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俺とルールと彼女  作者: 幽々
異能の世界
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屍喰らい 【2】

「……そんなことが」


ディジさんたちは、そんな話は一切しなかった。 いや、知らなかったのかもしれない。 それこそもう、随分と昔の話だそうだから。 修善(しゅうぜん)さんの口から語られたのは、悲劇の話だ。 実際に起きてしまったことだ。


「なら、あなたを殺すと言ったらどうしますです? 修善。 私たちの目的のために殺すと言ったら」


淡々と口を開くのは、クレア。 物怖じせず、そして悲劇を知っているこいつは、いつでも前を見据えている。 守るべきもののために前を向くこいつは、とても強い。 守るために他を切り捨てる選択ができるのは、確実にこいつの強さだ。


「……構わないよ。 けど、さっきも言ったように条件がある。 その条件っていうのなんだけど……俺とゲームをしてくれるか?」


「ゲーム?」


俺が尋ねると修善さんは頷き、口を開く。 その口調はどこか楽しげだ。 いや、口調だけではないか。 顔全体の表情が、楽しそうにしているんだ。


最強の能力者が提案するゲーム。 少し興味があるけど……。 なんかこう、話がうまく行き過ぎな気もしてくる。


「うん、そう。 君たちが好きなゲームを一つ指定してくれて構わないよ。 勿論、戦いでも体力勝負でも思考ゲームでも、何でも良い」


……なんでも良いときたか。 余程自信があるのか、ただの馬鹿か。 さすがに後者ということはないだろう。 ならば、何かしらの考えがあると捉えるのが妥当だな。


「それで、その指定したゲームで勝てば良いってことか?」


「いいや、少し違う。 君たちがするのは、俺の能力を当てること。 そして、ゲームで君たちが負けた時点でそれを俺が聞く。 正解すれば、君たちの勝ち。 不正解なら、君たちの負けだ。 ゲーム自体は何回でも構わない。 ただし、能力を当てるチャンスは一回のみ。 そして、君たちがゲームで勝つ度に俺は質問に一つだけ答えよう。 どうかな?」


つまり、ゲームで勝ち続ければいくらでも考える時間はあるということか。 勝てば勝つほど、答えにも近づける。 一見、かなりぬるくも思えるルールだが……。 というか、修善さんに不利な内容にしか思えないぞ? やはり何かの罠か? ここは慎重に考えておくべきか? いや、だが……考えている間に気が変わると、面倒だ。


「……俺たちが負けた場合、修善さんの能力を当てられなかった場合だ。 その場合はどうなる?」


「ん? 別にどうにもならないよ。 ただ、このエリアを渡すことはできないけどね。 そのときは実力行使に出てくれても構わない」


それは賢い選択とは言えないな。 能力が半分ほどではあるが分かっていた芳ケ崎(はがさき)とは違い、何もかもが不明な奴だ。 いきなり背後に立たれたこともそうだし、実力が未知数すぎる。 戦うにしても、未知というのは脅威でしかない。


しかし放っておいてもなんら問題がなさそうな人だが……俺たちの場合、この人を倒すしかない。 そうしなければ一生かけても元の世界には戻れないんだ。 修善さんが提案しているのは、これ以上ない好条件のゲームだ。 どうする?


「質問の内容に制限は?」


「特にないよ。 まぁ、分かっているとは思うけど……能力は何か、とかそういう質問はなしね。 直接的な質問には答えられない。 間接的な質問になら答える。 その判断は俺がする」


「……」


やはり罠、か? このゲームを始めるということ自体が能力の可能性もなくはない。 だからこそ修善さんは俺たちにゲームをするよう仕向けている可能性はないか?


いや、考えればそんな可能性はいくらでもある。 こんな好条件のゲーム、飲まない手はないとも思える。 ゲームをした場合、しなかった場合、その可能性を同時に考えていく。 そして、その結果を導き出す。


「分かった、やろう」


「……ちょっと、さすがに一度考えてからの方が良くないですか?」


返事をした俺を制すのは、クレア。 心配そうで見ていることから考えるに、身を案じているのだろうか。 そんな目で見られると俺でも少々戸惑ってしまうぞ。 普段からそのくらいの仲間意識を持って欲しいもんだ。


「良いよ、好きなだけ相談してくれて構わない。 君たち全員に関係のあることだし、時間は沢山あるしね」


「いや、乗るさ。 西園寺(さいおんじ)さん、クレア、二人から見て、修善さんはどう見える?」


俺は二人の方に向き直り、尋ねる。 俺から見ただけではなく、二人から見たこの人がどうなのかを聞いてみたかったし、知っておきたかった。 その返答によっては俺の意見が変わるかもしれないしな。 まぁ、大丈夫だとは思うけど。


「わたしは大丈夫だと思うよ。 悪い人には見えないから」


「そっか。 クレアは?」


「わ、私は……同じです。 ニャンコとワンコに好かれる人は、悪い人ではないです……けど」


なら、決まりだ。 二人の意見がそうなら、俺も同意見になる。 俺の視点から見ても悪い人には見えないから、この提案には乗るしかない。 クレアの根拠が果てしなく不安ではあるが、西園寺さんの言葉には間違いがないはず。


「よし、じゃあ早速ゲームだ。 一回目は、ジャンケンで行こう」


「良かった。 しばらくは楽しめそうだね……って、ジャンケン? 本当にそれで良いのかい? これで君が負けたら、その時点で終わりだよ?」


心底驚いた顔付きで、修善さんは言う。 しかし、それでこの一回目のゲームを変えたりはしない。


「良いさ。 負けたらそれまで、どうせ負けないしな」


「……はは、オーケー。 分かった。 それじゃ」


「ああ」




「一体何を考えているんですかこの馬鹿っ! アホッ!!」


「痛いから叩くなよ! 勝ったんだから良いじゃねえか!」


アライブのアジトへと戻る道中、俺はクレアに頭を叩かれる。 何度も何度も何度も。 馬鹿になるからやめて欲しいんだけど、こいつは一向にそれをやめる気配なし。 西園寺さんが宥めるも効果なし。 相当頭にきている様子だ。 こいつの殴りは本当に痛いからやめて欲しいんだよな……。 マジで、妹の真昼(まひる)よりも痛い。 それが瞬時に分かる時点で俺が真昼にどれだけ殴られているかだな……。 あの家庭内ガキ大将め。


「結果論を言ってるんじゃねえです! もしも負けたらどうしたんですかっ!」


「負けたらそれまでだってさっきも言ったろ。 それに負けてもどうせ、クレアなら実力行使で勝てるから良いだろ?」


「……そんなことは」


「いやいや、お前なら余裕だって。 強いし、格好良いし、頭良いし、美少女だし。 な?」


「へ、へへへ。 そんな褒めたって何もでないですよぉ。 まったくぅ!」


随分嬉しそうだなこいつ。 取り扱い方が最近段々と分かってきて、楽になってきたよ。 とりあえず褒めておけば良いからな、こいつの場合は。 めちゃくちゃ単純な生き物だ。 純粋と言った方が聞こえは良いかな。


それと……負けた場合のことを考えていなかったのは、言わないようにしておくか。 負けたら結局、そこまでの話だったし。 ジャンケンなんて所詮、勝つか負けるかだ。 絶対に勝てると確信を持っているかのように言えば、相手が何を出してくるのかも予想が付く。 それでも負けることはあるんだけどな。 なんとなくだけど、負けないという根拠のない自信もあったことだし。


「最近、成瀬(なるせ)くんとクレアちゃんって仲良いよね。 えへへ」


「……そうか?」


「うん、そうだよー」


にこにこと笑いながら、西園寺さんは俺とクレアのことを眺めている。 ふむ、俺とクレアの仲が良い……か。


「……もう、そんな見つめないでくださいよぉ」


未だに、照れ状態のクレア。 真っ白な肌は、ほんのり赤く染まっている。 そんなクレアと、仲が良いか。 なんつうか……これは。


「……あんま嬉しくないな」


「……死ねッ!」


率直な感想を述べたところ、正気に戻ったクレアによって殴り飛ばされる俺であった。




「あいつ、マジで手加減しないんだよな……」


「あはは、でもさっきのは成瀬くんが悪いよ? クレアちゃんも、女の子なんだから」


そうだったんだ、それは初耳だよ。 てっきり男かと思ってた。 なんて言ったら今度こそ止めを刺されそうだ。 心の内に仕舞っておこう。


あれから無事にアジトへと戻った俺たち。 クレアはどうしてか酷く疲れたと言って、自室へと篭ってしまった。 そんなわけで、今は俺と西園寺さんだけがロビーへと居る状態である。


「あれ? そう言えば、みんなはどうしたのかな?」


「ん、ディジさんたちか。 そういや、まだ帰ってきてないんだな」


確か、子供たちは王場(おうば)さんと遊びに出かけているはずだ。 勿論、この地帯からは出ないことが絶対の条件として。 そして、残りの人たちは全員エリアAの探索だったっけか。 んで、残った俺たちがエリアCに赴いた……という流れなのだが、まだ俺たち以外は帰ってきていないようだな。


「みたいだね。 あまり遅いと心配だけど……大丈夫かな」


西園寺さんがそう言った直後、俺と西園寺さんの間に突如として人影が現れる。 あまりにも突然に、まるでそこに居るのが当然のように。


「や。 今戻ったよ」


「うわっ!! や、弥々見(ややみ)さんか……。 ちょっと、いきなりテレポートで来るの止めてくれよ……」


心臓に悪いったらありゃしない。 西園寺さんなんか驚きすぎて、口を抑えて停止してしまったぞ。 声も出せないほどに驚いている状態だ。 西園寺さんの驚いた顔ってのも中々に珍しいから、記憶に焼き付けておこっと。


「あはは、ごめんごめん。 それよりどうだった? エリアCの守人は」


「あ、ああ……。 みんなが言ってた通り、危険な人には見えなかったな。 それに、あの人は俺たちが分かり合える未来を探していたよ」


「……そうかい。 そんな日が、来ると良いんだけどね。 それで、エリアCはどうなりそうかな?」


「んー、まだなんとも言えないけど、多分大丈夫だ。 話せば分かる奴だったから、これから何度か接触してみようと思ってる」


俺の言葉に、弥々見さんは顎に手を当てて少々考える素振りを見せる。 これからのことを考えているのか、それとも何かしらの考えがあるのか。


俺の能力じゃ、弥々見さんの思考は残念ながら読めない。 気が合わないのか、相性が悪いのか……二つとも、だろうな。 俺と弥々見さんじゃ性格が合いそうにない。 弥々見さんはこれでもかというほどに気楽な性格で、一見すると天然にも見えてくる。 そんな性格の弥々見さんと俺とじゃ、合わないのも当然っちゃ当然のことか。


「分かった。 それならエリアCは君たち三人に任せるよ。 僕はもう少しエリアAの探索を続ける。 エリアDとエリアEは、とりあえずそれが終わってから考えよう」


弥々見さんは大きく頷いて、その自分が出した意見に納得したようだ。 確かに一度に他のエリアの偵察なども始めてしまっては、一つ一つが疎かになり兼ねないだろうし、一個ずつ慎重に確実に攻略していくのが基本だ。 焦る必要はない、今回で言えば制限時間はないのだから。


「王場は……子供たちと出かけているんだっけか。 和樹(かずき)晋也(しんや)桜織(さおり)も、まだ遊びたい時期だししょうがないか」


「だろうな。 ま、この安全地帯から出なきゃ心配することもないだろ。 王場さんが付いていれば、各エリアの区域も理解しているだろうし」


その三人は、子供の名前だ。 全員が丁度小学校低学年ほどの年齢で、クレアがよく相手をしていたりする。 子供たちと遊んでいるときのクレアは本当に楽しそうで、それは子供の視点からでもそうなのか、一番慕われていたりする。 クレア自身も「楽しい」と言っていたし、案外あいつはそういうのに向いているのかもしれない。


それと、これは余談だけど俺は会った瞬間に泣かれた。 怖い怖いって泣きながらな。 蹴り飛ばしてやろうかあのガキどもめ。 俺の顔を指さして怖いとか言うなよ。 泣きそうになるから。


「成瀬、顔が怖いことになってるよ。 疲れているのかな」


弥々見さんは優しそうに笑うと、手に持っていた荷物をソファーへと置く。 そのまま水道で水を一杯注ぎ、一気に飲み干した。 嫌がらせか……違うと思いたいけど。


「ふう。 最近は暑くてさ、ただ色々と探索しているだけなのに、結構疲れが貯まるんだよ。 君たちも、あまり無理はしないようにね」


「分かってるよ。 弥々見さんの方こそ」


「あはは、僕は大丈夫だ。 よし、それじゃあ僕はまた向かうよ。 ディジに言われて見に来たけど、心配はなさそうだし」


……人使いが荒いな、あの人。 一応弥々見さんは上司に当たるというのに、それを顎で使うとは。 ああいうタイプはあまり関わり合いたくない。 西園寺さんはそんなことは絶対ないから良いんだけど、クレアの場合は若干それがあるからな……。 そういうのは一人だけで充分だ。


「ああ、そうだ。 成瀬、西園寺」


「ん?」


弥々見さんの言葉に、俺は声を出して。 西園寺さんは未だに口が塞がらないのか、口を押さえたままで弥々見さんの顔を見る。 そんな仕草が少し可愛いと思ったのは黙っておこう。


そして、俺たち二人が弥々見さんの方を向いたとき、弥々見さんは俺たちに顔を向けることなく、こう言った。


「ありがとう、君たちのおかげで大分助かっているよ」


「そんな――――――――って、いねえし……」


言うだけ言って、ディジさんたちのところに行ったか。 案外恥ずかしがり屋だったりするのか? 似合わないな。


それよりも、俺たちのおかげで……か。 確かに俺たちは能力者で、弥々見さんたちに協力もしている。 けれど、全てが終わったとき、エリアを全て取り戻したとき、彼らはどうするのだろうか? 残されたのは僅かな人だけで、あるのは広大な土地。 アライブのメンバーたちだけでは、とてもじゃないが持て余すほどの土地だ。


「頑張ってるね、弥々見さん」


「だな」


頑張っている。 それは分かる。 しかし……俺にはどうも、違うように思えるんだ。 いや、それ自体は間違ったことじゃないんだ。 奪われた土地と、仲間たちの想いを汲み取って動いている彼らは、本当に凄いと素直に思う。 だけど、彼らがやろうとしていることを違う目線で見れば、ただの復讐なんじゃないかって、思うんだ。


そして、それを果たしたときに残されるのは一体何だろう? 彼らは本当に、それで良いのだろうか?


「正解、なのかな。 俺たちが手を貸しているのは」


「分からないよ。 でも、そうしないとわたしたちも戻れないから」


そうだ。 俺たちの目的は、明確である。 能力者を倒し、元の世界に戻ること。 ついでで言えば、元の世界に戻ってクレアの新しい服を買いに行くこと。 そんな目的だけど、俺たちのはハッキリとしているんだ。


だが、弥々見さんたちの目的。 それは各エリアに居る守人を倒し、エリアを取り返すこと。 それ自体は当たり前だとは思うが……その後、彼らはどうするんだ?


人が目的を失ったとき、行き着く先は一体どこなのだろう。


「大丈夫だよ、成瀬くん。 そんなに悩まなくても、大丈夫」


西園寺さんは俺の手を握り、言う。 別に悩んでいるわけじゃないんだけど……心配、させてしまったかな。


「ディジさんは、一番確かなものを持っていると思うんだ。 だからディジさんが居れば、大丈夫。 間違った方には行かないはずだよ」


そう……だな。 彼女が居れば、大丈夫。 俺もそうは思う。 だけど……なんだ、この嫌な予感は。


何かが決定的に間違えている気がする。 何かを見落としている気がする。 何か、重大な何かを。


「ほら、だから今日は休もう? 明日も行くんだよね、修善さんのところ」


「……ああ」


そんな嫌な予感も、嫌な気配も、嫌な空気も。 気付けば消えていた。

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