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俺とルールと彼女  作者: 幽々
人狼の世界
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六日目 村人会議 【2】

「うーん、もう明白かな? そんな適当な護衛先、あり得ないよ。 咄嗟に作ったのが目に見えているしね」


「勝手にそう思っていれば良いです。 伝わる人に伝われば良い。 成瀬(なるせ)、あなたには分かるはずです」


西園寺(さいおんじ)さん然り、クレアもまた無茶を言う奴だな。 俺に一体何を求めているんだっての。 でもま、少しずつ見えて来た気がするよ。 クレアに対して、他の奴らとは違った感じを受けた理由が。 今までの違和感と、その正体に。


「ぼ、僕としては桐生院(きりゅういん)さんの真を推したいです。 クレアさんのはその……いまいち、勝とうとする意思を感じないというか……」


「もっともだね。 勝とうとする意思があるなら、占い師の護衛はするべきだ。 君はただの一度も占い師の護衛をしていないじゃないか」


普通なら、普通の人狼ゲームなら、この時点で場の意見はそれで固まる。 もしもそれで負けたのなら、クレアが本物の狩人だったなら、間違いなく戦犯はクレアとなるのだから。


けれど、今回ばかりは違う。今回のこれを通して良く感じたのは、実際に顔を合わせて行うゲームと、ネットを通して行うゲームの違い。 実際に顔を合わせて行うこれは、とても感情が入り混じるのだ。 それぞれの気持ちだとか、思いだとか。 それは俺が一番苦手とすることで、その点で言えば……元々不向きな俺にとって、最悪の内容でもあるゲーム。 だが、それ故に見えてくることだってある。


だからこそ、考えなければならない。 クレアの思惑、こいつが何を企んでいるのかを。 こいつのしようとしていること、それを一切違わずに。


「けど、それはあんたも一緒だぞ。 あんただって、一番落としてはいけないときに占い師の護衛を外したんだ。 クレアよりは確かに信憑性はある……それは確かだ。 でも、だからと言ってあんたが信用できるってわけじゃない」


問題は、そこだ。


いくらクレアのそれが怪しいと言っても、桐生院のそれだって十二分に怪しい。 今まで占い師ばかりを護衛していたこいつが、突然にそれを外した理由。 目的は……俺の排除、か? それとも、本当に一か八かに賭けたか。


「うーん、困ったね。 これじゃ、いくら話しても平行線じゃないか」


「ですね。 というわけで、私から提案があります」


胸をぽんと叩き、クレアはそう言った。 なんとも良い音が出ていたので、それについて何かを言おうと思ったけれど、言ったら酷くデリカシーのない行為だと寸前で思いとどまる。 下手をしたら殴り殺され兼ねないからな、この怪力女の場合は。


「提案?」


「はい。 どちらが偽物の狩人なのかを見つける前に、今この場に狂人が居るのか、という話し合いを行うのです」


なるほど、一旦はその件については棚に上げるということか。 そして、行方が知れない狂人が居るのか居ないのかを判断する……か。 確かにそれが分かれば、場合によっては今日に余裕ができる。 五人居るこの場なら、人狼陣営が一人だけの場合、どちらが本物か分からない狩人を二人共吊るしあげて終わりという道も選択できるんだ。 人狼を吊ればその時点でゲームは終了、本物の狩人を吊り上げてしまった場合でも、明日には決着。 けれど、その場合はクレアか桐生院、どちらかの本物の狩人が死ぬことになる。 それもまた、一か八かの賭けだ。


「異論はありますか? です」


「俺はないよ。 平行線を進む話し合いをしても仕方がないしね。 それに狂人が居るのか居ないのか分かれば、こちらの狩人の真偽という棚に上げた問題も進展があるかもしれない。 人狼の癖に中々良い案じゃないか、クレア君」


「……」


すぐに答える桐生院と、返答に困る俺と西園寺さん。 答えられないんだ。 そんな、人を見捨てるような言葉を発せられないんだ。


「沈黙は肯定と受け取ります。 では、始めましょうか」


それはもしかしたら、クレアなりの気遣いだったのかもしれない。 答えられない俺と西園寺さんに対する、無理矢理話を進めるという気遣いだ。 やはり、俺の考えが正しければ……クレアは。


「まず、消去法で行きましょうか。 この中で一番可能性がなさそうなのは、西園寺夢花(ゆめか)でしょうね」


だろうな。 俺目線からではなく、村人の視点から見たときの話だ。 占い師によって白を出されている西園寺さんだとしても、狂人の可能性はある。 しかし、西園寺さんのこれまでの発言から考えて、人狼に有利に働きそうなものは一つもない。 西園寺さんがもしも狂人だったなら、仕事をしない狂人ということになる。 つまり要するに、西園寺さんは九割九分……村人だ。


「そして、次になさそうなのは成瀬です。 共有者カミングアウトで村人側だと思い込ませた狂人……という考えもできますが、二日目でのカミングアウトから考えると、大きな賭けに出すぎている気がするのです。 人狼の場所も未だに分かっていない中、そんな賭けに出るとは考えにくい。 それに」


「人狼を一人、罠にかけて吊るしあげている。 からだね」


割って入った桐生院に、クレアは頷く。 俺が罠にかけた人狼……夢島(ゆめしま)夢子(ゆめこ)のことか。


「すると、残ったのは誰でしょう? 椿(つばき)


「ぼ、僕ですかっ!? ぼ、僕は違いますよ! 村人ですって!」


「いやいや馬鹿ですか? それとも、自分の()()()()を覚えていないアホですか? むしろここまで誰も気付かなかったのが妙ですよ。 誰も何も言わなかったのがあり得ないんです。 わざと言わなかった人も、居るかもですが」


クレアは言い、俺の方を見る。 そして続けた、その言葉を。


「だってあなた、言ったじゃないですか――――――――有栖川(ありすがわ)弥生(やよい)を吊るした翌日に、黒だって」


今更な話だな。 クレアは誰か一人を指したような言い方をしていたが、恐らくこの場に居る全員はそれに気付いていて、敢えて放置をしていたんだ。 人狼ならばこの状況に持っていけるように、俺ならば人狼に繋がる手掛かりになるように。 西園寺さんの場合もきっと、俺と考えは一緒だろう。 そして、クレアの場合は……最後の人狼を炙り出すために。 それは俺や西園寺さんよりも確実に、確信的に。


「……あ」


「ふふ、おかしいですよね? 椿、あなたの視点から見たら、鮫島(さめじま)(れん)を吊った時点でゲームが終わっていないと変なんですよ。 なのに、未だにゲームは続いている。 というわけで狂人さん、こんにちは」


これは果たして、演技なのか。 人狼であるクレアが、自信を本物の狩人に見せかけるために、仲間である狂人を炙り出すという演技なのか。 それとも本当に演技ではない? 一体、どっちだ?


「あ、あはは」


そして、追い詰められた椿は笑う。 楽しそうに楽しそうに、面白そうに、嬉しそうに、最後に……狂ったように。


「アー、アハハ。 バレちゃったかぁ。 でもでも、この状況に持ってこれたなら充分じゃない? マジで」


「ひ、人が変わったよ成瀬くんっ!」


いや見れば分かるって。 というより開き直ったと言った方が近いかもしれないが。


「さてさて、狂人の場所はこれで分かりましたね。 つまり、今日の選択肢は二つです。 椿を素直に吊るか、私か桐生院のどちらかを吊るか。 さて、どうしましょう?」


クレアはくるりと回り、俺と西園寺さんの方に顔を向ける。 その表情からは、とてもそうしたいというのは伝わってこない。 何か、まだこいつには考えがある。 何かしらの策があるようにも見える。 クレアの考える最後の策とは一体。


「……もう、人が死ぬのは嫌だよ」


俺の手を握り締め、このゲームを共に歩いてきた彼女は言う。 辛そうに、悲しそうに。 人の痛みを知れる西園寺さんからしたら、この狂ったゲームは俺なんかでは計り知れないほどに、辛いんだ。


「なら、今日で決着を付けましょう。 私か桐生院のどちらかを吊りましょう。 桐生院、あなたはどっちを吊れば良いと思います?」


「あはは、それはとても滑稽な質問だよ、クレア君。 俺から言わせてもらえば、まずはこの狂人を吊るべきだ。 そして、今日は恐らく西園寺君か成瀬君のどちらかが噛まれる。 狩人が噛まれたら、残った狩人の真が確定するからね。 さすがにそんな真似は人狼もしないだろう。 だから、そこで護衛を成功させるか、失敗してしまうかにも寄るけれど……今日この場で俺かクレア君を吊るよりかは、可能性としては高いと思うね。 時間を置いて、一旦はゲームオーバーを先延ばしにする。 それが取るべき道だよ」


セオリーとして、それが最善。 賭けに出るよりも、より確実な方法で。 それは言わば、暗黙のルール。 そうするのが当然で、そうするのが当たり前。 取るべき行動はそれしかない。


だが、クレアは言う。 珍しく、笑って。 桐生院のことを馬鹿にするような笑いだ。


「だから駄目なんですよ。 だからあなたは負けるんですよ、桐生院。 ルールに従うだけじゃ、何も見えてこない。 敷かれたレールを辿るだけじゃ、光は見えない。 私から言わせてもらえば、セオリーなんてクソ食らえです。 ルールなんてクソ食らえです。 この日本で、私が好きな言葉の一つにこんなのがあります」


クレアは人差し指を立て、それをくるくると回して言う。 思い出しているのか、目線だけを天井に向けて。


「ルールは破るためにある。 でしたかね」


衝撃を受けたね、俺は。 こんなハッキリとルールを切り捨てる奴は、生まれて始めて見たよ。 俺が頭を使ってルールの抜け穴を探すことなんかよりもよっぽど馬鹿で、考え足らずで、適当で、そして――――――――爽快だ。


「だから私は従わない。 占い師の護衛が狩人の義務? この状況では狂人を先に吊るのがセオリー? そんなの知らねーです。 私が守りたい人を守って文句あるんです? 私が進めたいようにゲームメイクをして文句あるんです? 私に逆らう奴らは皆殺しです。 あ、言い過ぎですかね?」


とんでもないことを言う奴だ。 でも、同時に愉快でもある。 こんなにハッキリと物事を自分が思うように言えるだなんて。 俺にはない何かを持っているんだ、こいつは。 クレア・ローランドという少女は、自分の中に信じている確かなものがあるんだ。


「……君みたいなのが居るから、こうやって窮地に追い込まれているんだろうね。 今回のゲームは」


「ふふふ、だからなんですか。 最後に勝てば良い。 そして追い込まれているのはあなたなんですよ、桐生院」


「……へえ。 その理由、是非とも教えて欲しいな。 確かに俺は人として気に食わない奴かもしれないけど、人狼ゲームはそんな感情論で片付けては駄目なんだよ」


正しい、こいつの言っていることは正論で、普通に見れば怪しいのはクレアでしかない。 苦し紛れの言い訳にしか聞こえないし、優位に立っているのは桐生院のはずだ。 なのに、どうしてだろう。 俺はこのゲーム、この時点で勝ちを確信していたんだ。 もう絶対に、俺と西園寺さんが負けることはないって。


「あなたは負けますよ。 理由は私がそう思うからです。 あなたは私の意見に反論してしまったから、そこに居る狂った二重人格さんを切り捨ててしまったから、負けます。 そうやって仲間を見捨てる人がどうなるのか? 簡単なことじゃないですか。 正義のヒーローの周りにはいつだって、沢山の人が居るんです。 正義は必ず勝つんです」


「子供の相手は疲れるねぇ。 理由がそう思うから? 馬鹿馬鹿しいにもほどがあるよ。 そんな殴りつけるような理論で、君の思ったように物事は進まないよ。 そうやって、自分の人狼を隠す君はとても醜い。 仲間を切り捨てているのは一体、どちらだろうね?」


「ふふ、にしては、随分と嫌そうな顔ですね。 一般的な顔を合わせない箱型電子機器を使って行う人狼ゲームならば、それが知られることもなかったのに」


箱型電子機器とは、また妙な言い方だな……。 素直にパソコンと言えば良いのに、妙なところで日本語に拘っているのが見えているぞ。


……と、そんな脳内ツッコミをしている場合ではなかった。 クレアの言葉から、俺のするべき行動を考えよう。 まず、クレアの意見は無茶苦茶だ。 しかし、それは恐らく的を射ている。 だからこそ、こうして桐生院は正論で返すことしかできない。 いや、本来ならばそれで充分なのだが。


「憶測は止めて欲しいかな。 常識で考えるのも重要だよ。 そして、セオリーというのもとても重要だ。 例えば、占い師が初日や黒を見つけたときに名乗り出ること、これもまたセオリーじゃないか。 君はこれも否定するのかい?」


「ええ、勿論。 私が占い師だったなら、全ての人狼を見つけ出すまで伏せていましたね。 その方が、思いっきりルールを破った気分で気持ち良いので。 そして桐生院……話を逸らさないでくださいよ」


クレアはにっこりと微笑んで言う。 とてつもない威圧感を伴って。 話振りと、纏っている雰囲気。 とてもじゃないが、俺や西園寺さんと同年代だとは思えない。 こいつ、本当に一体何者なんだ?


「黙れ。 もう、感情論は聞き飽きたし、君のくだらない意見に付き合う義理もない。 ここは村人である二人に聞くのが一番良い」


そう言って、桐生院は俺と西園寺さんに顔を向ける。 その際にクレアが「逃げた。 雑魚め」と言っていたが、桐生院はそれに対してもう何も言わなかった。


まぁ、俺としてもいつまでも二人で言い合いをされて困っていたところだったから、正直に言うと俺たちに話を振ってくれたのは助かったよ。


俺の意見も、やり方も、考えも、丁度纏まったところだったしな。


「ああ、それよりさ。 そんなくだらない話し合いをする前に、俺はさっきからずっと言いたいことがあったんだよ」


「……君のその失礼な発言については見過ごしてあげよう。 その言いたいこととやらをとりあえずは聞こうか」


桐生院は見るからに苛立っている。 先ほどのクレアとの言い合いがまだ尾を引いているんだな。


だったら、俺は助けなければ。 ()()()()()を。


「椿が狂人だってことさ、実はクレアに言われるまで全然気付いてなかった」


「はぁああ……。 何を言うかと思ったらそんなことかい? 君は頭が回る方だと思ったけど、それと同時にかなり抜けている。 だから疑われるんだよ、人狼や狂人なんじゃないかと」


酷い言い方だな。 俺はそこまで間抜けではないのに。 けど、まぁ……変に説明するよりも、そっちの方がよっぽど手っ取り早いんだ。 省略させ方としては最悪だけど、問題はそこじゃない。


「いやいや、別にもう構わないさ。 椿が狂人だと分かったこと、それが俺にとっての収穫だからな」


さて、いよいよ終わりにするときが来たようだ。 ようやく、この言葉を俺は口に出せる。


「役職カミングアウトを撤回する」


「……は? それは、成瀬君。 どういうことだい?」


桐生院はまるで、豆鉄砲でも食らったかのような顔をしていた。 当然だ、それだけうまく、俺は隠し続けていたんだ。


「聞こえなかったか? 共有者カミングアウトを撤回する。 そして、カミングアウトだ」


「……な、成瀬くん? どういう、こと? 何を……言っているの?」


悪いとは思っている。 でも、ゲームはゲーム。 遊びは遊び。 例えそれが命を賭けていたとしても、俺は負けを選びたくはない。 勝てる可能性があるならば、その道筋があるならば。 俺はそれを辿っていく。 所詮、そんな奴なんだよ、俺は。


「悪いな、騙して。 だけどお相子だろ?」


言って、俺は宣言をした。 本当の役職を。


「このゲーム、俺たちの勝ちだ。 カミングアウト、俺は狂人だ」

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