十四 、しるこ対ぜんざい
シルコンバットにおいて、シルコ・ザ・グレートは無敵の王者だ。
その為、シルコに挑戦する者は少なかった。稀に挑戦者が現れようと、彼は、容赦なく秒殺したのだった。
その状況に大会本部は頭を抱えていた。
「ついに、彼を出場させるしかないな」
そう言ったのは、白玉総一朗だったという。
上原あず美に誘われ、僕はシルコロシアムまで観戦に赴いた。
なぜか普段よりも派手な演出のオープニングだ。
七色の照明が会場中をグルグルと照らし、最後に会場の中央に光が集中。その光の中心にシルコは立っていた。お決まりの、おたまを天にかざすポーズと空気を震わす雄叫び。
直後に、司会者の台詞が響く。
「日本人よりもしるこを愛する男、シルコ・ザ・グッレェートォー!」
大歓声が起きた。観客によるシルココール。
隣に座るあず美はシルコのファンだが、パニックを防ぐため、目深にキャップを被り、声を出さず強く拳を握っただけだった。
続けて、照明は競技場の入口を照らした。そこに一人の男の影が映る。
「シルコの最強神話を破るべく、ついに、ついにこの男が立ち上がった。しるこ町の歴史はこの男によって作られた。伝説の料理人……」
会場中が騒めき、「まさかあの人が」という会話があちこちから聞こえる。
「……マスタァー禅在!」
照明の指し示す先から、黒の作務衣を纏った細身の老人が入場してきた。
彼の名は、『禅在』。白玉総一朗の店の総料理長を務める男だ。この町のしるこ屋全てを実質動かしている人物である。
騒めきはこれ以上ないほどに増した。
しかし、シルコと禅在が向き合った瞬間、会場は静まり返った。
静寂の中、まずシルコが口を開く。
「オ師匠。オ久シ振リデース」
シルコにしるこの美味しさと作り方を教えたのは禅在、その人であった。
禅在の経歴は有名だ。今では教科書にも載っている。
元々彼は禅寺の僧であった。若き日の白玉総一朗がその寺を訪れた際、精進料理としてしるこを振舞ったのが禅在である。白玉はそのしるこの味を気に入り、料理長として彼をスカウトしたのだった。その後、白玉と禅在は手を取り合い、この町にしるこ屋を普及させたのだった。
シルコは深々と頭を下げた。禅在は笑顔で応じた。
「まあ、頭を上げなさい。お前も成長したものだな。今では礼儀を身に付け、どこからどう見ても日本人ではないか」
「アリガトゴザマース。ハッハッハッハッ……」
シルコはどこからどう見ても外国人であった。
久し振りの再会もつかの間、審判が二人の間に立った。
シルコの顔からも、禅在の顔からも、笑みが消える。
審判は両手を高くあげ、そして、掛け声と共にその手を勢い良く振り下ろした。
「ファイト!」




