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 空気は乾いていた。水分は完全に失われ、大気は硬く、そして暑い。海上であるはずなのに、どうしてこうも乾燥しているのだろうか。

太陽はさんさんと輝き、照りつける日差しは、海上に大きな影を作り出していた。水面に浮かぶ巨大な黒い影。波のうねりとともに揺れ動く影は、まるで巨大な魚影のようだった。

しかし、海はただ平坦だ。遠くの方に陸が見えたが、それ以外は抑揚のない広大な水面。絶海に浮かぶ不思議な影。

陸に住む人々は、その影を神聖なものとして扱い、【神の影】と呼んでいた。誰もそこを冒さない。冒すと、神罰が下るとされていた。というのも、以前に何人かの勇敢な者たちが、【神の影】の謎を暴こうと向かっていったきり帰ってこないという事件が多数あったからだ。

【神の影】は地元ではかなり有名であり、一方では信仰し、しかし反面、恐れてもいた。

あるとき、地元民が止める声に耳も傾けず、【神の影】に向かい、そして帰ってきたという者が現れた。彼は陸に戻ると、待っていた者たちに、【神の影】の様子をありありと話し、そこで撮ったという写真もいくつも見せた。人々は最初こそ信じていなかったが、彼の詳細な報告は、人々に信用をもたらした。彼は地元民にいくつかの写真をのこすと、それきりどこかへ去っていったという。

これはほんの数年前の【記録】ではあるが、誰も知らない【記憶】である。人々の【記憶(れきし)】から消し去られた一つの知識であった。



 †



「機は熟した」

 男は、デスクから立ち上がった。

ピシっと整えられた黒いスーツに身を包み、黒い四角縁のメガネをかけ、知的な印象を見るものに与える。しかし、同時に彫りの深いその顔は見るものを威圧する。

彼の手には古びた紙が挟まれたクリアファイルがあった。その紙は破けていたり、日焼けして変色していたりしているが、その表面には何か文字が羅列されていた。

彼は窓の側へ行き、外を眺めた。海辺に建てられたこの建物からは、海が一面によく見える絶好の場所だ。

ただ、男はその景色を楽しむわけでもなく、ただただじっと海の遥か先へ焦点を定めていた。

「さあ、ここに集束する」

 男は胸ポケットから煙草を取り出すと、ライターで火を点けた。

「もうすこしで、辿りつけるのだ」

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