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俺とルールと彼女  作者: 幽々
異能の世界
72/173

最後の一人 【2】

「やぁ、来ると思ったよ」


弥々見(ややみ)


エリアCへ戻るとすぐに、弥々見の姿が見えた。 そして、立ち会っているのはディジさんだ。 二人は睨み合い、そして弥々見は俺たちに気付くと、こちらも見ずにそう言った。


……どうやら、丁度戦いが始まる寸前に間に合ったようだ。 ギリギリも良いところなんだよな、毎回毎回。


「リーダー、どういうつもりだ。 私たちが交わした約束を忘れたのか?」


ディジさんは言い、弥々見との距離を一歩詰める。 二人の距離は小さいながらも確実に埋まったはずだというのに、俺にはなにも縮まっていないようにしか見えない。 それを証明するかの如く、弥々見は口を開く。


「約束……約束……ああ、素晴らしい世界にしようってやつかい? はは、そりゃ勿論覚えているよ。 忘れたことなんて一度だってない。 だから、僕一人で充分なんだよ」


「ディジ、こいつと話す価値はなさそうですよ。 さっさと倒して終わりにしましょう」


クレアは言うと、刀を抜く。 四対一ではあるが……弥々見の能力がいくつあるのかが不明だ。 それに唐突だった所為で、策も何も考えていない。 戦いながら、考えるしかないのだ。 未知の能力をも想定して、考えなければ。


……そんな真似、最早神の所業だな。 だけど、やるしかねぇ。


「いやぁ困ったな。 君たちは殺したくないんだけど、どうにか丸く収めることはできないかな? 僕が殺すのは嫌だから、自害をしてくれると非常に有益なんだ」


弥々見からは、焦りが感じられない。 俺たちの能力を知った上で、それでもこいつは動じていない。 ならば、それ相応の能力を所有しているということだ。


「無理だよリーダー、白羽(しろは)守矢(もりや)をその手で汚した時点で、貴様は私の敵でしかないんだ」


「って言われても困るね。 あの子たちは僕のことを疑りすぎたんだし。 それに殺したのは僕じゃなくて毒雨(どくさめ)くんじゃないか。 だったらもう、自己責任だろう?」


考えろ、幸いにも今、弥々見の意識はディジさんへと向かっている。 今の内に、何か策を練らなければ。


弥々見の能力は、テレポートと未来視……そして芳ケ崎(はがさき)の加減速だ。 そして、これ以外にも能力がある可能性も考えなくてはならない。


もっとも望ましいパターンは、修善(しゅうぜん)さんがこの事態を把握していること。 彼の能力を使えれば、この場を乗り切ることだってできる。 もしも把握しているならば、この近くにいる可能性が高い。


「無駄だよ。 修善は動けない。 あそこに建物があるだろう?」


俺の探すような視線に気付いたのか、弥々見は言う。 そして指差す先には、その言葉通りの建物だ。 だがそれは、明らかにこの廃墟が群れをなしているようなエリアCには不釣り合いな建物だった。 まるで、最近建てられたかのような真新しさを持つ、一際巨大な建物だったのだ。 ここからの距離は、クレアが本気で駆けて五秒ほどか?


「監獄部屋。 プリズンルームという僕の能力だよ。 あの建物に入った人は、中から外に干渉ができなくなるんだ。 例え核を使ったとしても、中からは絶対に出られない」


「つまり……外から中には干渉ができるということですねッ!」


クレアは地を蹴り、その建物へと向かう。 修善さんがあそこに囚われているということは、あの建物をぶち壊せば良いという理論か。 俺もそれはしようと思った、だが。


「させると思ったのかい」


弥々見がそれを許さない。 クレアの行く手を遮るように、先読みして弥々見がクレアを止めるべく、前へと立ちはだかる。 それに真っ先に反応したのは西園寺(さいおんじ)さんだ。


「クレアちゃん!」


西園寺さんがクレアの名前を呼んだそのとき、クレアの体は宙へと浮く。 ……そうか、重力を軽減したのか。 西園寺さんの力は加重だけでなく、軽減も可能なんだ。 これならば、或いは。


しかし、それすらも甘い考えでしかない。 勢いが付いたままのクレアの体は、前に立ち塞がった弥々見の頭上を抜け――――――――たと思った。


「無理だよ。 君たちじゃあ、あそこに行くことすら叶わない」


迂闊だった。 まったく迂闊だった。 こいつには『未来視』の能力がある。 クレアの行動も、西園寺さんの行動も予想できたというわけだ。 それに加えて『加減速』だ、クレアの身体強化の力を持ってしても、軽々と止められてしまうんだ。 それに加えて、あのテレポート能力……厄介極まりないな、さすがに。


弥々見はそのまま、目の前のクレアに蹴りを落とす。 クレアはなんとか防御をしたが、その体は地面へと落ちていく。


「チッ!」


叩き落とされたクレアは、怯むことなく一旦後ろへ飛び、距離を取る。 その選択は正解だ。 俺たちが分かっているだけで、今の『プリズンルーム』を入れて四つ。 他にも何かしらの能力を持っている可能性だって捨て切れない。


「リーダー、何故そこまでして能力を得る? 私たちが目指していたのは、平和な世界ではなかったのか!」


「愚問だね。 そりゃ勿論目指していたよ、平和な世界を。 だけど、そこに君たちの姿はない。 あるのは、僕だけの世界だ」


「自分だけの、世界? 弥々見さんはそれが目的……なんですか?」


怪訝な顔をして、西園寺さんは言う。 弥々見はそんなことにはまるで興味を示さず、そのままの調子で続けた。


「そうだよ。 僕だけが存在する、僕だけの世界だ。 争いも起きなければ殺し合いだって起きやしない。 平和な世界だろう?」


……それが、こいつの目的か。 まるで神になりたいかのような理由だな。 西園寺さんが理解できないといった顔付きをしているのも頷ける。


そんなのはただの、偽りの世界に過ぎない。 そんなのはただの、臆病者がやることだ。 ディジさんや修善さん、それに王場(おうば)さん。 他の、死んでいった人たちの夢を潰す理由には、絶対にしてはいけない。


「弥々見、あんたが言う平和な世界は実現不可能だ。 人間ってのはどこまで行っても次を求める。 現状で心の底から満足している人間なんて、存在しない」


「あはは、僕が次を目指すとでも? 妄言だね、なってみないと分からないよ」


「それもまた無理だってんだ。 俺たちがそんなこと、させやしない」


この戦いで勝つ方法、それは一つ。 修善さんを解放して、修善さんの能力で弥々見を殺す。 それしか、生き残る道はない。


「なら試そう。 そういえば……君の能力はテレパスだったっけ。 良いことを教えてあげる。 君はそれを使い切れていないんだ」


「っ!」


弥々見は言うと、俺の前へと姿を現す。 テレポートか……!


後ろへ飛び、距離を取る。 駄目だな、これじゃあ蒼龍(そうりゅう)のときとは違い、動きが全く読めやしない。 体の部位を一切可動させることなく、弥々見は移動できるのだ。


「知っているかい? テレパシーは基本的に、相手とのチャンネルを合わせなければ発動できない。 だから、君じゃ僕の思考は読めないんだよ」


「……チャンネル?」


「相手の考えを読もうとするんじゃなくて、相手の視点へ切り替える。 君が読めるのは同じ視点の者だけだ。 僕の思考は、絶対に読めない。 だから、こうなるんだよ」


「……がっ!」


弥々見は消え、俺の真横へ現れる。 そして右手をそのまま、俺の脇腹へと放った。 避けることもできず、拳は俺の体へめり込む。 その威力は、芳ケ崎の拳に匹敵するレベルだ。 この分だと……骨も、何本か折れたか。


「だから、僕にくれよ。 僕なら有効活用してあげるから」


「ぐあっ……!」


地面に倒れ込む俺の頭を、弥々見は踏みつける。 徐々に力を入れ、潰すように。 弥々見が力を入れる度、頭蓋骨が軋む音が聞こえた。


「成瀬、君は卑怯者だ。 自分と合わない者しか、傍に置いておかない。 自分と異なる人間には、君はどこまでも冷徹だ。 そんな君には僕の思考は絶対に読めない。 勝てないんだよ」


「は……はは、そう……だな。 お前の思考は、読めねえよ」


弥々見の言う通りだ。 俺は読めない。 たったひと言でさえも、ノイズでさえも、聞こえてこない。


「その刀を抜きなよ。 今の君なら、殺意に飲まれた方がやり甲斐がある」


抜かねえよ。 この刀は、ただの飾りだ。 仲間に剣を向けることになるくらいなら、俺は弱いままで良い。 仲間を傷つけるくらいなら、死んだ方がマシだ。


「で、も。 お前以外のは、読めるぞ」


成瀬(なるせ)から……離れろッ!!」


クレアの声が聞こえたと同時に、頭にかかっていた足が退かされた。 直後、俺の視界に金色の髪が映る。 いくら酷い目に遭ったとしても、戦い続ける俺の親友だ。


「おっと、危ないなぁ。 クレア、君がこの中じゃあ一番危険だ。 早々に退場願おうか」


弥々見は放たれた拳をなんなく避け、テレポートでクレアの後ろへ立つ。


「こんのっ!」


クレアはそれにすら反応し、体を無理矢理動かし蹴りを放つ。 だが、その蹴りの速度は遅い。


「加減速。 便利な力だね」


弥々見は言いながら、クレアに手を伸ばす。 その行動にクレアは反応するものの、動けない。 動きが、減速されている。


まずい、まずい。 このままではクレアが……。 西園寺さんの力では俺たち全員を巻き込んでしまう。 それに、例え発動させたとしても弥々見はテレポートを使えば円から脱出できる。 修善さんの援護は望めない。 同じく、王場さんの援護もだ。 そして俺も動いたところで、焼け石に水でしかない。 今考えられる一番の方法は……ひとつだ。


「ディジさん!!」


「……っ!」


俺が叫ぶも、ディジさんと弥々見の距離は遠い。 あの距離じゃ、間に合わねえ。


「ばいばい」


止めろ。 クレアは、俺の。


痛む体を無視して、俺は立ち上がる。 そして、クレアに手を伸ばした。 あと、数センチ。 それが届いたところで何も変わらないかもしれない。 劇的な何かが起きるわけでもない。 だけれど、クレアが一瞬だけ俺に視線を向けたのだ。 ならば、動かないわけにはいかないじゃないか。


しかし、弥々見はクレアの肩に手を置く。 瞬間――――――――二人は消えた。


「クレアッ!!」


あと、もう少しで掴めていたんだ。 なのに()()、間に合わなかった。 何度目だ、何度俺は同じことを繰り返す!? ふざけんな、くそが……!!


「もう彼女は戻ってこれない。 さて、残るは三人か」


背後から、そう声がかかる。 振り向くと、弥々見……? まさか。


「修善と同じ場所に飛ばさせてもらったよ。 君たちを殺したあと、あの建物は潰そう。 丁度良く、それに適した能力もあることだし」


弥々見は言い、西園寺さんへと顔を向ける。 まずい、このままだと全員殺られる。 想像以上だ、これは。


「逃げろ! 西園寺さん!!」


「ひっ!」


逃げられるわけなんてない。 それは分かっているのに、言葉にしてしまう。


「だから、遅いんだ」


「あっ――――」


西園寺さんのすぐ後ろに弥々見は現れ、首に一撃を入れる。 まだ殺す気はないのか、威力はそこまでではない。 だが、西園寺さんの意識を刈り取るには充分だった。


「さーてと、残りは二人。 内、能力者は一人。 そしてもう一人はまともに武器すら振れないポンコツだね」


「貴様……」


くそ……体が動かない。 弱すぎるだろ、俺の体……! こんなときくらい、無理にでも動けよ!! どうして、どうして俺はいつも残される側なんだ、どうして……!


()()()()()()()()だって。 もう、嫌なのに。 もう、掴み損ねるのは。


「ディジ、君は弱い。 戦う意思がない。 相手を殺す意思がない。 平和な未来だけしか見ていないから、そうなるんだ」


「……黙れ、貴様のようなクズには言われたくはないッ!」


「そのクズに殺されるんだよ、君は。 何も守れない君は、自分ですら守れない」


ディジさんは剣を構えるも、眼は開かれない。 生眼の剣(イーター)は眼が開かれなければ、本来の力を発揮できない。 ディジさんはこんな状況でも、弥々見に殺意を抱いていないのだ。


……前言撤回だ。 このままじゃ、本当に全員が殺られる。 それだけは避けなければ。 例え、俺が狂ってしまったとしても。


死眼のアンイーターを使えば、俺でも弥々見とやり合える。 だが、その後どうなってしまうのかが分からない。 賭けに出るか? けれど、俺は弥々見だけを正確に殺せるのか?


もしも目が覚めたとき。 そこにみんなの死体があったら……俺は、正気でいられるのか?


そんな最悪の考えが、俺の行動を阻害する。 すぐに決めてすぐに行動に移すべき場面で、俺にはそれができないのだ。


「君は何も守れない。 仲間も、友人も、想い人も、家族も。 ディジ、良いことを教えてあげよう」


「良いこと……?」


一歩、弥々見はディジさんとの距離を詰めて言う。 笑って、続きを口にする。


「違和感を感じなかったかい? 芳ケ崎と戦ったときに。 あいつは確か言っていたはずだよ。 ガキを殺すのは趣味じゃないって」


「何を……あんなの、戯言に過ぎない」


「そうかな? 芳ケ崎は嘘を吐かないんだよ。 だから、あいつはガキを殺したりはしない。 僕の言っている意味、分かるかな? 聡明な君なら分かっているはずだ。 違和感に」


そんな。 まさか、弥々見が言おうとしているそれは。


俺は、分かってしまった。 その昔起きたことの、真実に。


「僕だよ。 僕が殺したんだ、君のお友達は。 芳ケ崎が殺したと君が勝手に思っている君の友達は、僕が殺した」


「そん、な――――――――嘘だッ!」


ディジさんは構えていた剣を、振るう。 しかし、弥々見はそれを能力なしで軽々しく躱す。 駄目だ、実力差がありすぎる。 ディジさんは戦いを避け続け過ぎている。 俺ですら、それは見て分かるほどだ。


「嘘じゃない。 赤腕を装って殺した。 ほら、こんな風に」


弥々見が言った瞬間だった。 弥々見の姿は、芳ケ崎のそれとなる。 幻覚か……? それとも、変身能力的な何かか? いや、今重要なのはそれではなくて。


「キリングシェイプ。 殺した奴の姿となれる。 便利な力だよ」


弥々見の考えていることが分かった。 こいつは、その力でディジさんを殺す気だ。 それも、芳ケ崎の姿なんかではない。


「お前が……殺したのか。 お前が、お前がッ!!」


「あはは、良いね。 死ぬ前に良いことが聞けただろう? ほら、懐かしい姿を見せよう」


弥々見の姿は小さくなり、少年の姿へと変わる。 その姿がきっと、ディジさんが小さい頃に失った友達の姿だ。


「やめ、ろ。 やめろ、やめろやめろやめろやめろッ!! もう、やめてくれ……!」


「これが何よりの証拠だね。 あの子は僕が殺した。 久し振り、ディジ」


一瞬だけ、俺の視界に弥々見の横顔が映る。 その顔は、その少年の顔はどこかで見たものだった。 覚えは、ある。 確実に、確信を持って、言える。


その顔も、姿も、雰囲気も。 弥々見が装っているものでしかない。 だが、それはあまりにも覚えがある姿だったんだ。


そして、脳内に一瞬だけ、ノイズのようなものが走る。 次に、それが声となって俺に伝わった。


〈ディジに、伝えてくれ。 君は守るために剣を振れと〉


「……なんだ?」


声が響いた。 頭の中に、明確に。 それは俺のものでもなければ、ディジさんのものでもない。 当然、弥々見のものでも。


だとするとこの声は――――――――あいつのか?


弥々見はディジの友達を殺し、その姿となれる。 だから俺がそいつの声を聞くことなんて絶対にないのに、あり得ないことが起きている。


それとも、これは……俺が、気付いたからか? その少年が誰なのかということに。 ならば、俺が取るべき最善の行動は……!


「ディジ! 守るために剣を振れッ!! お前の剣は人を守る剣だッ!!」


伝えるんだ。 その言葉を。 遠い場所から、伝えるんだ。 それは俺にしかできないことで、俺がやらなければならないことだ。


声は誰にも止められない。 いくつもの能力を持っている弥々見にも、止められない。 風に乗り、その声はディジさんへと届く。 時間を遡って、世界を超えたその声は。


「……よう、む? 成瀬、陽夢(ようむ)……」


ディジさんは言うと、俺の顔をジッと見つめた。 そうだ、俺は成瀬陽夢だ。 ディジさんが知っている奴で、知らない奴だ。 だけど、俺の言葉はあいつのものだ。 ディジさんになら、それはきっと分かる。


「……ああ、そうか。 ふふ、あっはっは……! そうか、そういうことだったか!」


やがて、ディジさんは一筋、涙を流した。 そして笑い、剣を抜く。 強い意思を生眼の剣に込めて。


「……なんだ?」


動揺したのは、弥々見だ。 ディジさんから放たれている異様な気を感じたのか、一歩後ずさる。


「ふふ、ありがとう……成瀬」


俺に微笑むように言って、ディジさんは弥々見へと向き直った。 構えも、気迫も、先ほどまでとは比べ物にならない。


「レーヴァテイン、私の生眼の剣だ」


眼が、開かれた。 殺意に共鳴したのではなく、それは決意と共鳴したのだ。 ディジさんの……みんなを守り抜くという決意に。


それには恐怖も、悪寒も、殺気も感じない。 暖かく、木漏れ日のような美しい光だ。 刀身は澄み渡るように輝き、その美しさは時間が停止したようにも思えた。 その光は次第に増していき、世界を包む。


「……な、お前ッ!!」


一瞬の間をおいて、弥々見はディジさんへと飛びかかる。 しかし、途中で弥々見の動作は止まった。


「何を……? ディジ、何をした。 お前は今何をしたッ!?」


様子がおかしい、それに……弥々見のキリングシェイプも切れている。 元の姿に戻っており、弥々見はテレポートを使わなければ加減速も使っていない。 ()()()()()()使()()()()()()()()()


「こんな未来、視えなかったぞ……」


「は、はは。 そりゃそうだ。 来たのは別世界からだからな」


そうだよ、未来がいくら視えたとしても、別世界から変えられたのなら意味はない。 過去から別世界へ、そして今のこの瞬間へ。 その時の流れは弥々見の未来視では視ることができやしない。


「別世界? 待て、待ってくれ成瀬。 君は、もしや」


「さぁ、俺には詳しいことは分からねえ。 それより良いのか、余所見して」


「ッ!」


弥々見は即座に反応し、ディジさんの一振りを避ける。 結果的に言えば、避けて正解だったのだ。 たった一振り、それだけで裂けた。


「なんだ、これは」


斬られた空間を見て、弥々見は息を呑む。 俺も一緒だ、剣を一振りしただけで――――――――空間が裂けたのだ。


大地も、空気も、時空をも裂く。 ディジさんのその剣は、世界を裂いた。 この世の理を斬り裂いた。


斬られた空間は歪み、真っ暗な世界が姿を見せる。 それは遠くの彼方まで及んでいて、漆黒が全てを飲み込むような光景だった。 どこまでも、時空の裂け目は続いて行く。


「弥々見、貴様はここで終わりだ。 私の生眼の剣は、能力を打ち消す。 今この場にある能力を全てだ」


「……なに? まさか、そんなことが」


弥々見は笑いながら言うも、能力は発動しない。 勿論、この場に居る俺の能力も打ち消されているようだ。 先ほどから、ディジさんの思考が全く読めなくなった。


「あ、あははは! そうだ、そうこなくっちゃね。 しかし、君はそれでも勝てやしない。 能力なしの戦いでも、僕の方がまだ上だッ!!」


その言葉を受けて、ディジさんは剣を収める。 その瞬間、裂かれた空間は元に戻り、世界は再び異能を手に入れる。 外れたルールは、元へと戻った。 ディジさんのその剣は、言わば世界のルールを叩き斬る。 世界の法則を変える剣なんだ。


でも、そうだな。 ディジさんの剣は、守る剣だ。 例え相手がどうしようもない奴だったとしても、斬れない剣だ。


「なんのつもりだい? 僕に能力を使わせたら……は? おい、なんだよこれ」


「どうやら、視えたようだな。 五秒後の未来が」


弥々見は後ろを振り返る。 そこに居るのは。


「終わりだ、弥々見。 俺の眼を見たな」


最強の能力者。 ディジさんの狙いは恐らく最初からこれだ。 全ての能力を一旦切り、遠くに閉じ込められた修善さんとクレアの解放。 クレアの力があれば、修善さんをここまで運ぶのに()()()()だ。


「そん、な」


こうして、最後の一人は倒された。 能力を多数所持しているということは、同じ能力者を殺してきたということ。 その能力者の最期は、能力によるものだった。

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