魔女の正体
――そして黒い被り物をした女に家に招かれた俺。木造ではないのでここが日本ではないということがわかる。これが噂に聞く異国の家というやつか……にしてもまあ、
「んー、あー、その、散らかっているのはどうか気にしないでくれ。何分こう見えても仕事が忙しいんだ。招いておいてすまないが……」
俺が言わんとしたことを察したこの女が言ったとおり随分と空の薬瓶が地面に散らかっている。踏みでもしたらどうする気なのだろうか……
「いや、異国で迷っていた俺を助けてくれただけで充分。贅沢は言わんさ。ただ――」
「ただ?」
「……被り物ぐらいとってはくれないか?」
これぐらいなら言っても失礼にはならんだろう。たとえ異国の文化だろうが俺は日本人だ。まあ、郷に入っては郷に従えというが好きで入ったわけではないのでな。
「……ッ!」
女が固まる。そんなに驚くことか? ……いや、驚いたと言うより焦っている……?
「……すまん、無理にとは言わない」
……まいったな。異国の人間はさっぱりわからん。しかし非礼をしたのは事実。謝らねばなるまい
「……いや、先程の非礼の詫びだ。見せはするが、気分を悪くしないでくれ」
……見せろと強要しておいて、その上暴言をはくような男に見えるのか?俺は
「……なんだ? 火傷や痣でも気にしているのか?」
「……もっと根本的なものだ。見ればわかる」
そう言って女は被り物を脱いだ。すると――
「……どうだ。これでいいか?」
「……っ!」
――するとそこには、絵にもかけぬ美しさと言っても過言ではない、腰まであろう長い漆黒の髪に紅い瞳をした幼い女が凛と立っていたではないか!
「……どうせお前も私を恐れ――」
「――っく!ははははは!」
「!? な、なんだ!何故笑う!」
「……はーっ。いやなに、お主があまりに美しいから思わず笑ってしまった。許せ」
その途端女は唖然とし、今にも涙を流しそうな表情で俺を見つめた。
「……お前は私が怖くないのか……? 恐ろしくはないのか!?」
「ん? ああ、確かにおそろしい程の美しさだな」
女は涙を浮かべだした。いかん、子供には可愛らしいと誉めるべきだったか?
「あー、いやそのだな、可愛らしいとも思うぞ、うん! 思わず稚児趣味に目覚めてしまうかのような……はっ!」
――馬鹿か! 稚児趣味などと俺は何を言ってるんだまったく。これでは女も呆れてしまうに違いない。
「ふふっ……あははははは!」
……ほれ見ろ、女も笑っ……笑って?!
「……貴様こそ何故笑う」
「くくく。いやあ、まさか焦るとは思わなくてな。チゴシュミ? が何かはわからないが」
「……それは関係ないから忘れろ」
「……ふふふ。わかった、忘れるとしよう」
……まったく、なんて女だ。それにしても玉のような肌なのに何をああも恐れていた?
「……なあ、何故火傷も痣もないのに見せることを戸惑っていたんだ?」
「……! お前、本当に何も知らないのか……?」
紅い瞳のせいか?確かに珍しいが、恐れより美しさのほうが
「――それは、この黒い髪と紅い瞳が忌むべき証だからだ」