四日目 村人会議
「ひ、ひぃ……」
腰を抜かしたのは、矢郷。 集まった俺たちの目の前にあるそれは、とても作り物のようには見えない。 紛れもない現実で、決して他人事ではないのだ。
横たわっているそれは真っ赤に染まっていて、恐らくは鈴見かと思われる死体。 首の辺りが裂けており、一目で絶命していると分かるほどの傷。 いや、そもそも本当に鈴見なのかさえ分からないほどに原型は留めていなかった。 漂う臭いは血の匂い。 見える光景は異常なもの。 体はところどころ裂け、死体の周りは赤く染まっていて、その死体の近くには何かが散らばっている。 そんな、異常な光景だ。
「うっ……!」
「……っ!」
それを見て、その場に居たほぼ全員は顔を逸らす。 当然だろう、同じ人間の死体なんて、一生に一回見るか見ないかだ。 それに加えてこの有り様。 獣に食い散らかされた死体。 嫌悪感が生まれるのは、当然のこと。
「どういうつもりだよ……あの野郎」
勿論、俺も。 今の今まで、死体が出てきたことなんてのはなかったのに。 俺はどこかでまだ、夢でしかないと決めつけていたのかもしれない。 だって、こんな現実味があるものを見せられてしまったら。
……俺もこうなってしまうんじゃないかって、思ってしまうだろうが。
「うわ、がっつりいってますね。 イチコロじゃないですか? これ」
そして、そんな死体の傍にしゃがみ込むのは木葉ちゃん。 話しかけている相手は、屋代さんだ。
「首、足、腹もか。 ったく、朝から気分わりぃなクソ」
「まさに獣に食われたって感じですね」
加えて、二人の動じない会話に入っているのは、クレア。 それはまるで見慣れているかのようだった。 死体が現れるなんて絶対にあり得ないし、非日常なことだと思うのに、この三人だけは別のものを見て過ごしてきたんじゃないかと思わせる反応。 分かりやすく言えば、手馴れていると言っても良い。
「は、早くどうにかしてくださいよ……。 ぼ、僕、倒れちゃいそうです」
体を震わせながら、椿。 小心的な性格からして、耐えられないのだ。 別にそれが変ってわけじゃない。 むしろ、この場に居る人はほぼ全員、椿と同じ心境だろう。 認めたくない、あれが昨日まで何事もなく話していた鈴見だなんて。
「よし、とりあえず朝の話し合いはそれをどうにかしてからにしようか。 というわけで、そこの三人は慣れていそうだし、なんとかしてくれると助かるね」
「……お前も平気そうだけどな、桐生院」
「何を言うんだい、屋代君。 俺はこれでも結構怯えているんだよ、平静を装っているだけでね。 はは」
ともあれ、こうして死体が片付けられるまでの少しの間、屋代さんたち三人以外は一旦、自室へと戻って行くのだった。
「大丈夫か?」
こんなときに一人にさせるわけにはいかず、西園寺さんは俺が呼び、俺の部屋へとやってきている。 部屋に入れるとすぐに俺はコップに水を一杯入れて、それを手渡す。 ベッドに座る西園寺さんは「ありがとう」と小さく言って、それを飲み干した。
「どういうことなのかな……。 今まで、あんなことはなかったのに」
なかった、というわけじゃないだろう。 それは確実にあったのだ。 俺や、西園寺さんや、他の連中がそれを知らなかったというだけで。 鈴見に限った話ではなく、俺たちの知らないところで起きていたことだ。 毎晩誰かが一人ずつ、ああして食われていたんだ。
「ああなりたくなければ必死になれってことじゃないか、多分」
俺たちだけに向けたメッセージではなく、他の奴らにも向けたメッセージ。 心の何処かで楽観的に考えていた俺たちに真実を見せることで、必死にさせる。 そんな魂胆が見えているような気がする。 けど、真意までは分からない。 きっとあいつは楽しんでいるだけだろうけど、それを理解はしたくない。
「……酷いよ、あんなの」
その言葉に俺は返事ができなかった。 鈴見はたまたま人狼に食われた存在だけど、このゲームで死んだ奴はそれだけじゃない。 人狼に食われた奴だけじゃなく、他にも死んでいる奴らは存在する。
……昼の村人会議で、俺たちが多数決で処刑してきた人たち。
今まで処刑された人たちの中には、俺が追いやった奴もいるんだ。 死に方はどうであれ、俺が殺したも同然。 いくらあいつらが作られた存在でも、それぞれにそれぞれの人生があったんだ。 昼の時間、有栖川姉や屋代さんや木葉ちゃんと話して、それを知ってしまった。 そこまでいったらもう、俺たちとなんら変わらない存在なのだと。 そしてそんな彼らを俺は、少なくとも何人かは確実にこの手で殺してきた。
「成瀬くん、ルールってなんなんだろう? 殺し合いをしないといけないルールなんて、絶対におかしいよ」
「……だな」
それでも、例えそれが異常なことだったとしても。 俺はやらなければいけない。 じゃなければ、次にああなるのは俺たちかもしれないのだから。 やるべきことはやらなければ、生きて帰れはしない。
まったく思い通りに動いてしまっているな、これじゃ。 しかし奇跡的な解決策や妙案なんてない。 俺がしなければいけないことは、このクソみたいなルールに従って勝つことでしかないんだ。
「成瀬くんは、帰りたい? みんなが死んじゃっても、元の世界に」
「それは……」
「……ううん、変な質問だったよね。 成瀬くん、がんばろ」
西園寺さんも分かっているんだ。 このルールに従っていけば、人が死んでいくことを。 だけど従わなければ帰れないことを。 それを言葉にするのは難しいし、してはいけないんだと思う。 人を殺すことは絶対に、肯定されてはならない。
「西園寺さん」
だから、決めた。 そんな普通の人間がすべきことではないことを誰がするべきなのかを。 これ以上、西園寺さんに人間離れしたことをさせないために、俺に何ができるのかを。
「西園寺さんは、もう良いよ。 後は俺に任せてくれないか?」
「……それって」
「俺は大丈夫だから。 これ以上、西園寺さんの辛い顔を見る方が、よっぽど嫌なんだ」
人間でなくなってしまうのは、俺だけで良い。 それが西園寺さんのためとなるならば、別に良いさ。
「返事は、しないよ」
「それでも構わない。 けど、俺は本気でやる。 まだ冬だって迎えてないしさ」
「……」
西園寺さんは何かを言いたそうにしていたが、丁度良いタイミングで屋代さんが部屋を訪ねてきてくれたおかげで、その話は結局のところ有耶無耶となった。 俺はそれで良いと思ったし、西園寺さんもきっとそうだ。 西園寺さんの性格からして俺任せにはしないだろうけど、それを言葉にして決めるのは難しいから。 嫌な役目は俺が背負いたい。
そして再び、俺たちはロビーへと集まる。
「さて、みんな気分が乗らないだろうけど、まずは占い結果から聞こうか」
桐生院は言い、その場に居る全員の顔を見渡す。 この場に居るのは、俺と西園寺さん、屋代さんと木葉ちゃん、それから、クレア、椿、鮫島、矢郷、桐生院の九人。 初日に居た十五人から、既に六人もの人が死んでいる。
そんな焦りからか、今日からは自由時間はなし。 時間が来るまで徹底的に話し合おうとのこと。 無論、その提案に反論をする奴なんて居なかった。 命を賭けて、人狼を見つけるのだ。 一分一秒だって惜しいに決まっている。
「つっても、片割れは食われちまったけどな。 まぁ言うぞ、今日の占い先は椿。 結果は……白だ」
椿が、白。 つまり、俺の考えが正しければ狂人だ。 確証があるわけではないけれど、これで人外の位置は大体分かって来たか? 椿の人狼の可能性がなくなったということは。
昨日の霊能カミングアウトで、夢島が黒なのは確実。 あいつは間違いなく人狼だった。 そして、その夢島に白を出した有栖川姉は狂人。 今回の内訳は狂人が三で、人狼も三。 今の占いで狂人が椿だと仮定すると……。
残るは、狂人が一人の人狼が二人。 九人中、三人が人外ってことか。
「その占い先は失敗ですね。 やる気あるのかです?」
うまいのか下手なのか、微妙なニュアンスで言うのはクレア。 俺目線、こいつが狂人の可能性も人狼の可能性も十分すぎるほどにある。 だが、一理あるな。 もしも俺が占い師だったなら、占い先は。
「私か、鮫島か、桐生院。 このどれかを占うべきでしたよ、今日は」
俺の思考を読んでいるんじゃないかというタイミングで、クレアは言った。 初日から感じていることだが、こいつは妙に手馴れている感じがするんだよな。 何回も何回も人狼ゲームをやってきたような……そんな感覚を受ける。 経験者って設定だったりするのか?
「悪かったな頭が回らなくて。 とりあえず理由を言うぞ。 昨日、椿の対抗である有栖川が処刑されたからだ。 もう片方を占っておけば、そこに人狼が居た場合はかなり有利になる。 まぁ、結果は駄目だったけどな」
「なるほどね。 良くはないけど悪くもない理由かな? 真占い師って時点でもっと慎重に動いて欲しいけど、てんで的外れってわけじゃない。 それじゃあ、次は椿君の結果を聞こうか」
指を鳴らし、桐生院は椿に向けて言う。 その仕草がキザでなんだか腹が立つが、容姿もあってか様になっているのは否定できない。
「あ、ぼ、僕ですね。 僕の結果は……黒でした。 た、たぶん」
「多分? どういう意味だ、それ」
「ひっ! あ、そ、その……ごめんなさいごめんなさい! 黒です!」
いやそこまで怖がられても……。 西園寺さんとはまた違ったタイプで罪悪感がたまるな、これ。
「……成瀬くん、年下の子をいじめたら駄目だよ?」
「……悪かったよ」
ほら、こうなるじゃないか。 だから子供は嫌なんだ。 扱いづらいったらありゃしない。
「黒ね。 なるほど……」
その言葉の意味を咀嚼するように、桐生院は言う。 考えていることはもしかしたら、俺と同じかもしれない。 この結果は……少し面白いことになりそうだ。 使うべきタイミングは、慎重に選ぼう。
「えーっと、つまりなんだ? 椿の視点から見たら、残る人狼は一人ってことか? がはは! 余裕じゃねえか!」
「だから、それは椿さんの視点から見たときの話でしょう? そういうのを決めつけと言うのです。 数あるパターンの全てを考えてください、デブ」
「で、デブって……」
……クレア怖いんだけど。 端正な顔立ちからは想像もできないぞ。 多分だけど、大男的な意味合いで使っているんじゃないか。 機会があったら正しい言い方を教えてあげたいものだ。
と、そんな無駄なことを考えている場合じゃないな。 暫定白の俺も発言はしておかないと。
「言ってることは合ってるな。 そうやって決め付けるのが一番危険なんだよ。 それに矢郷さん、あんただってまだグレーなんだぞ? その発言は怪しくもある」
「ちょ! 違うって! 俺は人間だ! 人間!」
「あはは、ならそうだねぇ。 今日は怪しさ丸出しの矢郷君でも吊っておくかい? 共有者君」
ニヤニヤと笑い、桐生院は俺にそんな提案をする。 こいつのこの試すような言い方はどうにも好きになれそうにないな。 裏がありそうで、なさそうな感じだ。
「早まるなよ。 大体、グレーでって話ならあんたも一緒だぞ」
「ははは、やぶ蛇だったかな?」
現段階でグレー部分に居るのは、桐生院、矢郷、鮫島、クレアの四人。 そして、残された吊り回数は四回。 残されている人狼は……二人か、一人。 さて、椿の白が決まった以上はこのグレーから吊り先を選ぶことになりそうだな。 もしも椿が狂人だったとしても、人狼を全て処刑すれば狂人の存命に関係なく、村人側の勝ちだ。
「ところで」
そこで口を開いたのは、クレア。 見ている方向は――――――――――俺?
なんだ? なんだか……とてつもなく、嫌な予感がする。 寒気のような感じだ。 いや、それとは少し違う……か? これは……恐怖? 恐れているのか? クレアの次の発言を。 まるで事態が全て、ひっくり返されるような、そんな雰囲気すらも感じる。
「成瀬。 あなたの相方を教えて欲しいです。 生きていても死んでいても構わない。 もう屋代の本物は決まっているし、私たちもそれが前提で会議を進めている。 だから、情報を増やしたいです」
……ここまでだったか。 いつかは誰かに言われるとは思っていた。 ひょっとしたら最後まで隠し通せるんじゃないかと期待もしていた。 だが、このタイミングで突っ込まれるか。
「そうだねぇ。 それは俺も気になるところだよ。 この世の中にはさ、万が一ってことがあるんだ。 万が一……例えばそうだね。 君が、共有者じゃない場合、とかね?」
くそ……厄介なことになってきたぞ。 うまくどうにかしなければ、今日の吊り先が俺に向かう可能性だってある。 この場を凌ぐ方法は……一つか。
その相方を西園寺さんに仕立てても良い。 聡明な彼女なら、俺の意思を一瞬で汲み取って話を合わせることだってできるだろう。 でも、それじゃ駄目だ。 俺が思っている以上に、人狼側にも厄介な存在が居ることは間違いない。 そいつを追い詰めるためにも、切り札は残しておきたい。
「死んでるよ。 俺の相方は初日に居た爺さんだ。 人狼に食われて死んだ爺さんだよ」
「ほう。 だったら、君が言っていた「相方は生きている」というのは嘘だった、ということかな?」
「そうなる。 ブラフだと思ってくれ。 改めて撤回して欲しいなら、宣言はするけど」
「……ふむ」
さて、どう出る? この件に関しては、突っかかってきたのは桐生院とクレアだ。 こいつらさえ黙らせてしまえば、俺が共有者だという嘘はバレることはない。 それに、今まで必死に隠してきたことだ。 こんなところでそれを崩されてしまっては最悪の展開にしかならない。
「分かりました。 それならそれで仕方ありませんですね。 死人に口なしとは良く言ったもので、まさしくこの状況がそうなのですから」
「君は納得するのかい? クレア君。 それじゃあまるで、君と成瀬君が人狼同士に見えてきちゃうよ」
助かったと思った矢先、桐生院が口を挟む。 やはり、頭の回る奴だ。
「……こいつらがグルだって言うのかよ? 桐生院」
桐生院の返しに反応したのは鮫島だった。 ここまであまり会話には積極的に参加してこなかった彼女だが、今日の朝の一件で自分の置かれている本当の状況を理解でもしたのだろう。 それは鮫島に限らず、この場に居る全員が……だけども。
「可能性としてはあり得るってことだよ。 最初にその件を出したのは、クレア君だしさ。 予めそういう打ち合わせをしていて、成瀬君を本物の共有者に見せかけようとしていることだって考えられるだろう?」
「あ、あのっ!」
桐生院と鮫島の会話に、西園寺さんが手をあげて口を開く。 見過ごせない状況だとでも思ったのか。
「……良いよ、西園寺さん。 西園寺さんはただの村人だろ? いくら俺と仲が良くても、それはしない方がいい」
西園寺さんにだけ聞こえるように、俺は言う。 西園寺さんは恐らく、自分が俺の相方だと言おうとしたんだ。 それが一番手っ取り早く、俺の潔白を証明する方法だと気付いて。
「……うん、そうだよね」
西園寺さんは言いながら、指で頬を掻く。 飲み込みの早さだけは本当に、素直に尊敬してしまいそうだ。
「で、こればっかりはいくら話しても答えなんて見つからない。 成瀬君が本当に共有者の可能性だってあるし、俺がさっき言ったような可能性もある。 それは、君も分かるだろ?」
桐生院は指を鳴らし、俺の方に顔を向ける。 こいつがもしも人狼だったなら、見事と言うしかなさそうな演技だ。
「そうだな。 相方が死んでいる以上、証明のしようがない」
変に反論をするよりも、納得ができる部分は同意をしておいた方が良い。 怪しまれず、疑われず、人狼を見つけるのが俺の仕事だ。
「分かりましたです。 私も少々言い過ぎましたね、訂正しましょう。 成瀬にもまだ人狼の余地はある、と」
落ち着く場所は、この辺りか。 確信を持たせず、グレーの位置。 一人で共有者を演じるというのは案外、疲れるもんだな。
「さて、それじゃあ今日の方向性だ。 屋代君、君には今日……成瀬君以外を占って欲しい」
「は? 成瀬以外をか? 俺としては成瀬の白黒をはっきりさせておきたいんだが」
「考えなよ、まだ吊り回数には余裕があるんだ。 今日はまず、グレーの数を減らすところから。 俺はさ、どちらかと言えば成瀬君のことは白寄りで見ているんだ。 だからこそ、他のもっと怪しい部分を占って欲しい」
正直に言うと、俺をいち早く占って欲しくはあったが……ここで何かを言うのはマズイか? いやでも、俺自身を占ってくれと言うくらいなら問題はないか?
「んじゃ、アタシか桐生院かクレアか矢郷の誰かを占うってことだよな? グレーの中に居る誰かを」
「そういうこと。 それで今日は、更にそのグレーの中から吊られる人を選ぶ。 成瀬君を吊っちゃっても良いけど、彼は頭が良さそうだからね。 本当に共有者なら、これほど頼りになる存在はないだろうし、俺としては彼以外を薦めるよ」
時計の針は回っていく。 投票時間まで、残された時間はあまりない。
「俺はクレアに投票するぞ! こいつは初日からどうも怪しいからな!!」
大きな声で言うのは、矢郷。 グレーの中に居る一人。
「なるほど。 私のどこが具体的に怪しいのか、教えてもらえます?」
矢郷とは対照的に、落ち着いてクレアは返す。 綺麗な碧眼で矢郷のことを見据えながら。
「さっきの成瀬の件もそうだろ? 俺から見たら、お前と成瀬が人狼に見えて仕方ないんだよ。 だから今日はお前に投票する。 悪く思うなよ、お嬢ちゃん」
「あっそ。 だからと言って私が吊られるとは決まってないですから。 それよりもあなただって充分に怪しいですよ? 黙っていたと思ったら、自分が吊られるかもって状況になってからいきなり喋り出すところとか。 ふふ」
「お、俺は村人だっての! くそ! やっぱりお前はそうやって嵌めようとしているんだろ!?」
ヒートアップしてきた会話を止める者は誰も居ない。 全員がその会話に耳を傾けている。
その状況がなんだか気味が悪く、異常なんだ。 九人もの人が居ながら、全員考えていることは「誰に投票するか」なのだから。 誰を殺すか、なのだから。
「もしも潔白を証明したいなら、カミングアウトをすれば良いですよ。 矢郷」
「ぐっ……! ねぇよ、そんなもん……」
悔しさを露わにしながら言う矢郷。 そして、それを見て微笑むクレア。
「なら、お互いにグレーということで」
「あ、あの!」
会話が振り出しに戻り、お互いに口を噤んだところで口を開いたのは西園寺さんだった。 朝に何もしなくて良いと言ったのに、どうしてこう……首を突っ込むんだか。
「何ですか? 西園寺」
「その、クレアちゃんは何かカミングアウトがあるのかなって思ったんだけど、違うのかな?」
……クレアが? いや、それはさすがにないだろ。 俺としてはそれはあり得ないことだって思うのに、西園寺さんは何かに気付いたのか?
「どうしてです?」
「だって、クレアちゃんは余裕そうだったから。 普通だったら、矢郷さんみたいに慌てると思うし」
「……そんなの、場数の違いです。 私もカミングアウトはないので」
クレアは西園寺さんから目を逸らし、言う。 何かを隠しているようにも見えて、何もないようにも見える。 そんな仕草だ。
「えへへ、そっか。 わたしの勘違いだったかも」
そこで会話は終わる。 やって来るのは、投票時間。
現在グレーに居るのは、矢郷、クレア、桐生院、鮫島、そして俺。 残されている吊り回数は四回。 俺視点で言ってしまえば、俺以外の全員を吊ればゲーム終了だ。 だが、それは他の奴らから見ても言えること。 最善は屋代さんが人狼を見つけてくれることで、最悪は人狼が見つからないことか。 ごくごく分かりやすい二択である。
さて、そうなると問題は今日の投票先。 感情的なものではなく、事実から考えるべきだろう。 交わした会話から、今の段階で一番怪しい奴を見つければ良い。
桐生院……こいつは確かに怪しい。 だけども、村人だからこその発言もいくつか見られる。
クレアも同じだ。 何を考えているのか読めない部分もあるけれど、それ以上にさっきの西園寺さんとの会話を考えるべき。 もしもこいつが何かの役職持ちだったなら、今の段階で吊ってしまうのはマズイ。
だから、俺は。
成瀬陽夢→矢郷矢取。
西園寺夢花→桐生院庄司。
矢郷矢取→クレア・ローランド。
屋代元→矢郷矢取。
八代木葉→矢郷矢取。
桐生院庄司→クレア・ローランド。
鮫島憐→クレア・ローランド。
椿薫→クレア・ローランド。
クレア・ローランド→矢郷矢取。
『矢郷さまとクレアさまが同数票となりましたので再投票となります。 時間内に再度投票をしてください』
なるほど。 ここに来て意見が真っ二つというわけか。 そして恐らくは……。
成瀬陽夢→矢郷矢取。
西園寺夢花→矢郷矢取。
矢郷矢取→クレア・ローランド。
屋代元→矢郷矢取。
八代木葉→矢郷矢取。
桐生院庄司→クレア・ローランド。
鮫島憐→クレア・ローランド。
椿薫→クレア・ローランド。
クレア・ローランド→矢郷矢取。
『結果。 矢郷矢取さまが五票となりましたので処刑です。 お疲れ様でした』
考えるべきは。 そして、このゲームの流れと結末は。 恐らく、この瞬間に決まったんだ。




