六日目 村人会議 【5】
「……はぁ。 投票だな」
「えへへ、そうだね」
「あれ? いちゃいちゃは終わったんですか?」
ようやく、本当にようやくこの流れである。 あれから俺は西園寺さんの機嫌を必死に取り繕って、最終的にはパスタを奢るという条件でなんとか上機嫌に戻った西園寺さんだ。 ある意味で他の奴らを騙すよりもよっぽど難しい、西園寺さんとの付き合い方。 食いしん坊め、太ってしまえ。
「あーあーあー、ちっくしょー。 つっまんねえ負け方しちゃったよなぁ。 ま、ボクは生きてるから良いけどさぁー?」
頭に両腕をやり、椿は言う。 その様子からして、負けることに恐怖は微塵も感じていない。 それほどまでにどうでも良いと思っているのか、それとも既に狂ってしまっているからなのか。
「……」
そして、無言で項垂れているのは桐生院。 その表情からはもう、覇気は感じられなかった。
……終わってしまえば呆気なく、本当に一瞬の出来事だ。 こうして俺たちが勝てた要因にはクレアの働きが大いにある。 もしもこのゲームが終わっても、こいつと会うことはあるのだろうか。 そんな風に考えて、少しだけ勿体ないと思う俺。 クレアとはもっと、一緒に何かをしたかったな。
『投票時間になりました。 投票先を決めてください』
お決まりのアナウンスが流れ、モニターに投票先が表示される。 この光景を見るのも、この行動をするのもこれが最後。 それは感慨深くもなければ、名残り惜しくもない。 ようやく、これで終わるんだと……それしか考えられなかった。 一週間ほどの悪夢のような旅行も、ようやく終わるのだ。
今日の投票先は、桐生院。 残された最後の人狼だ。 危ない場面がいくつもあった、間違えれば敗北一直線の道もあった。 だけど、勝てたんだ。
俺は息を一度大きく吸って、投票先を決める。 例の如く最後に投票した俺が元の場所に戻ると、その結果はすぐに表示された。
成瀬陽夢→桐生院庄司。
西園寺夢花→桐生院庄司。
椿薫→成瀬陽夢。
桐生院庄司→成瀬陽夢。
クレア・ローランド→桐生院庄司。
『投票結果。 桐生院庄司さまが三票となりましたので処刑です。 お疲れ様でした』
画面は消える。 桐生院は自ら、処刑部屋へと足を運ぶ。 そんな背中に声をかけることも出来なければ、その部屋に追いやった俺たちが何かを言うことなんてできない。 俺たち自身がそうして、追い詰めていったのだから。
「はは、あっはっはっは。 良いさ、どうせ生きていても地獄だ。 お前らはこれから、それを嫌というほど思い知るんだ。 祝わせてくれ、勝利おめでとうってな。 あっはっは!」
その言葉の意味は、分からない。 適当なことを言っているだけかもしれないし、それはもしかしたら真実なのかもしれない。 でも、俺たちは知らないんだ。 結局、人の考えていることを全て見通すってことはできないのかもな。 人間はいつだって騙し騙されている、そうやって……生きている。 それは狼だって同じだったというだけの話だ。 きっと俺のしていることも、桐生院がしてきたことも、同じだろうよ。
「……勝ったってのに、気分が悪いな」
「仕方ないことですよ。 人を殺すということは、獣を殺すということは、そういうことです。 その感情を失ってしまったそのとき、人ではなくなります」
すぐ隣には、クレアと西園寺さん。 多くの犠牲があった。 多くの命が消えていった。 この出来事はきっと、一生忘れない。 長い長い、何日にも及んだ一夜の夢はこうして幕を閉じるのだ。
そう。
『おめでとうございます。 これにてゲームは終了となります』
そんなメッセージが聞こえてくるのと共に、モニターにでかでかと文字が表示される。
『妖狐陣営の勝利となります。 人狼が居なくなった今、妖狐の敵は存在しません。 こうして村は、妖狐に化かされ乗っ取られました』
予想通り。 妖狐の勝利と共に、このゲームは幕を閉じる。
「どういうことですか」
目を閉じて開けたその一瞬で、俺たちは何もない空間へと居た。 真っ暗で、互い同士の姿しか見えない、そんな空間に。 床もなければ壁もなく、天井もない。 ただただ、暗闇だけが続いている空間。
「見たまんまだよ。 なぁクレア、だから言っただろ? このゲーム、最初から決まってたって」
「……まさか、まさか成瀬、あなたが妖狐だったのですか? 全て、妖狐として勝つために? そんなこと、あり得ない。 絶対にあり得ません」
納得が行かないといった表情で、クレアは俺のことを見る。 もしも本当にこいつが未来予知に近い芸当ができるとしたら、俺が今考えていることも分かるはずだ。 なのにそんな質問をするってことは、半信半疑なのだろう。
「さぁ? あるのは妖狐の勝利で、村人側も人狼側も負けたってことだけだ。 だから言ったじゃないか」
「言った……とは?」
「お疲れ様って、言っただろ?」
計算済みだったと言えば嘘になる。 でも、考えてこの結果に持ち込むことは難しくなかった。 紆余曲折はしたけれど、最終的な着地点がここであれば、それで良い。 クレアが俺のことを今、妖狐だと思い込んでいるように。 仲間だと思い込んだ俺が、目指している場所は違うという事実に。
「……やってくれましたね、成瀬」
「俺に文句を言われても困るなぁ。 見抜けなかったお前のミスだろ? 人狼ゲームなんて、騙し合うゲームだからな」
「ふ、ふふ。 そうですね。 私のミスです。 ですが、あなたが妖狐だというのは些か納得がいかないです。 椿の方がよほど、妖狐の線がある」
「気になるか? 妖狐の所在が」
俺の問いに、クレアは頷く。 変なプライドを持っていない辺り、敵視しにくいな……。 俺はこいつをも騙したというのに、こいつが俺に向けているのは悪意というより、興味なのだから。 ま、それは俺も一緒か。
「気にはなります。 ですが、既に椿も西園寺も占われています。 なのに、成瀬以外で妖狐が生存しているなんてことは……」
「だったら、それはこれから分かる。 そうだろ?」
何もない空間に向け、俺は言う。 この場に居るのは、俺とクレアと西園寺さん。 それ以外の第三者が居るとしたら、あいつしかいない。
「挨拶。 こんにちは」
番傘を持った、狐の面を付けた男。 何もない空間から出てきたそいつは、何ら変わらない調子でそこに佇んでいる。 まるで、最初からそこに居たかのように。
「……何をしやがったです? 狐男」
「返答。 お久しぶりですね。 クレアさま。 今回は楽しめましたか?」
「質問に答えろです。 今回のゲーム、明らかにおかしいです。 成瀬もそうだし、西園寺だってそう。 それに、妖狐の勝利だなんて納得がいきません」
クレアは苛立ちを隠すことなく言う。 その話しぶりからして、やはりクレアはこいつと面識があるのか。 俺たち以外に一体何人居るんだ? こいつの巻き起こしている異常に巻き込まれている奴が。
「回答。 それではお答えしましょう。 今回の妖狐は少々特殊。 占われて死ぬことがないのです」
「……占われて死なない? そんな、無茶苦茶な」
「回答。 元より正しいものなんてないのです。 常識に囚われないのはあなたの理論ですよ」
「チッ……気に食わない奴ですね。 だったら、妖狐は誰なんですか?」
「質問。 だそうです成瀬さま。 回答を聞くにはこのタイミングでしょうか。 それでは」
番傘の男は言い、続ける。 今回の課題を。
「課題その弐。 嘘吐きを見つけましょう。 成瀬さま。 あなたが思う妖狐は誰でしょう?」
男は顔を上げ、俺のことを見る。 番傘と、割れた狐の面。 あのときと何一つ変わってはいない。
だったら俺も、変わらず答えてやろう。 今回のゲーム、手のひらで踊らされていたのはどっちなのかってことをな。
「……の前に、お前に言っておきたいことがあるんだ」
「返答。 良いですよ。 答えられる範囲でなら答えます」
表情を崩すことなく、臆すことなく、言い放つ。 今回のその課題、俺にとってはこの上なく楽なものだったよ。 言わせてもらえば、妖狐の勝利に持って行くことが一番の難題だったんだ。 村人側でも、人狼側でもなく……妖狐の勝利に持って行くのがな。
「お前、知ってるか? 俺が答えに辿り着いたタイミング」
「……」
やられっぱなしは気に食わない。 俺って案外根に持つタイプだから。 前回のループ現象で馬鹿にされた分、しっかりとここで返しておいてやるよ。
「おいおい知らないのか? それとも知ってて言わないのか? どっちだよ?」
「……返答。 申し訳ありません成瀬さま。 私には成瀬さまが気付いたタイミングとやらは存じません」
「そうか、知らなかったのか」
笑って、俺は言う。 番傘の男は表情こそ崩さないものの、その口振りから一瞬だけ、悔しさのようなものが感じ取れた。
「質問。 一体あなたはゲーム中のどの場面で気付いたのですか?」
「分かってないな。 俺がそれに気付いたのは、ゲーム中じゃないんだよ。 言わせてもらえば気付いたそのタイミングは、お前が俺と西園寺さんを連れてきたその日だ」
「……ほう」
まずは、その一手。 盤外で行われた、俺の初手だ。 そして、それは同時に決着を付けた一手だ。
一番最初、初歩の初歩。 だから言ったじゃないか、どいつもこいつも何も分かっちゃいない。 一番最初の一手で、勝負は決まっていたんだって。
「忘れたわけじゃないよな。 俺とお前が一番最初に交わした会話」
「返答。 初日の夜のことですね」
そう。 俺と西園寺さんが、この世界のルールを知らせれたその日だ。
「良いか? お前は最初、俺と西園寺さんにこう言った。 俺がお前に「リアル人狼ゲームってところか?」と聞いたときに」
この男は、あなたたちは人知を超えた存在になってもらいます。 あなたたちは処刑をされなければ狼に食われることもない。 と、そう言ったのだ。 それは明確に、俺と西園寺さんに向けた言葉。 複数人に向けて言った言葉。
「それがどうかしましたか? 私には何の変哲もない会話に思えます」
「そこだけ見ればな。 次に行くぞ」
次の会話。 西園寺さんが男に対して「狐とは何か」を尋ねたときに、こいつが返して俺が付け加えて、その後更に、こいつが付け加えたその言葉。
妖狐もまた人知を超えた存在。 人狼に食い殺されることはありません。 排除方法は一般的に村人会議での処刑。
「……失礼ですが成瀬。 その発言は別に妙ではないと思いますよ。 至って普通に返してますです」
「ああ、そこだけ見ればな。 だからさっきのこいつの発言と繋げる。 すると、どうなるか」
俺と西園寺さんに向けて、人知を超えてもらう存在になるとこいつは言った。 そして次に妖狐という役職に対しても、同じ表現を使っているのだ。 妖狐もまた人知を超えた存在だと。
「ここでまず、繋がる。 人知を超えた存在イコール妖狐ってな」
「なるほど。 それで?」
「話し方変わってるけど大丈夫か? はは」
「……返答。 失礼しました」
挑発にはとことん乗ってこないな。 それがとてもやりづらくあるが、だからと言って答え合わせが終わるわけじゃない。 この段階まで王手をかけられていることに気付かなかったお前の負けなんだよ。
「それで……俺はこう思った。 もしかしたら、こいつの言っている妖狐とは――――――――俺か西園寺さんのどっちかなんじゃないかってな」
敢えてわざわざ同じ表現を使っているんだ。 そう考えるのが普通だと思う。
そして、そう。 それが結論でもある。 つまり言ってしまえば今回のゲームでの妖狐、それは。
「まずは答え。 妖狐は西園寺さんだ。 俺でもクレアでも椿でもなく、西園寺さんが妖狐だ」
「……質問。 その理由を聞きましょう」
「構わない」
言って、俺は続ける。 俺が西園寺さんこそが妖狐だと思うその理由を。
「さっきのこともあって、俺はそう疑っていた。 でもその時点じゃ、まだ確信とは言えない。 もしかしたら、とか、可能性はあるかも、とか。 そういうのは嫌いだからな。 だから、確認したんだよ」
「確認?」
「ああ、そうだ。 俺がした六つの質問は覚えているか?」
俺が尋ねると、番傘の男は一瞬沈黙したあと、指を一本ずつ立てながら口を開く。
「その壱。 初日犠牲者の確認。 その弐。 勝利条件の確認。 その参。 敗北した場合。 その肆。 私の意図せぬ動きをした場合の確認。 その伍。 参加者の意思確認。 その陸」
そこで、番傘の男は止まった。 どうやら、気付いたらしい。 俺がした質問の意味に。
「まさか」
「そのまさかだよ。 質問その六。 あれは質問というより、要望だったけどな」
俺がした六個目の質問。 要望でも良いか? と尋ねた俺に対してこの男は、進行上問題がなければ良いと答えた。 俺の意図に気付かずに、な。
「俺も村人会議で処刑の対象になるように。 人狼に噛まれる対象になるように。 俺がした要望は、そうだったな」
「……正気ですか? 成瀬。 折角特別枠として参加ができているのに、それを捨てるだなんて」
「正気だったら勝てやしなかったさ。 勝つために、俺はその特権を捨てた。 この質問で得られる答えの意味、分かるか? クレア」
「答えの意味、ですか」
クレアはコメカミに指を押し当て、思考する。 しかし、すぐにそれをやめると手の平を俺に見せて言う。
「分かりません。 そのときの雰囲気を見ないとなんともです」
どこまでも直感的な奴だな。 折角話を振ったんだから、もっと考えて欲しいものだ。 けどま、良いか。
「俺は確認したんだよ、こいつが嘘を吐けるのか、吐けないのか。 今俺が言った要望なら、ゲームの進行上なんも問題はない。 むしろ、俺と西園寺さんがそうなっていた方が問題があるだろ? なのに、はは」
なのにな。 不思議なもんだ。 そして、その一瞬の間が俺に充分過ぎるほどの確信を与えた。
「こいつは、言い淀んだんだ。 一瞬だけ、俺の考えを読もうとした。 それに意味なんてないのに。 そしてこいつは、その要望を飲んだ。 いや……飲むことしかできなかったんだよ」
「……それで、見つけたと? 進行上問題がないその要望を飲むことしかできなかった……つまり、狐男が嘘を吐けないということを」
「ああ、そうだ。 そしてその嘘が吐けないって答えは、一番最初の俺と西園寺さんに向けた言葉に繋がる」
俺たち二人のことを指して、人知を超えた存在だと言ったその言葉。 そして、妖狐のことを指して、人知を超えた存在だと言ったその言葉。 二つの言葉は繋がり、答えを導き出す。
「それが俺の答えだ。 その答えを教えてくれたのは、他でもないお前自身だよ。 知らないことを知れて幸せだろ? はは」
「発言。 ふふふふふふふ。 愉快です。 とても愉快です。 ああ楽しい」
番傘の男は笑う。 今までにないほどに。 楽しくて楽しくて、笑いが堪えきれないといった感じで。
「発言。 発言です。 なるほどなるほどそれならば納得しました。 つまり成瀬さまがあのとき言った言葉はそういう意味だったのですね」
「そうだよ、ようやく分かったか」
最後に、俺が番傘の男に向けて言った言葉。
「これを推理ゲームだなんて、俺は思っていない」
ただの、殺し合いだ。 くだらない、ただの殺し合い。 力を持った人狼という役職が、他の人間を噛み殺していくただの殺し合い。 推理なんて、必要のないことだ。
「恐れ入りましたね。 これじゃあ確かに、私が負けたのも無理はないかもしれません。 天才ですか」
「クレアに言われるとなんだか嬉しくないな」
俺が必死に考えていることだとかをこいつは、一瞬の閃きで奪っていくのだから。 俺が天才だったとしたら、お前は一体なんなんだよってな。 本当の天才ってのは多分、クレアみたいな人種のことだ。
「発言。 最初の一手。 その時点で私の首は取られていたというわけですね。 お見事です」
「お前に言われるともっと嬉しくない。 どうせ、だからと言ってお前が死ぬわけじゃないんだろ?」
「回答。 ええ勿論。 私はただの提供者。 そしてあなた方は挑戦者」
「そうかよ。 けどさ、最後にこれだけは言わせてくれ」
「返答。 良いでしょう。 聞きます」
ずっと、言いたかったことだ。 それこそ、あのループに見舞われた夏からずっと、言いたかったこと。
「見事に足元掬われたな。 ざっまあみろ!!」
「……ガキですか、成瀬」
うるさいな、やられっぱなしは嫌なんだよ。 どれだけ俺が嫌がらせをされたと思ってんだ。
「発言。 ご忠告ありがとうございます。 次回は気をつけておきましょう。 私の仕返しにご期待ください。 それでは」
「答案。 おめでとうございます。 今回の答案は百点です。 妖狐は西園寺夢花さまでした」
これにてようやく、物語は終わる。 騙し合いの物語。 真実を見つける物語。 そして、殺し合いの物語。
「……成瀬くん」
「大丈夫か? さっきからずっとだんまりだったけど」
ようやく口を開いた西園寺さんは、下を向いて小さく呟く。 その声は震えていて、今にも泣き出してしまいそうで。
「う、うわぁああああん! わたし、わたしね! ずっと、ずっと成瀬くんに嘘を吐いてたの!! それが嫌で、悲しくて、つらくて……うっ、うう!」
否、泣いた。 子供のように、感情剥き出しで西園寺さんは泣いた。 前に泣かせてから数日……ああいや、現実世界の話ですると昨日か。 つい昨日泣かせてしまったばかりだというのに、また泣かせてしまった。
「お、落ち着いて落ち着いて。 別に泣くことないって」
「ひっぐ……で、でも……成瀬くん、怒ってると思って。 何も言わなかった私に怒ってると、思って!」
ああ、なんだか納得いった。 俺が狂人だと嘘を吐いたときに西園寺さんが怖がっていたのは、そのことだったんだ。 俺が怒ってそんなとち狂ったことをしたと思ったのか。 まったく……相変わらず、考える先がずれている人である。 でもそれが西園寺さんらしくて、俺はやっぱり一緒に居たいなって、そう思うんだ。
「大丈夫だよ」
なんら、問題なんてないさ。 俺と西園寺さんが交わした友達の約束は揺るがないし、絶対のルールなのだから。 だから俺はそれを忘れないでくれって念を押したんだけど……どうやらさすがに、今回のはつらかった様子で。
「俺も嘘を吐いた。 西園寺さんも嘘を吐いた。 だから言ったじゃんか、お相子だろって。 それで差し引きゼロだよ」
「……う、ん。 うん、うん……!」
とにもかくにも、長い長い夢は終わる。 俺が見た夢、西園寺さんが見た夢、そして。
「質問。 クレアさまはどうしますか? 私としてはずっとこの空間を維持するのもしんどいので帰って頂けると助かるのですが」
「そうですね、あなたのためにそうするのは正直言って嫌ですが……。 つまらないと思った世界にも、案外興味深い人は居るのですね」
クレアが見た、夢。 クレアは言いながら、俺と西園寺さんを眺める。
「分かりました。 私も帰ります。 ですが、負けた身でそれは良いのですか?」
「回答。 問題ありません。 クレアさまの働きも目を見張るものがあったので。 それに三百二十ニ戦三百二十一勝一敗というのは凄いじゃないですか?」
嫌味たっぷりに言う番傘野郎。 クレアはそれを聞くと頬を引き攣らせ、俺と西園寺さんを見ていた表情を一気に変える。 まとっている雰囲気も一気に変わる。 マジで余計なこと言いやがって。
「……決めました。 成瀬陽夢、西園寺夢花。 あなたたちをいつかぶっ殺してやります」
「物騒だな!?」
「あ、間違えました。 ぶっ飛ばしてやるです。 地面を舐めさせてやるです。 だからそのときまで、負けないでください」
それは果たして、何に対してか。 人狼ゲームに対してか、それともこの番傘の男が作るルールに対してか。 まぁ、どちらにせよ。
「当たり前だ。 次も黒星を付けてやるよ」
「ふふ、上等です。 それでは、また会いましょう」
「ああ、またな」
夢の中で出会った不思議な出会い。 こうして俺は、一人のライバルと別れを告げる。 終わってみてこう思うのもあれだけど。
……たまには、人狼ゲームという人の思いが混ざり合うゲームをしてみるのも、悪くはないか。




