十九 、とても美味しいしるこ
幼馴染のジョニーと半年以上も連絡がつかない。近頃、不気味な夢ばかりを見るので、彼のことが心配だった。
そこで僕は、再び彼の家に行くことにした。
玄関先で彼の名を呼んでも応答がない。僕は勝手に家に上がり込んだ。すると、奥の部屋から人の気配がした。襖をそっと開ける。
そこには、四人の関取風の男達がいた。男達はコタツに入り、とても大きな鍋を囲んで泣きながらしるこを食べていた。
「な、何をやっているんですか?」
「見れば分かるだろ。しるこを食べているんだよ。しるこを!」×四。
デジャブ?
以前にも同じ光景を見たことがある。ただし、前回は五人いたはずだ。
「もう一人、いませんでしたっけ?」
「仕方がないだろ。あいつは美味しくなっちゃったんだから!」
男達は益々涙を流した。
意味が分からず首を傾げていると、一人の男が話し始めた。
「感情的になって悪かった。実はあいつは…………ああ、昼間のことから話した方が分かり易いかな。今日、五人でゲーセンに行った帰りに、気味の悪い奴に会ったんだよ――
五人が歩いていると、向かいからボサボサの頭をした青年が歩いてきた。
最初は気にも留めなかったが、青年が張り手のポーズをしたので放っておけなくなった。性というやつだ。
男の一人は上半身裸になって四股を踏んだ。青年も構えを取った。
呼吸を整え、二人は同時に前へ飛び出した。タイミングはバッチリ。男は開いた手を青年の喉元に伸ばした。それを青年は軽くいなし、体を捻って下から突き上げるように男の腹に張り手を決めた。
その後、青年は何事もなかったかのように何処かへ行ってしまった。
叩かれた場所に痛みはなかった。ただ、手の形をした火傷のような痕が腹にクッキリと残っていた。
――俺達のことを関取と思って、そういう悪戯をしてきたんだろうなって思ったよ。たまにいるんだ、そういう奴。でも、悪戯では済まなかったんだ――
張り手を受けた男は、しばらくして道端にうずくまり、食べてもいないしるこを大量に吐き出した。腹の辺りが気持ち悪いと言うので残りの四人がそこを確認すると、先程の火傷のような痕の範囲が広がっていた。
四人は、休ませなければならないと思い、彼をジョニーの家まで運び込んだ。しかし横に寝かせても男の体調は戻らなかった。それどころか、腹の痕が更に大きくなり、甘い臭いを放ちながら溶け始めていた。
噂のしるこ化だ。
その場にいる全員がそう思った。その時、溶けつつある男が自ら巨大な鍋に入った。このままでは部屋をしるこまみれにしてしまうから、とのことだった。
――某有名アニメのオープニングで、果物が上下に割れて中から登場人物が現われるシーンがあるだろう。あんな感じだったよ。あいつは、両手で鍋の蓋を頭上に掲げ、鍋の中に立ったんだ。次の瞬間、あいつの体は消えて、蓋が閉じた。この鍋が、それだよ」
男はコタツの上の鍋を指差し、声を震わせながら、こう告げた。
「このしるこ、とても美味しいんだぜ……」
四人の関取風の男達は、亡き友を弔うように、泣きながらしるこを食べ続けた。
僕は思った。食うなよ。




