二十七、前夜の夢
決戦前夜に夢を見た。
深夜、二人の男がしるこ町の西側の畑で何やら荷物を運んでいた。
「田中さん! あっちにも納屋がありましたよ」
若い男が言った。それに対し、もう一人の男が応じた。
「馬鹿、本名で呼ぶなよ。もし素性がばれたら気不味いだろ」
少し離れた所にも数人の人影があった。皆、農具を運んでいるようだ。
「しかし、せっかく公務員になったのに農具泥棒をすることになるなんて……」
「仕方ねえだろ。銀座のこるし屋は頭数を揃えたんだ。俺らは武器ぐらい調達しねえと」
二人はしるこ町本町に暮らす町役場の職員で、職場への不満から、こるし屋に素性を隠して参加していた。
彼らは決戦に向けて準備をしている最中だった。
「こんなことばれたら、首になりますよ」
「何もしなくてもペーペーは時間の問題で首になるんだ。名誉町民遺族への報奨金の支払いで町の財政はボロボロ。しるこの神を倒さねえことには助からねえ」
「身内が名誉町民になれば、お金を支給される側になるんですけどねぇ」
「馬鹿、じゃあ、お前がしるこになれよ」
二人は集めた農具をトラックの荷台に載せた。既に鍬や鎌が百丁ほどある。これだけあれば十分だろうと思い、仲間に引き揚げることを提案しようとしたが、誰の姿も見当たらなかった。気配を探る。
その時、茂みの方から声が聞こえた。
「う……うま……しる…………うまい……」
うまい? 仲間達は一仕事終えてお茶でもしているのだろうか。二人は顔を見合わせ、互いの意思を確認するように頷き合い、声のする方へ向かった。
そこには、しるこの屋台があった。スカーフを頭から被った女が大きな鍋の中身を掻き混ぜている。仲間の姿はない。すれ違ったようだ。
二人は体を動かした後なので腹が減っていた。そこで、前夜祭と称して二人でしるこを食べようということになった。
女から差し出されたしるこは非常にうまかった。
「こんなに美味しいしるこは食べたことがないです。頬っぺたが落ちそうですよ」
「ああ、体がとろけそうなほどだ」
ずっと無言だった女が、その二人の会話を聞いて笑い、こう言った。
「それはそうですよ。そのしるこには、神の力が込められているのですから」
「え?」
若い男が言った時、彼の頬はだらしなく垂れ下がり、地面に落ちた。
それを見たもう一人の男は目を見開き、叫ぼうとしたが、声が出なかった。顎が外れ、更に声帯が溶けていたのだ。
二人とも口から喉が溶け、呼吸をする度、首の辺りがゲボゲボという音を鳴らしながら泡立った。溶ける範囲が徐々に広がり、胃袋が破け、腹からしるこが流れ出る。
今まで暗くて気が付かなかったが、地面の至る所に黒い水溜りのようなものがあるのが見えた。
全滅したんだ。
そう思った時、二人は完全にしるこになってしまった。
しるこの神が、女の背後でその様子をじっと見つめていた。




