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プロローグ
西部樹には、小さい頃、他の人には見えないものがたくさん見えた。
怖くていつも泣いていた。周りからは変なやつだと言われ、肉親ですらも気味悪がった。
それらは本当にそこにいるのに。こっちにおいでとニタリと笑って手招きしている。
いやだ、と泣きながら逃げる。見えない闇から逃げる。
怖い、もう嫌だ、助けてよ──誰か。
そうやっていつものように泣いていると、頭上から少年の声が降り注いだ。
「あげる」
知らないお兄ちゃんが立っていて、手の平に緑の葉っぱを乗せてきた。
誰なんだろう、気味が悪い。いらない、と首を振るが、「まあいいから持っておけよ」と無理矢理握らされた。
ちょっと怖かったから、ガクガクと頷いて、とりあえずポケットに葉っぱを突っ込み、早足でお兄ちゃんから離れた。
その日から、樹は怖いもの達を見ることがなくなり、次第にそれらの存在すらも忘れていった──
一枚の葉っぱを握ったまま。