ケース1‐1
僕は引き籠りだ。
引きこもった理由は、今ではどうでもいいことだった気がするが一度引きこもってしまうと切っ掛けが無いとなかなか出れなくなってしまった。
変わらない日々を過ごしてもう5年がったていた。
そんなある日、兄から自分あてに荷物が届いた。
大きな箱の中には、ヘルメットと昔アニメで見たことがあるようなノーマルスーツ?プラグスーツ?のようなものと一通の手紙が入っていた。
「久しぶりだな、引き籠りの弟よ
どうせ引き籠るんならこっちの世界に引き籠れ。」
とだけ書いてあった。
相変わらずズカズカ言いたいことを言ってくれる兄だ。
訳が分からないので久しぶりに電話をかけてみることにした。
「どうかしたか?愚弟よ」
「ん、なんか荷物が届いたんだけど何コレ?」
「おぉ、届いたか。
おまえワンダーワールドプロジェクトってしってるか?」
「…一応。」
ワンダーワールドプロジェクト
それは、VRゲームが一般的になった現代で技術の粋と世界中の様々な企業や学者などが集まって仮想世界にもう一つの世界の構築することを目的とした一大プロジェクトである。
「うちの会社も参加しててな、明後日からプロジェクトで出来た世界のβ版の試験があってテスター募集にお前を押しといた。
届いた荷物は、ログイン用のデバイスとその世界とこちらの世界での行動なんかをお前の体にフィードバックするシステムがついいてて部屋に居ながら運動なんかもできる夢のスーツだ。」
兄の勤めている医療関係の会社も参加しているらしくそこで造られたフィードバックスーツと言うもののようだ。
「どうせ引き籠ってて大した事やってないんだからこれでもやって自分の金は自分で稼げ」
なんでもログイン時間で自給が発生するらしい。
「じゃあな」
そういって兄は、こちらの話は聞かずに一方的に言い放って電話を切った。
取りあえずヘルメット型のデバイスとスーツを取り出すと底にスーツなどの説明書が入っていた。
デバイスに関しては、ほかのVRゲームなどで使われるものとそこまで大差はないようでフルダイブと呼ばれる視覚だけではなく五感すべてをゲーム内に投影するためのもののようでプロジェクト専用の端末のようだ。
スーツはゴムのような素材でつま先から指先までを完全に包むようになっており少し大きめだが手首のボタンを押すことで中の空気が抜けて体にフィットする作りになっていた。
裸での着用が義務図けられていたのでちょっとはずかいい。
β版テスト当日
枕元にペットボトルに入れた水を置いて、フィードバックスーツに身を包みデバイスをかぶり布団に寝転がり寝心地を確認したが、大丈夫そうなので、スイッチを入れる。
眠るような感覚で意識が遠のいていく、気が付くと真っ白な空間に立っており目の前には司書さんみたいな女性が立っていた。
「ようこそワンダーワールドプロジェクトへ、案内を務めさせていただきます。」
そういってこの世界の世界観などを話し始める司書さん。
どうやらよくある剣と魔法のファンタジーを題材にしたVRMMOと呼ばれるゲームに近くて時間経過は、現実と同じ速度のようだ。
ただし、ここからが違うようで、まずステータス・レベル・スキルなどは存在しないということらしい、魔法などは存在するがこちらの世界で修業を積んで身に着けないと発現させることは出来ない。
生産などに関しても何でも作ることは出来るそうだが、スキルや職業などゲームによる補助は一切なく実際にプレイヤーが己の技術と知識のみで造らなければならないということらしい。
戦闘も同じで敵のHPは見えないし自分のHPも分からない上、デスペナルティはアイテムと所持金のすべて紛失、急所に当たれば一撃で死んでしまう事や部分欠損もあるそうだ。
更に、此方の世界での体であるアバターだが、フィードバックの関係で一切いじることは出来ずスーツから読み取った体をそのままこちらの世界でも使うそうだ。
つまり現実の体のスペックがそのままこちらの世界のスペックとなる為、体を鍛えることでしかステータス強化はあり得ないという鬼畜使用だ。
はっきり言って今の自分の体は引き籠り続けた結果ダルッダルのなまりきった状態だ。
こんな体で、戦えるとは思えないし何より武器なんか使ったことが無い。
実際VRゲームをやるのも今回が初めてでど素人もいいところだ。
取りあえず説明を聞き終えて質問を聞かれるが、特にないというと10000円の簡単な財布を渡される。
通貨は円のようだ。
無駄遣いしないように注意されて手を振られると一瞬の浮遊感と後に足に石畳の感触があった。
身体を見ると現実そのままの体に、グレーの布地の上下にサンダルと言ったところだ。
ポケットに財布をしまい、町を散策することにする。
目の前には、様々な人が行きかっていたがマーカーなどの表示はないためどれがPCでNPCなのかの判断は出来なかった。
取りあえず装備を整える必要があるが、こんな訛りきった体で何かできるとは思えないし、魔法なんかも使ってみたい何処かで魔法教室なんかやってないだろうか?
誰かに聞けばわかるかもしれないが、こちとら引き籠り家族以外となんて数年単位で話をしたことなんてない。
勇気を出して目の前にある八百屋?らしき店のおばちゃんに話しかける。
「す、すぃません!」
途中声が裏返ってしまったが何とか声をかけることが出来た。
「なんだい?」
「あ、あの…魔法を教えてもらえる場所はないですかんね?」
「シャキッとしなよ。男だろ!」
そういって背中を叩かれながら魔法の教えてもらえる場所を教えてもらう。
礼を言って去ろうとすると、なんか買って行けと笑いながら言われたのでリンゴのようなものを一つ買う。
値段は、50円だった。
もちろんイベントリなどと言った便利なものもなくアイテム名なんかのステータス画面も見ることは出来ない、完全に言葉が通じる異国に放り出されたようなものだ。
取りあえず買った果物をかじりながら教えてもらった場所へと向けて歩く。
歩くこと20分やっと到着することが出来た。
目の前には、小学校のような建物と言っても四角いコンクリートの建造物ではなく木造の建物とグラウンドがあった。
門をくぐり建物のドアを開けると受付に一人の男性が座っていた。
「すいません、こちらで魔法を教えてもらうことが出来るとうかがったのですが」
「ん?入校希望者かい?」
「はい、そうなります」
「じゃ、これに目を通してここに名前と年齢と拇印を押しな。」
どうやら規約と申請同意書のようだ。
書いてあることは、
・入学金3000円(勉強道具一式、カバン等支給)
・授業料1回 500円
・必ず魔法を覚えることが出来るという保証はない
・訓練中の事故等によるこちらの不利益に関しては自己責任
とまあこんなところだろうか。
とここで名前に関してどうするか今更ながら考える。
うーん。
いかん!
カタカナの長ったらしい名前しか思いつかん。
そんなの付けたら黒歴史が増えてします。
シンプルに、シンプル イズ ベストだ!
ん?!イズでいっか。
で年齢はそのままで後は、親指をここに押して完成。
3000円と申請同意書を提出するとカバンを渡される。
見た目は、A4サイズの黒色に赤い糸で紋章のようなものが刺繍されていた。
中を確認すると、基礎魔法概論・応用のすゝめの2冊とノートと筆記用具と20cmくらいの指揮棒を少し太くしたようなものが入っていた。
「早速授業受けていくか?」
と聞かれたので500円を払い言われた教室へ向かっていく。
そう今日から僕の新しい日常がスタートするのだ。
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