二十八、開戦ドン
町の南、山沿いの採石場跡地にこるし屋達は集合した。
いつもの面々、加えて『頭取』の幼い息子が来ていた。『頭取』曰く、奥さんの仇を取るところを子供に見せたいとのことだった。
他地域から援軍も来るはずだった。しかし、一向に姿を見せない。
苛立った『土木』が、ぼやく。
「逃げやがって。だから信用出来ねえって言ったんだ」
僕は、全員しるこの神にやられたのだと悟ったが、そのことは誰にも言わなかった。夢のことを信じて貰えるとも思っていなかったし、ネガティブな情報で作戦が延期になったら堪ったものではない。
しかし、いつもの面々だけでは二十人にも満たない上、問題は人数のことだけではなかった。予定では本町の同士が一人当たり二、三回攻撃出来るだけの武器を用意することになっていた。現状では一人一回分の武器さえ行き渡らない。
計画を続行するか否かという迷いが皆に生じていた。
「今やるべきです」
あず美や母のことを想い、そう提案したが、しるこババアを含め誰も返事をしない。その時、偵察の『飛脚』が戻ってきた。
「しるこの神はしるこヶ丘を過ぎました」
『スーツ』が応じる。
「予定よりもずいぶん早いな」
「奴さんは住宅地でお食事中です。ここへの到着は予定通りになるかと」
お食事中、つまり誰かがしるこにされているということだ。
それを聞いて、『頭取』が決断を下した。
「青年の言う通り、今やるぞ。決戦の日を改めたところで万全の準備を整えられる保障はない。何より、倒すまでの時間が延びればそれだけ犠牲が増えるんだ」
全員が覚悟を決めて頷いた。
「武器になりそうなものはこれくらいしかない」
そう言って、『スーツ』が僕に箸を一膳差し出してきた。不安そうにそれを受け取ると、『警官』が僕の肩に肘を掛け、自慢げに拳銃を振って見せた。
「心配ねえさ。俺が奴の眉間に風穴を開けてやるからよ。こいつでな」
正午が近付き、各自、所々に積んである砂利の影に身を隠す。
「来たようじゃ」
しるこババアが言った時、遠くにアフロヘアが見えた。
徐々に近付いてくる。
まだだ。あいつがこの空き地の中央に来るまで息を殺して待て。
中央で足を止める。
僕達は一斉に飛び出して、しるこの神を取り囲んだ。
「挨拶は無しだ」
そう言って『警官』が銃を撃った。
自慢していただけのことはあって、弾丸は的確に眉間を捉えた。神の体が仰け反り、黒い液体が散る。
しかし、神は倒れなかった。それどころか、体を起こし、僕達に向かって笑顔を見せ眉間の液体を拭った。
そこには傷一つ付いていなかった。
慌てて『警官』が立て続けに発砲する。全て神の体に命中するが、やはり倒れない。弾は神の体に突き刺さることなく、着弾と同時にしるこに変わっていた。
しるこの神は体に付いたしるこを手に取り、『警官』に向かって投げた。
『警官』の眉間にそれが当たった瞬間、彼の体は針を突き立てられた風船のように弾けた。
神は、物をしるこにするのに一秒も必要としなかったのだった。




