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6/

 それは突然現れた。

彼は突然現れた。

鎌状の巨大な刃が刀熾と操佳を襲った。

気づかないうちだったらやられるかもしれない。しかし、操佳はその攻撃に気づくことができた。それだけで、十分すぎるアドバンテージを得ていた。

操佳は、刀熾の足を払い、倒れさせた。敵との壁になっていた刀熾を倒すことで、操佳は敵の姿をはっきりと捉えることができた。

そうとなれば話は早かった。

統一言語(ランゲージオブバベル)による力で、自身の身体能力を最大限に上昇させる。手のひらの皮膚を超硬度にしてから、操佳は鎌の攻撃を受け止めた。しっかりと、その刃を握って離さない。

敵はとくに驚く様子もない。フードの陰に薄ら笑みを浮かべながら、鎌の柄を思い切り振り上げた。それで刃は操佳の手から解放された。彼はそのまま鎌をくるりと回して、再び構えた。

操佳も、刀熾の前に立ち、身構える。

「操佳……?」

 何が起きたのか、全く理解できていない刀熾は、なぜ自分が床に倒れてしまったかもよく分かっていなかった。

起き上がろうとする刀熾に、操佳は、小さな声で、

「刀熾、敵が来た。多分、刀熾の眼を潰した奴だと思う。でも、今ここでやりあうのは危ない……。だから、一旦退くわ」

「退くって言っても……」

「大丈夫、この周辺は【転移】に対するプロテクトはないから。刀熾はスピカと一緒にいて。私のタイミングで、【転移】させるから」



「なにをこそこそと話しているのかな……?」

 声が響く。中性的な声だが、どこか相手をバカにしたような響きを持っていた。

 くすくすと笑う声が聞こえてくる。

「ボクの名前はモルスって言うんだ。以後、お見知り置きを」

 モルスと名乗った男は、丁寧に深々と頭を下げた。

「今!」

 操佳はその瞬間を狙って、【転移】の力を使った。操佳たち三人は一瞬のうちにその場から姿を消した。

 残されたモルスはまだ頭を下げたまま、くすくすと嗤っている。

「おやおや。せっかく挨拶してる途中なのにな」

 モルスの身体が空気に溶けこむように透明になっていく。

「これは教育が必要だねえ」

 不気味な笑い声を残して、モルスも操佳たち同様消えていった。



 †



操佳の能力で瞬間移動した先は、小さな部屋だった。病院の個室のような印象を受けるが、あまり余裕のないつくりだ。

二畳半ほどの広さの部屋で、簡易のベッドが一つあり、それが部屋の半分を占領していた。

「ふう。とりあえずは逃げ切れたみたいね」

 ベッドの上に腰掛け、操佳は一息吐いた。

スピカもベッドの上にちょこんと座っている。刀熾としても座りたかったが、なんとなく操佳の真横に並んで座るのは変な感じがして、結局立ったままだった。

「なあ、さっきのは」

 刀熾は、さっきの人物について操佳に訊いた。まだ、視力はほとんど戻っていない。わずかにものの輪郭が感じ取れる程度で、しかし、焦点が合わずにぼやけてしまう。とにかく、見えるだけさっきよりもマシだった。

操佳はため息をついた。

「まあ、間違いなく【AH】でしょうね。しかもそれなりに強い3rdシリーズと呼ばれている個体。刀熾も聞いたでしょう? 彼の声。言葉。4thは言語機能が壊れているけれど、3rdは普通にしゃべるし、個性もある。人間とあまり変わらないコミュニケーション能力も備えているの」

「そっか。あれじゃあほとんど人間と変わらないな、本当に」

「うん。もともと、【AH】は人間を人工的に創ろうとしてできた存在だからね。そうなるのは当然なのだけれども。あれだけリアリティだから、社会に紛れていても誰も気づかないと、つまりそういうことだったの」

 その言葉は、今までずっと社会に【AH】が溶け込んでいた、と言っているようなものだった。すこしだけそういう世界について考えてみた刀熾はなんだか嫌な気分だった。もしかしたらクラスメイトにもヒトじゃない存在がいたかもしれないと思うとぞっとした。

しかし、逆に別に問題はないだろうと考えることもできた。それだけ溶け込めてるのだ。人間とその【AH】の差異なんて、人間同士の個性という差異程度のものなのではないだろうかと。

「刀熾。そう考えるのは、勝手だけれどね。ヒトと【AH】は違う。決定的にね」

 刀熾の考えてることを読んだ風に操佳が言った。

でも、と返そうとした刀熾だが口をつぐんだ。何を言い返すというのだろうか。刀熾としてもよく分からないが、操佳が【AH】を嫌っているらしいことだけはなんとなく感じていた。ならば、言っても無駄だろう。

刀熾も、あんな突然攻撃を仕掛けてくるような存在は、人間だってお断りだ。

 刀熾が【AH】について考えていると、操佳のあくびをする声が聞こえてきた。

「ふわぁ……あれ……なんだか眠くなってきちゃった」

 そう言う操佳の声は今にも眠ってしまいそうだ。

「お、おい。眠いって……そりゃ確かに、飛行機の中でも眠っていなかったみたいだし、わからないこともないけど、敵がいつ来るかわからないんだぞ!」

「まあ、……そうなんだけどね……」

 しばし、操佳は黙り込んだ。刀熾は本当にそうかが眠ってしまったのかとも思ったが、しばらくしてまた口を開いた。

「うん……、大丈夫。ここから周囲を調べてみたけれど、それらしい反応はないわ……だから、寝る」

 そう言うと、操佳はすぐにベッドに横になってしまった。

「ちょ、あ、おい……」

 声をかけてもすでに反応はない。

刀熾も、そしてスピカも目を丸くした。

すでに、操佳の寝息が静かに聞こえてきていた。

 操佳が大丈夫というのだから、ひとまずは大丈夫なのだろうが、刀熾は安心しきれなかった。まだ目もはっきり見えないため、今敵に来られたらどうしようもない。それに、スピカもいる。操佳がいないと何もできないのでは、という怖さがわずかにあった。

「俺にもできることか……」

 そんなことあるのだろうか、と思いながらも、刀熾は操佳の横に腰掛けた。

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