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俺とルールと彼女  作者: 幽々
人狼の世界
43/173

六日目 村人会議 【3】

「……狂人、だと?」


「……」


驚いた顔で言う桐生院(きりゅういん)と、頬を一瞬だけ動かし、俺の方に顔を向けるクレア。 西園寺(さいおんじ)さんの方は……見れなかった。


「そうだ。 だから、俺たちの勝ちなんだよ。 狂人がこの場に二人居る以上、俺と椿(つばき)くんと人狼で、三人だ。 パワープレイが可能になる」


これを伏せるのには、かなり苦労したよ。 けれど、おかげでこの状況に持ってくることができた。 勝ちが確定しているこの状況に。 しかし、問題はまだある。


「……なるほど。 成瀬(なるせ)、あなたは狂人でしたか。 さすがに可能性は低いと思っていましたが……こういうこともあるんですね。 これだから、人狼ゲームは面白いです」


笑って言うのは、クレア。


「ふむ。 ということはつまり、このゲームは既に決着しているということだね。 なら」


そして、桐生院が()()を言いかけた、そのときだった。


「出ない手はないということですね。 カミングアウトを撤回します。 私が人狼です」


クレアが、人狼。 ということは、その対抗であった桐生院が本物の狩人ということになる。 だが、話はそう簡単に終わらない。


「は!? おいおい待て、クレア君、君が人狼のはすがない。 何故かと言われれば、こうだ」


そして、桐生院は言う。


「狩人カミングアウトを撤回する。 俺が本物の人狼だ」


……だろうな。 そうなるとは思っていた。 つまりこのゲームは、どちらが本物の狩人か当てる状態から、どちらが本物の人狼かを当てるゲームへとシフトしたのだ。 一見同じことのようにも思えるが、そうではない。


本物の狩人からしたら、この状況になったらそう言うしか方法がないのだ。 狂人を騙し、味方に付け、人狼の振りをして、本物の人狼を吊り上げる。 それしか、この状況で勝てる可能性はないのだから。


「アハハ! なんだなんだ、すっごい面白いことになってきたじゃん! さーてさてさて、どっちが本物の人狼でしょーか? 僕としてはそうだね、よっぽど狂っていそうなクレア推しかなぁ!」


ケタケタと笑いながら、椿は言う。 狂っているのは自分だとも知らずに、()()()()ながら、哀れな奴だよ。


「俺もそうだな、俺の狂人カミングアウトからすぐに反応したクレアが本物だと思う。 本物の人狼だったなら、その可能性も考えていたはずだ。 真っ先に反応したクレアを信じるのが当然だと思うしな」


「おいおい馬鹿か、君達は。 そんな狩人の戯言に惑わされるな。 俺が本物だ。 俺が今まで村人を食ってきたんだ!」


「いいえ、人狼は私です。 桐生院、滑稽ですね。 さっきは仲間であるはずの椿を切り捨てようとしていたのに、今は彼の力を欲しがっている。 なんて滑稽な光景でしょう? あれ、滑稽と光景ってどっちがどっちでしたっけ?」


再び言い合いをするクレアと桐生院。 それに耳を貸しているのは、俺と椿。 西園寺さんは……顔を伏せ、もう何も言わなかった。


このゲーム、始まった時点で決まっていたことなんだ。 俺と西園寺さんの役職、陣営が違えていた時点でどちらかが負けることは。 そして、そのどちらかが死ぬことも。 だから俺は自分を騙す。 気持ちを騙す。 全ては、勝つために。


「なら、まずはクレアに聞く。 自分が人狼だと証明できることはあるか?」


俺の問いに、クレアは自身のスカートを指でつまみ、お辞儀。 この仕草を生で見たのは初めてだが、随分と様になっているように見えた。 馬鹿力だったり死体を見ても平然だったり、かと思えば良いとこのお嬢様っぽかったり、良く分からない奴だな。


「ええ、勿論」


クレアは言い、続ける。


「私が本物の人狼でなければ、この状況にはならなかったんですよ。 桐生院が霊能を片方だけ吊り上げたのは覚えていますよね。 現に、その片割れである椿が生きているので」


「アハハ、そうだね。 あれはほんっと、ハラハラしたよ。 マジで」


「でしょうね。 言わせてもらえば、あの時点で違和感に意見することはできました。 少々頭の回る方ならば、桐生院の()()に気付くことはできたのですから。 ですが、言わなかった。 人狼陣営である私と成瀬にとって、その状況は大変好ましいものでしたから」


なるほど、やっぱりこいつも気付いていたか。 そしてそれを敢えて伏せていた。 この状態まで持ち込むために。


「だけど、それはあくまでもそれに気付いていたことが前提だろ? クレアがそれに気付いていなくて、今になってそれに気付き、多弁を使ってそう見せかけているってのはどうだ? 十分考えられるぞ」


俺がそう意見をすると、クレアは人差し指をコメカミに押し当て、返す。 その様子には焦りなど、微塵も感じられない。


「心配しなくとも、証拠はしっかりありますよ。 投票先を見てください。 成瀬と桐生院の意見が割れた日、そして有栖川(ありすがわ)弥生(やよい)が吊られた日、その日の私の投票先です」


クレアは言い、モニターに向かう。 そしてそれを操作して、画面に今言っていた投票結果を表示させた。


クレア・ローランド→矢郷矢取。


「おかしくはないですか? 私は成瀬の意見に賛成でした。 なのに、投票先は桐生院の案を支持するもの。 明らかな矛盾です。 理由は、当然のことながら……桐生院の案を利用すれば、好ましい状況へ持って行けるから。 賭けではありましたが、結果は成功ということですね」


にっこりと笑い、クレアは締め括る。 なんだか作り笑いみたいで恐ろしいが……人狼故の顔なのかもしれないか。


「ほらほらぁ! やっぱりこいつが人狼だろ!? ってわけで、桐生院さんバイバーイ」


椿は嬉しそうに、更にはしゃぐように誰に向けるわけでもなく言う。 それを聞いたクレアは、椅子へと腰を掛けた。 どうやら、説明は終わりということか。 俺を納得させるには、十分な理由ではあったな。


「……ふざけるな、ふざけるなッ!! お前ら、揃いも揃って馬鹿か!? そんな無茶苦茶な理論が通るわけがないだろう! 良いか、良く聞けよ?」


「あんたも大概、諦めが悪いな。 俺としてはさっさと終わらせたいんだが」


「良いからとりあえず俺の話を聞け。 そうすれば成瀬君、君にだってどちらが本物か分かるはずだ」


……やれやれ。 まぁ、クレアの言い分だけ聞いて桐生院のを聞かないというのは確かに差別的ではあるか。 一応、聞くだけ聞いてやろう。 折角、桐生院がここまで言いたそうにしているんだからな。 それだけ自信があるならな、聞いて損はないだろう。


「分かったよ、一応は聞く。 椿くんもそれで良いか?」


「僕は全然構わないよ。 時間はまだあるしねー。 遺言は聞いてあげなきゃカワイソウだし、アハハ」


俺と椿の言葉を聞くと、桐生院は一瞬だけ心底嫌そうな顔をして、口を開く。 自らが人狼である証拠を。


「良いか? 良く考えてくれ。 クレア君の意見はあくまでも、自分に有利になるように考え過ぎている、自分に都合が良い解釈をし過ぎているんだ。 その理論を組み立てている根本的なもの、それは「俺がミスリードをしてしまった」ということじゃないか」


「……まぁ、確かにそうですね」


クレアの言葉には何も返さずに、桐生院は続ける。


「馬鹿らしい。 そのひと言で片付けられるんだよ。 俺は真の霊能を排除するために、そうした。 それはどうしてか……分かるか?」


桐生院がそうした理由……か。 都合の良いように言えば、そんなのはいくらでも言いようがあるぞ? クレアの言い分を聞いた後では、よほど説得力がなければ意味はない。 だから、俺はそれを軽く受け流そうとしていた。 だが。


「俺は最初、霊能ローラーをするつもりだった。 成瀬君と同じ意見でね。 しかし、そうできない事態が起きたんだよ」


「そうできない事態?」


クレアの問いに、今度は顔を向け、桐生院は答える。 その表情はまるで、勝ちを確信しているようで。


「椿君の霊能結果だ。 椿君は対抗の霊能に黒を出した。 それはさっきもクレア君が狂人を暴くために出した話。 だが、その時点で俺は気付くことができたんだよ。 椿君が狂人だとね」


……そう言えば、そうか。 確かに桐生院がミスリードを分かりやすく初めたのは、それからだった気がする。 椿が対抗に黒を出したその瞬間からだ。


「人狼でしか知り得ない情報だ。 鮫島君が殺される一歩前より、俺は椿君が狂人だと気付けたんだよ。 だから俺は椿君を生かした。 多少の危険を犯してでも、この状況に持っていくために。 良いかい? クレア君から見たら失敗のように見えたそれも、俺にとっては成功だったんだよ。 俺は敢えてミスリードを行った。 村を壊滅させるためにね」


それは、全てをひっくり返す理由だった。 クレアの意見を打ち砕く、明確なはっきりとした理由だ。 桐生院のそれには筋があり、辿った道筋が明確に分かる。 だとすると、こいつが。


「更に加えて言わせてもらうと、有栖川弥音(やの)を噛んだ理由だ。 あいつは、邪魔にしかならなかった。 感情的になり、暴かれた人狼を助けようとする狂人など不要だ。 放置していれば、面倒なことになる可能性が高い」


「それともクレア君。 君にその理由が話せるのかい? 偽りの人狼である君に、村人陣営に有利になる動きしか見せていない君に、その全てを証明できるのかい?」


畳み掛けるように、桐生院は言う。 それを受け、クレアは……何も言えずにいた。


「……ふん、俺に勝とうなんて、考えが甘すぎる。 これで、セオリーの重要さが君にも分かったかな」


決まり、か。 これ以上何もなければ、桐生院の真は証明される。 クレアの行動全てに人狼のためであった理由がなければ、確定だ。


「……残念ですね。 うまく、やったつもりだったんですが」


ようやく口を開いたクレアの言葉は、負けを意味するもの。 そして同時に、自身の人狼を否定するもの。


「あはは、それはつまり、自分が人狼ではないと認める……ということだね?」


確認を取るように言うのは桐生院。 スマートさを求めるこいつなら、そこはしっかりと確認を取っておきたいこと……ってことか。 もう、十分すぎるはずなのに、酷い男だ。


「これが、チェックメイトというやつですか。 駄目ですね……セオリーも大事、ですか」


「良いから答えなよ。 カミングアウトをするんだ。 人狼カミングアウトを撤回して、ね?」


嫌味ったらしく、桐生院は笑う。 クレアはそんな桐生院に対して両手をあげ、降参のポーズ。 そして、その言葉を言い放った。


「分かりました。 人狼カミングアウトを撤回します。 私は狩人です」


「あはっ、あははッ!! あーはっはっはっはっは!! 俺の勝ちだ!! だから言ったじゃないか! 俺が本物の人狼だと! この間抜けどもめ! 最後の最後でようやく気付けるだなんて、どいつもこいつも馬鹿ばっかりだ! けどなぁ、けど最後は俺の勝ちだッ!! あー、間抜けな人間どもめ、今日の夜が楽しみだよ、ふふ、アハハハ!!」


……長かったゲームも、ようやく終わり。


「さぁ! 早く投票をしようじゃないか。 なぁなぁ成瀬君、君はどっちを食いたい? クレア君か西園寺君、好きな方を選ばせてあげよう。 こんなに気分が良いのも、君のおかげだからね。 あはは、あっはっは!」


「そうだな」


まくし立てるように言う桐生院を横目に、俺は西園寺さんとクレアの元へと行く。 西園寺さんは未だに項垂れていて、クレアは無表情で俺たちのことを見つめていた。


「……クレア。 お疲れ様」


「いえいえ、お見事でしたよ。 成瀬も桐生院も」


力なく笑って、クレアは言った。 なんとも言えないその表情から伝わるものは、全てを出し切ったことくらいだ。


「西園寺さん」


「……成瀬くん」


次に俺は、西園寺さんの元へと向かう。 それは騙してしまったことへの贖罪のつもりか、それともただ、彼女と話をしたかっただけか。 そんな自分のことながら、俺は分からない。 気持ちに関してだけ言えば、自分のことが一番難しいよ。


だから俺は言う。 偽りを正すために、騙しの物語を終わらせるために。


「終わりだ、西園寺さん」


「えへへ、そうみたいだね」


彼女は優しく笑う。 まるで友達に向けるように、仲間に向けるように、そして。


信頼しているパートナーに、向けるように。


「良かったよ、全部思い通りに進んで」


「あはは、そうだろ? まぁ俺としては、クレア君を信じようとしていた君には心底呆れたがね。 しかし最後にはしっかりと理解をしたようで、及第点ではあるかな」


そんな言葉を言う桐生院に俺は向き直り、言う。


「悪い悪い。 あんたがしっかりしてなかったら、そこまで頭を回せる奴じゃなかったら、どっちが本物なのか分からなかったよ」


「無理もない。 クレア君も中々に頑張っていたからね。 俺の方が一枚上手だったというだけの話さ。 さて」


桐生院は指を鳴らし、俺の方へと詰め寄る。仲間である俺に。


「そろそろ終わりにしよう。 時間はまだあるが、結果は決まった。 さっさと投票を済ませて、ディナーにしようじゃないか。 成瀬君、どちらを食すかは決まったかい? まだ決まっていないなら、俺が選んでしまうよ?」


いいや、違うか。 正確に言えば――――――――仲間であると思い込んでいる俺に、だ。


「どっちを食うかなんてのは決まってないけど、投票先なら決まったよ。 いや、でもある意味では食うってことになんのかな」


「……ん? おいおい、それは同じ意味じゃないか。 残された方を食うのだから」


違うなぁ。 悪いけど、全然違うんだよ。 だってさ、俺が投票するその先は。


「今日の投票先は桐生院さん、あんただ」


「……は?」


ようやく、ようやくここまで辿り着けた。 複雑に入り組んだ思考を紐解いて、辿り着いた結末。


「聞こえなかったか? だったら分かりやすく言ってやるよ。 狂人カミングアウトを撤回する。 俺はただの村人だ」

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