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しるこ地獄  作者: gojo
第一部 しるこ日和
20/93

十九 、とても美味しいしるこ

 幼馴染のジョニーと半年以上も連絡がつかない。近頃、不気味な夢ばかりを見るので、彼のことが心配だった。

 そこで僕は、再び彼の家に行くことにした。



 玄関先で彼の名を呼んでも応答がない。僕は勝手に家に上がり込んだ。すると、奥の部屋から人の気配がした。襖をそっと開ける。

 そこには、四人の関取風の男達がいた。男達はコタツに入り、とても大きな鍋を囲んで泣きながらしるこを食べていた。


「な、何をやっているんですか?」


「見れば分かるだろ。しるこを食べているんだよ。しるこを!」×四。


 デジャブ? 

 以前にも同じ光景を見たことがある。ただし、前回は五人いたはずだ。


「もう一人、いませんでしたっけ?」


「仕方がないだろ。あいつは美味しくなっちゃったんだから!」


 男達は益々涙を流した。

 意味が分からず首を傾げていると、一人の男が話し始めた。


「感情的になって悪かった。実はあいつは…………ああ、昼間のことから話した方が分かり易いかな。今日、五人でゲーセンに行った帰りに、気味の悪い奴に会ったんだよ――


 五人が歩いていると、向かいからボサボサの頭をした青年が歩いてきた。

 最初は気にも留めなかったが、青年が張り手のポーズをしたので放っておけなくなった。性というやつだ。

 男の一人は上半身裸になって四股を踏んだ。青年も構えを取った。

 呼吸を整え、二人は同時に前へ飛び出した。タイミングはバッチリ。男は開いた手を青年の喉元に伸ばした。それを青年は軽くいなし、体を捻って下から突き上げるように男の腹に張り手を決めた。

 その後、青年は何事もなかったかのように何処かへ行ってしまった。


 叩かれた場所に痛みはなかった。ただ、手の形をした火傷のような痕が腹にクッキリと残っていた。


 ――俺達のことを関取と思って、そういう悪戯をしてきたんだろうなって思ったよ。たまにいるんだ、そういう奴。でも、悪戯では済まなかったんだ――


 張り手を受けた男は、しばらくして道端にうずくまり、食べてもいないしるこを大量に吐き出した。腹の辺りが気持ち悪いと言うので残りの四人がそこを確認すると、先程の火傷のような痕の範囲が広がっていた。

 四人は、休ませなければならないと思い、彼をジョニーの家まで運び込んだ。しかし横に寝かせても男の体調は戻らなかった。それどころか、腹の痕が更に大きくなり、甘い臭いを放ちながら溶け始めていた。

 噂のしるこ化だ。

 その場にいる全員がそう思った。その時、溶けつつある男が自ら巨大な鍋に入った。このままでは部屋をしるこまみれにしてしまうから、とのことだった。


 ――某有名アニメのオープニングで、果物が上下に割れて中から登場人物が現われるシーンがあるだろう。あんな感じだったよ。あいつは、両手で鍋の蓋を頭上に掲げ、鍋の中に立ったんだ。次の瞬間、あいつの体は消えて、蓋が閉じた。この鍋が、それだよ」


 男はコタツの上の鍋を指差し、声を震わせながら、こう告げた。


「このしるこ、とても美味しいんだぜ……」


 四人の関取風の男達は、亡き友を弔うように、泣きながらしるこを食べ続けた。



 僕は思った。食うなよ。


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