二 、ドスコイなんて言わせないで
幼馴染のジョニーに電話で呼び出された。
大事な話があるから来て欲しい、とのことだった。
ジョニーは平屋の一戸建てに独りで暮らしており、お互い用事がある際には、その家で集合するというのが暗黙の了解となっている。
その為、疑問に思うこともなく、言われるがまま家を訪ねることにした。
約束の時間午後三時。扉を叩く。しかし返事はない。インターホンがないので何度か大声で名前を呼んでみるが、それでも応答はなかった。
真夏日で、町全体が火にかけられた鍋のようにグツグツと煮えていた。
日差しを遮るものがない玄関先では体を壊すと思い、扉に手をかけてみる。鍵は掛かっていなかった。
「おじゃまします」
勝手に上がり込み廊下を進むと、奥の部屋から人の気配が感じられた。襖をそっと開ける。すると、むせ返るような熱気が溢れ出してきた。
そこには関取風の太った男達が五人いた。男達はセーターやら半纏やらを何枚も着込み、コタツでしるこを食べていた。しかも、ご丁寧にお揃いのニット帽まで被っている。
「な、何をやっているんですか?」
とりあえず尋ねる。男達は声を揃えて苛立たしげに返事をした。
「見れば分かるだろ。しるこを食べているんだよ。しるこを!」
「こんなに暑いのに?」
「だって、食べたいんだから仕方がないじゃないか。おかわり!」
一人の男が涙を零しながらそう訴えた。
「でも、そんな我慢大会のような姿で食べなくても」
僕の一言で場が静まり返った。
男達は互いに顔を見合わせ、しばらくしてこう言った。
「しるこを食べるにはコタツと決まっているだろう?」
「…………」
「いかん。冷めるぞ!」
一人の男の声を合図に男達はお椀に意識を戻した。
やがて、コタツの中央に置かれた巨大な鍋は空になった。
「ごっつぁんです」×五。
男達は立ち上がり、僕の肩に手を置いて笑顔を見せた。
そして、ニット帽を脱いだ。
お、大銀杏?
「お前、『ちゃんこ鍋を食え』って思っただろ」
「い、いえ、思ってないです」
「しるこ食いてえんだよ! 食ったって良いだろ」
「…………」
「『ドスコイ』って返事しろ」
「ド、ドスコイ……し、しるこ、良いですよね……」
ここは、しるこの町。