十八 、アール十八の夢
翌日も夢を見た。
夜の繁華街。見たことのある場所。しるこ銀座の裏手にある通りだ。カラフルなネオンや飲み屋の看板が並んでいる。
その繁華街を、女が一人歩いていた。歳は二十代半ば。色気漂う出立ちをしている。女は顔を赤らめ、ふらついていた。酔っているようだ。その表情は、遊び疲れたという感じであった。帰るのが面倒、そう言いたげだった。
男の中にはそんな女の感情を察知する人種がいる。女が壁にもたれていると、三人の男が彼女を取り囲んだのだった。
「彼女、暇なの?」
ありきたりの文句。
女は険しい顔をして男達を睨み、何も言わずに再び歩き出した。好みのタイプではなかったようだ。
男達はその行動が気に食わず、彼女の肩を後ろから掴んだ。
「やめてよ。大声出すわよ!」
と、女は大声を出した。
男達はいよいよ本性を現わし、彼女のことを押さえつけた。
その様子を、白いシャツを着た青年が見ていた。彼は目を逸らすこともなく現場に近付いてきた。
女は助けを求めた。男達は一斉に青年を睨みつけた。
ところが、青年は更に近付いた。咄嗟に一人の男が女を押さえ、残りの二人がナイフをチラつかせる。
「何見てんだよ! 向こうに行けよ」
次の瞬間、青年はナイフの刃を握った。するとナイフは黒い液体に姿を変えた。
この青年は危険だ。そう察し、男達は目配せをして一目散に逃げていった。
女は青年に礼を言ったが、彼は何の反応も示さなかった。女には、その態度が魅力的に思えた。
「ねえ、何か予定ある? あたし、今夜は帰りたくないの」
そう言って、女は先程の男達よりも更に強引な調子で青年の手を引いた。
大きなベッドとガラス張りの浴室。青年は初めて見る光景をキョトンと眺めた。
「ねえ、お風呂入る? あたしは入るね」
浴室から女の声が聞こえる。しばらくすると、湯気で曇ったガラスの向こうに女の肢体が踊った。
女が浴室から出た時、青年はベッドの上で跳ねていた。女はクスクスと笑い、タオル姿のまま一緒にベッドで跳ねた。青年も笑う。
そして、笑い疲れた二人は自然と抱き合った。
女は青年の首に手を当て、肌を撫でながら胸元に手を移し、青年のシャツのボタンを外した。その仕草を青年は真似て、女の胸元に手をやった。
タオルが落ち、女の豊満な裸体があらわになる。青年は、興味深げに女の体を眺め、おもむろに乳房に触れた。そして、弾力を確かめるように手に力を込めた。
女は苦悶とも恍惚ともとれる表情を浮かべ、顎を上げた。
青年は更に力を込めた。すると、女の乳首が腫れ上がり、先端に穴が開いた。穴は次第に広がり、やがて褐色の石のようなものを吐き出した。小豆だ。
女は何も気付いていない様子だ。女の胸から湯気がたち、穴から黒い液体が垂れる。しるこだ。しるこに違いない。
青年は誘われるように乳首に唇をあてがい、しるこを吸った。
女は吐息をついた。彼女の顔は痩せこけ、窪みが目立ち始めていた。乳房が空気の抜けた風船のように萎む。続けて女の体中から骨の影が浮かび上がる。
次第に女は干乾び、糸が切れた操り人形のように両手足をだらしなく垂れ下げた。
豊満な肉体の女は既にいなかった。
そこには、人の皮を着た骨があるだけだった。




