となった『土木』は体勢を崩した。その横腹を神は蹴飛ばした。『土木』の腹が瞬時に溶け、体が上下に千切れて吹き飛ぶ。
続け様に、『コンドミニアム』がスコップを突き出したが、やはりそれもしるこになり、彼の体は地面の染みになってしまった。
『頭取』が叫ぶ。
「土木―! コンドミニアムー!」
計画段階でのしるこ化に掛かかるとされていた数秒という時間は、単にしるこの神が本気を出していなかっただけなのだ。
作戦は根本から間違っていた。接触と同時にことごとく武器がしるこになってしまうのでは、ダメージを与えることは不可能だ。しかし、皆は仲間を失ったことで冷静さを失っていた。武器を構え、次々と神に向かっていく。
『飛脚』が持ち前の脚力を活かして素早く神の背後を取った。鍬を首めがけて振る。次の瞬間、『飛脚』は青い縞のシャツだけ残して武器と同時にしるこになった。
「俺もやるぞ!」
『モブ一』が吼える。
しるこババアは叫んだ。
「皆、落ち着くのじゃ。行っては駄目じゃ。モブ一、お主は特に駄目じゃ」
だが、誰も話を聞かない。『モブ一』の体は散った。
続けて、『モブ二』、『モブ三』もしるこになった。
その様子を見た『頭取』は、無言で息子の頭をクシャクシャと撫で、そして、日本刀を構えて神に向かって走っていった。直後に、湿った音が響く。
しるこの神の周りはしるこまみれになった。
特攻せずに踏み止まった仲間は、呆然とそれを眺めた。神が恍惚の表情を浮かべながら近付いてくる。しるこババアが持参したしるこの鍋の中に手を入れ、何やら構えを取った。
神が更に一歩近付く。
「お父さんとお母さんを返せ!」
『頭取』の子供が叫び、ポケットから取り出した何かを投げつけた。
ペチッ。
しるこの神の頬に白玉団子が張り付いた。
白玉団子はジワジワと剥がれて地面に落ちた。神はそれを見下ろし、それから再び視線を上げて、僕達を強く睨みつけた。
「おまえら、おまえら、なまいきだぞ!」
そう言うと神は元いた場所に走って引き返し、地べたに広がるしるこをつかんで僕達に投げつけてきた。
拳骨大のしるこの塊が子供にぶつかりそうになり、『スーツ』が覆いかぶさるようにかばう。『スーツ』は、やり遂げた顔をして溶けていった。
しるこの神は次々としるこの塊を投げてきた。武器で身を守ろうとした者もいたが、塊は武器を溶かし、そのまま仲間の体を蝕んだ。
そして、いよいよ僕の所へ塊が飛んできた。僕は恐怖のあまり体が思うように動かず、ただ目を閉じた。
目を開けると、箸で塊をつかんでいた。反射的にそうしたようだ。慌てて塊を箸ごと捨てる。どうにかしるこ化は免れたが、状況は一切好転していなかった。
どうしたら良いんだ。どうしたら良いんだ。どうしたら良いんだ。
そう思った時、砂利の山の上に五人の人影が現われた。




