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しるこ地獄  作者: gojo
第一部 しるこ日和
12/93

十一 、奇跡のしるこ

 しるこ町の協賛により一本の映画が封切られ、それは、町中で話題になった。


 映画のタイトルは、『奇跡のしるこ』


 主人公の家庭教師役にシルコ・ザ・グレート。

 そして、ヒロイン役にミスしるこの上原あず美が抜擢された。


 奇跡のしるこの物語はこうだ。


 幼い頃から、見えない、聞こえない、話せないの三重苦を課せられたヒロイン、上原あず美。彼女は家族の言うことを聞かずにわがままに育つ。

 ある日、家族の依頼を受け、バイオレンス教師、シルコ・ザ・グレートが彼女のもとにやって来る。


 前半、手掴みで人の皿から食べ物を奪うあず美を見て、シルコは、食事のマナーを教えようとする。反抗するあず美。強制的に教育しようとするシルコ。食卓で繰り広げられる格闘。

 もちろんシルコが勝利し、あず美は箸の使い方を覚える。しかし、あまりに苛烈な格闘を目の当たりにして、家族はシルコに家庭教師を降りて貰おうとする。

 そこで、シルコが言う。


「二週間期限ヲ下サイ。ソノ間、私ト彼女ヲ二人キリニシテ欲シイ」


 家族は渋々その要求をのむ。


 こうして二人の特訓は始まる。

 吹雪の中での兎跳び。海岸でのロードワーク。大木に向かっての正拳突き。滝。

 瞬く間に二週間は過ぎ、あず美は礼儀作法を学んだ。

 けれども、言葉というものを学ぶことは出来なかった。


 シルコは最終手段に出る。この映画のラストシーンだ。

 彼はあず美を台所に連れていき、大量のしるこを彼女に浴びせるのだ。

 瞬間、あず美が叫ぶ。


「しるこー!」


 二人は抱き合い、観客の涙を誘い、物語は閉じる。


 町の唯一の映画館は連日大行列。リピーターも多く、来館客数は町の人口を遥かに超えた。

 上原あず美はこの映画で一躍有名になり、彼女をテレビで見ない日はなかった。

 端正な顔立ち、しるこ色の髪、小豆のような瞳、白玉団子のような肌。ミスしるこということだけはあって、その姿は美しい。あとは売れる切っ掛けだけが必要だった。この映画は、その切っ掛けとして十分であった。


 ワイドショーやニュースでもこの映画は取り上げられ、制作秘話が語られた。前半の食卓の格闘シーンのために、あず美は数ヶ月に及ぶトレーニングを受けたらしい。クライマックスでは数万リットルのしるこが使われたという。



「ね。奇跡のしるこ、面白かったでしょ?」


 映画の帰り、しるこ屋で向かいの席に座る彼女が言った。

 僕は素っ気なく答えた。


「……うん」


 そんな僕の反応を気にも留めず、彼女は話を続けた。


「今回の映画の大ヒットのおかげでね、わたし、次の仕事も決まったの」


 嬉しそうにはしゃぐ彼女。


 彼女の名前は、上原あず美。


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