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俺とルールと彼女  作者: 幽々
小休憩
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もっとも危険な者 【1】

出会いは続く。 一つの出会いがあれば、次の出会いがあるように。 それはまるで繋がっているように、芋づる式と言えば聞こえは悪いけど、新たな出会いは新たな出会いのチャンスと言えば聞こえは良いかな。 言葉の響きは美しく、大勢の人はそれに対し心を躍らせるのかもしれない。


だけど、ここで問題が一つ。


「……で、なんの用事だよ」


「いやいや成瀬(なるせ)っち酷くね!? その反応めっちゃ傷付くって!」


俺が、新しい出会いを必要としていないということだ。 普通に西園寺(さいおんじ)さんとクレアとその妹で十分である。


で、そんな俺のもとを訪ねてきたのが武臣(たけおみ)。 一応は俺の知り合いだ。


「あ、え、えーっと……野田(のだ)くん、だったよね?」


「そうそう! いやぁ良かった! 西園寺に覚えられていただけで俺は良かったよぉ! 成瀬っちもう良いや、帰って」


「お前な……」


そして、現在は部室。 既に冬休みには入っているものの、特にすることがなく部室に足を運んだところ、西園寺さんも俺と同じ境遇で、こうして二人で時間を潰していたというわけだ。


そういや、西園寺さんの男性恐怖症も大分落ち着いてきているっぽい。 前まではこうして武臣と話すことさえできなかったのにな。


ちなみに、クレアは不在。 さすがにクリスマスイブの今日に全員が暇で部室にやって来るという最悪の事態は回避できそうで何よりである。


「そんで結局なんだよ。 クリスマスイブに寂しい奴だな」


「成瀬っちがそれを言う!? いや確かに俺は寂しい奴かもだけど、それは成瀬っちも西園寺も一緒だろ!? 二人でこうして……部室で……あれ、二人? 待てよ待てよ、二人で部室デート!?」


一人で盛り上がるなんて元気な奴だな。 ていうか部室デートってなんだよ。 実に良い響きじゃないか。


「えへへ、違うよ。 わたしも成瀬くんも、偶然会っただけなの」


そしてそれをあっさり否定する西園寺さんだ。 知ってたけどな。 もうそれくらいで一々落ち込む俺じゃない。


「もうその件については良いだろ。 それでなんでお前がここに居るんだよ? 鬱陶しいな」


「……成瀬っちさ、なんか機嫌悪い? 今日はなんか、落ち着きがあんまない気がするんだけど」


俺が? そんなこと、ないとは思うけど。 むしろ、あの小うるさい金髪女が居ないおかげで、俺は機嫌が良いくらいだ。


……と、自信満々で言いたいのだが、どうしてかそれは言葉にならない。


「お前が居るからだろ。 てか、なんでここに来た?」


「良くぞ聞いてくれたっ!」


嬉しそうに武臣は言う。 ちなみに今ので聞いたのは四回目だ。 こいつ馬鹿か、もしかしてただの馬鹿なのか。


「実はな、今日は成瀬っちに相談があったんだ……それも、最重要機密レベルで重要な相談だ」


「意味被ってるぞ」


「……重要な相談だ」


やっぱり馬鹿だ。 こんな馬鹿の相談に乗ってあげる俺は優しいなぁ。 いやでもまだ相談に乗るとは決めていないからそうでもないか。 俺って酷いなぁ……あれ、なんかおかしくね。


「なんだろ? 成瀬くん、気になるね」


いやまったく? そう思うのはきっと西園寺さんだけだぞ。 なんて思ったときだった。 部室の入り口から、声が聞こえる。


「ふっふっふ、話は聞いたぞ迷える子羊よ。 我が、特別に貴様を導いてあげましょう」


「何言ってるんですか……ってあれ? 成瀬と、西園寺と……新キャラ?」


「新キャラとか言うなよ! 俺は武臣だ!」


どうやら、クリスマスイブに寂しい奴は俺たち以外にも二人ほど居たらしい。 そしてクリスマスイブに全員が部室に足を運ぶという、最悪の事態が現実となった瞬間だった。


そんな馬鹿みたいなことがあったおかげで、武臣が部室にやってきた所為で悪くなっていた機嫌も、気付けば元に戻っていた。




「ふうん、それでクレアちゃんも成瀬っちの部活に入ったんだ」


「ええ、そうです。 ちなみに今日は、部室にある本を漁りに来ました。 リリアが暇だと言うので」


案外、意気投合している二人である。 まぁ、クレアにこうして話せる奴ができるのは良いことだな。 転入してきてから、俺と西園寺さん以外とはあまり親しくなっていなかったみたいだし。 クレア曰く、薄く広く交友関係は持った方が良いとのことだが……クレアの場合、その関係ってのがとてつもなく薄いからな。


「子羊よ、それで相談とは一体?」


「ん、ああ。 いや実はさ、明日学校でクリスマスパーティがあるだろ?」


リリアの中ではどうやら、武臣は子羊で決まったらしい。 てかそれにしっかり返事するとかお前はそれで良いのかと俺は聞きたい。 既に武臣の相談内容はどうでも良い。 興味の九割を失くしている。


「……そうなの? おねえ」


「へ? あ、あーと……そう、ですよね? 西園寺」


「わたし!? あ、わ、わたしは……なんというか……だよね? 成瀬くん」


「俺かよ。 えーっと」


そうそう、クリスマスである明日、十二月の二十五日は学校でクリスマスパーティが……。


「そうなのか? 武臣」


「知らなかったの!? 三人とも!?」


いやいや、さすがに知らなかったのは俺だけじゃないか。 なんて思いながら、二人を見る。 だが、二人はぎこちなく視線を俺から逸らすだけ。


どうやら、想像以上に寂しく哀しい奴らの集まりだったらしい。 俺や西園寺さんは教室でも一人寂しいタイプだけど、クレアの奴って確か親しくとはいかないまでも、挨拶くらいは交わす友達居たよな。 それなのに知らされていないとか、こいつひょっとして俺たちより哀しい奴じゃないのか。 やべ、ちょっと優越感を感じるな。


「い……いや俺は知ってたぞ。 あれだろ? 体育館でやるやつ」


そんな優越感を更に得るため、俺は武臣に対して言う。 大体クリスマスパーティなんて、屋内でやるものだ。


「校庭だけどね」


マジかよ。 普通そういうのって体育館でやるだろ。 雨降って中止になればいいのに。 明日の天気予報あとで見ておこう。


「わ、分かりますよ! 夜からやるあれですよね!」


「昼から夕方までだけどね」


「ぐっ!」


俺に続き、クレアも粉砕。 後は西園寺さんに全てを任せた! 西園寺さんならきっと大丈夫だ!


「あ、あ……先生が言ってたやつだよね?」


「生徒で決めたんだけどね」


三人とも粉砕である。 つうか、知ってたなら俺にこっそり教えておけよ武臣のやつめ。 クリスマスパーティを知らされない奴とか寂しさ全開じゃねえか。 いや、クリスマスイブに部室で暇潰しをしている時点で俺は寂しい奴だった。


「ふふふ、我の心眼の前では全てが白日の下に(せい)される……。 クレア、西園寺、成瀬、貴様らは……従者がいないッ!!」


わざとらしく片目を覆い、口元に笑みを浮かべながらリリアは言う。 つか栖されるってなんだよ、晒されるの間違えか。 ほっといてやろ。


「よしクレア、そいつ窓から突き落とせ」


「了解です!」


「ひっ! ごめんなさいごめんなさい許してください!」


ちなみにこの場合の従者とは、恐らくは友人のことを指しているのだろう。 面倒くさい奴だなほんと。


「あーもう! 良いから俺の話を聞いてくれよ! もうだいぶ経つのにクリスマスパーティが開かれることしか話せてないんだけどっ!?」


「いやもうなんか良いやって感じなんだけど。 どうせ俺、それに呼ばれてないし」


「いじけないで成瀬っち!? 俺が呼ぶから! 俺が成瀬っちのこと呼ぶからさぁ!」


「らしいです西園寺。 呼ばれていない私たちは帰りましょうか」


「……うん、そうだねー」


「分かった分かった! みんな俺が呼んだ! だから話を聞いてくれよぉ!!」




「……で、なんだ。 要するに、それをどうにかしたいってことか?」


それから少し経ち、武臣が必死に俺たち三人の機嫌を取り、ようやく相談が開始された。 今は丁度それを聞き終わったところで、頭の中でその話を整理している。


武臣の話はこうだ。


まず、明日のクリスマスパーティは生徒たちの間で話が出て、それである程度の人数を集め、学校の使用許可を得られたとのこと。 だが、それに奔走した人が誰だか分からないらしく、武臣はその人に礼をしたいという。


要するに恩返し的なことをしたいって話だったのだが……ぶっちゃけどうでも良い気がする。 そんな勝手にやったことに対して恩を感じるのは自由だけど、やった奴がそれを必要としていなかったら良い迷惑だ。


「そうそう! やっぱり生徒としては、ひと言くらい伝えたくてさ」


「断る」


「即答しないでよぉ! マジ、一応ヒントもあるから!!」


「嫌だよ。 だって、俺たち三人には関係ない話だろ?」


言いながら、パーティに呼ばれていない二人を見る。


「そうだねー」


どこか上の空の西園寺さん。 軽いショック状態だ。


「ふ、ふふ。 ですね」


そしてヒクヒクと笑うクレア。 いつか暴れだしそうで怖い。


「もう頼むから! 俺が悪かったごめんなさい!」


最後に必死に頭を下げる武臣。 そして、それを見下しながら笑うのはリリアだ。 なんだか武臣が惨めに思えてきたし、聞くだけ聞くか……まだ続きもあるようだし。


「子羊よ。 全てを我に任せなさい。 だがそれには処女の生血を供物として捧げるのです」


「お前なんて言葉教えてるんだよ……」


「わ、私は教えてないですよっ! 変な目で見ないでくださいっ!」


なんて馬鹿な会話をひとしきりした後、武臣の相談は再開する。 ちなみに、この時点で俺の帰りたい気持ちは九割くらいを占めている。 ああ、帰りてぇ。 そろそろいきなり帰るレベルだぞ。


「それで。 それでな、実はその人っていうのも大体は見当が付いているんだ」


「成る程。 つまり、貴様が思うにその人というのが「パーティ会場を用意した人」のイメージではないということですね」


なんだよその名推理は。 たったそれだけで当たったらお前すごいよ。 もし正解なら靴を舐めても良いレベルだよ。


「そうそう! そういうこと! いやぁ、さすがルナなんとかちゃん」


マジかよ当たっちまったよ! やべぇ、リリアの靴舐めないといけねえじゃないか。 俺警察に捕まるじゃん……どうしよう。


「なに妙な顔をしているんですか成瀬。 それはそれとして、結局のところ子羊はどうしたいんですか?」


さり気なく、クレアも武臣のことを子羊呼ばわりだ。 なんだか可哀想だな、武臣くん。


「ああ、そうそう。 実はその人ってのが……風紀委員長なんだよ。 で、本当にあの人がそんなことをしたのかってのが気になるというか、知りたいというか……だから! 是非それを調べて欲しいんだ!」


どうして俺たちが、というのはこの場合愚問か。 武臣は恐らく、頼んだ全ての奴に断られ、他に頼める奴が居なくてここにやってきたのだから。 とんでもなく部活動とはかけ離れてしまうけど、面倒だともやる意味がないとも思うけど。


やってやる理由がないのと同じくらい、やらない理由もまた、ないのだ。 それに、最後のそれを聞いて俺も興味が出てきた。 少し、面白いことになりそうだ。




「さて、その相談を受けたのは良いんですけど、まず風紀委員長ってどんな人なんですか?」


「んー、ひと言で表すと、血が通ってない感じだな」


俺たちの高校での風紀委員長。 名前は柊木(ひいらぎ)(すずめ)。 学校内で一番恐ろしい人は誰だと言われれば、俺は多分この人の名を上げるだろう。 いや、俺に限った話ではなく、学校の殆どの生徒はこの人の名を上げるはずだ。


俺たちと同じく一年生ながら、委員長の座についた柊木。 彼女の印象が「怖い」というのになったのは、朝礼でのことだった。


委員長に就任した彼女は、最初の挨拶でこう言ったのだ。


「死ね」


自己紹介の前に、彼女は間違いなくこう言った。 俺だけではなく、複数の奴がそれを聞いていたんだから間違いない。 そして彼女は続けてこう言った。


「風紀を乱す者、校則違反をする者、そして私に逆らう者、全員死ね」


それだけだった。 それだけ言うと、柊木はマイクを乱暴に置き、壇上を後にしたのだ。


余談だが、彼女はこの件で一週間の謹慎を食らうことになったのである。


「ただのやばい人じゃないですか」


「そうだよヤバイ人だ。 だから、武臣も不審に思ったんだろ。 そんでさ、クレアは知らないかもしれないけど……俺たちが入学したばっかのときって、結構悪さしている奴が居たんだよ。 まぁ、授業中にサボってたりそんな程度だけど」


「へえ。 ですが、私も結構遊び歩いていますけど、会ったことないですよ? そんな人たちには」


「なくなったんだよ、めっきりと。 柊木が委員長になった次の日から、パタリと鳴りを潜めたんだ」


何があったのかは分からない。 ただ、同学年や上級生に限らず、一切なくなったのだ。 あるのはただ、それだけの事実だ。


「……なるほど」


ちなみに武臣はあのあと、部活があると言って部室を去っている。 イブに部活とか、結局あいつも寂しい奴だな。


「恐らく……そやつは闇の支配者、ダークネス! ふふふ、まさかこんな場所で仇敵に出会うとは」


「確かお前って闇の使者とか言ってなかったか。 なのに相手は支配者じゃん。 負けるぞお前」


「そ、それは……! おねぇ、おねぇ、また陽夢おにいがいじめる……」


「おい成瀬、謝れです」


俺が謝るのかよ。 俺はただ、間違いを正してやっただけだというのに。


「あはは、それで……どうするの? 野田くんの相談」


どうするか……。 うーん、でもこの場合ってやっぱり、直接話を聞くってのが一番手っ取り早い手段だよな。 つうわけで、今から俺たち四人がすること。


風紀委員は確か、この日は活動があったはずだ。 それならば、委員長である柊木も学校に居る可能性が高い。 よって。


「行くか」


こうして、俺たちはまず、本人に直接話を聞くことにしたのだった。 会う数秒前に思い出したが、遺書を書くのを忘れたのが心残りである。

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