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俺とルールと彼女  作者: 幽々
人狼の世界
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三日目 村人会議

「さて、それじゃあ始めようか」


桐生院(きりゅういん)の言葉に、全員の表情が強張ったのを感じた。 それもそうだろう、今日の人狼の噛み先の不自然さは恐らく、全員が感じていることだ。 通常の進行ならば絶対に起きない違和感。 そんな不自然さが溢れている噛み先。


「の前に、他に霊能のカミングアウトはないんだよな? これでまた出てきてくれれば楽なんだが。 はっはっは!」


豪快に笑って言うのは矢郷(やごう)。 この状況でカミングアウトは他に出ることはまずないだろうに、もっとマシなことは言えないのか。


「あるわけねーって。 んなの自分から人外ですって言ってるようなもんだろぉ? そんで、今日は霊能のどっちかを吊るって話だったよな? 桐生院」


矢郷さんの言葉を一蹴したのは、鮫島(さめじま)。 この二人は今のところグレー部分というだけあり、積極的に話を振っている節がある。 それが怪しいとも取れるし、村人だからこそとも取れる。 まさしく、グレーな存在。


「うん、そうだね。 けれど、人数的にもまだそう焦る時期ではないと思う。 だから俺は、一つ提案をしよう。 こんなのはどうだろうか?」


「提案?」


桐生院の言葉に、俺は返す。 この状況で提案も何もないと思うが……。 素直に霊能ローラーを行うべきじゃないのか? セオリー通りでいくならば、それがもっとも確実な方法だろうし。 そこに居ると分かっている人外を放置しておくこともないはずだ。 より確実で、間違いのない方法であるそれを。


「そ。 ここで敢えて霊能を残しておくんだ。 勿論、二人共ね」


……霊能を残す、だと?


「あん? おいおい、それって要するに、人外を一人残しておくってことだろ? なんの意味があるんだよ、それ」


屋代(やだい)さんは眉間に皺を寄せて、桐生院へと詰め寄る。 相当な迫力だな……さすが本物。


だが、桐生院はそんな屋代さんに臆すことはなく、指を一本立ててこう答えた。


「余裕がなくなったときに吊ればいい。 そうすることで、人狼の噛み先をある程度誘導できる」


「誘導、ですか? それって、メリットは……あるんですか?」


次に口を開いたのは、西園寺(さいおんじ)さん。 さすがに人が多いところでは例のアレが出てしまうのか、俺と手を繋いだまま。 未だに少し震えているが、最初に比べたらその震えもほとんどないように思えた。


「忘れたのかい? この村には狩人も居るんだよ。 まぁ、まだ存命しているのかは分からないけどね。 それでも、もしも生きているなら……護衛成功のパターンも見える。 だから、敢えて二人を残すんだ」


だからこそ霊能を二人残す。 それが意味することは、人狼がその二人以外を噛む方が状況は有利に動くため。 最初の占い師四人カミングアウトと一緒だ。 紛れているであろう狂人の可能性を考えて、そこは噛んでこないという見方。


「人狼が二人の内、どっちかを噛んでくるということはねえのか? 賭けに出る可能性は」


言う屋代さんの顔は、とても不審そうなものだ。 疑っているのだろう、桐生院を。 けど、桐生院の言っていることにも確かに一理はあるんだよな。 だからこそ、厄介なんだ。


「ないよ。 人狼は無駄な噛みは避けるはずだからね。 人狼から見ても、二人のどっちが本物かなんて、今の段階じゃ分からない。 だから二人を残すことで、人狼の噛み先をそれ以外へと移す」


「……無駄な噛みと言えば、今日の朝のも変じゃない? こう言っちゃあれだけどさ、弥音(やの)さんってほぼ人外だったよね? どうして彼女が噛まれたの?」


言うのは、占い師である鈴見(すずみ)。 もっともだな……それについては俺も、未だに何故なのかが分からないんだ。 あそこで人外を噛む理由、一体何だろうか。 可能性は色々あるが、一番有力なのは俺たちを混乱させるためってところか?


「本物だった……ってことはねーよな? 姉貴が」


「ないだろう。 恐らく理由は、人狼にとって何かしら不都合なことが起きた、だろうね。 そもそもそれについては、考えるだけ無駄だよ。 ノイズについて考える必要はない。 見るのは弥音君が狂人で、人狼がわざわざそれを噛んでくれたということだけだよ」


まぁ、そうなんだよな。 それは考えても無駄なこと……桐生院の言う通り、ノイズでしかない。 今するべきことは、他の人外を排除していくことであって、無駄な考えをしている場合ではないんだ。 人狼の目的が混乱させることだったなら、俺たちが特に気にしなければ、メリットでしかない。


「というわけで、意見がないなら俺がさっき提案したのでいくけど、良いかな」


「ああ、そうだな。 桐生院さん、それはとっても良い案だと俺も思う」


「だろう? それじゃあ、今日はグレーの人たちから選ぼ――――――」


「なんて言うと思ったか? 桐生院さん、確かに良い案にも思えるよ。 ただし、一見な」


方法としては、あり得ないと言っても良い。 そんなのは馬鹿のすることだ。 もしも桐生院が本気でその進行をするつもりなら、どうやらこいつのことを買い被り過ぎていたことになる。


「……へぇ。 聞こうか、共有者君」


桐生院は薄っすら笑みを浮かべて、俺に顔を向ける。 妙な悪寒を感じるような、そんな顔で。


「簡単な話だ。 人外がそこに紛れているというのに、それを見過ごす理由がない。 噛み先の誘導? 狩人の護衛頼み? そんなのは希望的観測だ。 良いか、このゲームは確実に人外を葬っていくゲームなんだよ。 運試しのゲームじゃねえんだ」


こうなれば御の字だとか、こうなるだろうとか、そういうものではない。 そんな不確定要素で考えていたら、飲まれるだけ。 人外を全部葬るか、俺たちが食われるか。 そのどちらかでしかなく、それだけを考えれば良い。 だから今考えるべきは、如何にして人外の数を減らすことか。


「つまり、君は霊能ローラーを推す、というわけかい?」


「無論。 この状況でその選択を取らないのはあり得ない。 狩人が今も生存している保証なんてないし、第一に占い師が確定している中、霊能力者なんてもう居ても意味はない」


「チッ……言い方が気に食わねえな、おい」


俺を睨みつけるのは、当の本人である有栖川(ありすがわ)弟。 自分を処刑しようとしている奴が目の前に居たら、そういう顔にもなるだろう。 それにもまた、慣れなければならない。 このゲームを実際に対面してやれば、必ずこういうことは起きる。 それは初めから分かっていたことで、今更気にしていられない。


「私は賛成です。 共有者の指示に従うのは基本ですよ?」


手を上げたのは、クレア。 お前、さっきまで思いっきり疑っていたのに良く言えたなと思うが、言ったら殴られかねないので止めておく。 俺の中ではもう、男一人を軽々片手で引っ張るくらいの怪力女という認識なのだ。 逆らわない方が身のため。


「なら、わたしも賛成かな。 成瀬(なるせ)くんの言っている方法が一番良いと思うから」


西園寺さんはまぁ、味方になってくれるだろう。 分かっていたことだけど、こうして改めて宣言してくれたのは少しだけ、嬉しかった。


「んー、アタシも賛成だぜ。 桐生院の案はちーとばかし、運要素が強すぎるしよー。 アタシってほら、運ないから」


「チッ。 俺は桐生院の案を推す。 当然だろ? 本物の霊能である俺が死ななくて良い道があるならそっちを選ぶ」


「ぼ、僕も……桐生院さんの案が良いです。 その、死にたくはないから……」


霊能ローラーを推すのが俺を含めて四人の、桐生院の案が本人を含めて三人。 霊能力者の二人は当然反対ってわけか。


「がっはっは! 俺も反対だ! 確定で人外が紛れてるってことは、確定で村人側も居るってことだからな! 吊るのは最後に回しても構わん!」


「むー、難しいけど、あたしも反対にしとこうかな」


……こいつらはきっと、何も考えちゃいないな。 流れに流される奴らだと考えておけば良い。 特に思考することもせず、感覚でゲームを進行する奴ら。 そして、その感覚すら曖昧な奴らだ。 人狼ゲームにおいては、簡潔に言ってしまえば足手まといの無類。 こんなこと、西園寺さんに面と向かって言えばきっと叱られる。 成瀬くん、悪く言っちゃ駄目だよ。 とかなんとか言われて。


「俺は成瀬の案で良い。 木葉(このは)は?」


「当然、僕も成瀬さんの案で構いませんよ」


そして、俺側へと付いてくれたのは先ほどの休憩時間を共に過ごした二人。 こうなることが事前に分かっていたら、俺はもっと協力的で居て良かったかな。


というか、もしや西園寺さんは予想していた……のか? 今日のこの流れを? だからこそ、昼の時間に屋代さんたちに協力をした? いや……考えすぎか。


けど、だとしたら、それはとても恐ろしいことだ。 そこまで人の気持ちを見据えることができているのだとしたら、それはそれで人間離れをしている。


そう思って、俺は西園寺さんの顔を見る。 しかし、その表情からは何も読み取れない。 ただただ、ロビーに居る全員の顔を観察するように見ている西園寺さんの表情からは。


「賛成が五人の、反対が四人か。 まぁ、妥当と言えば妥当な結末かな」


「何言ってんだ。 賛成多数で決まりだろ? 成瀬の案で」


屋代さんが言うも、桐生院は首を振って否定する。 そして、こう言った。


「俺は別に多数決を取るなんてひと言も言っていないじゃないか。 だからこうしようと思う」


時計の針は、動く。 今更気付いたが、時刻は丁度……投票の時刻になっていた。


「それぞれが自分の思うところに投票すれば良い。 今日はそうしよう」


「は? おい、ちょっとま――――――」


『三日目の夜時間となりました。 投票先をお選びください』


やられた。


あの野郎……これを狙っていたのか? だが、その目的はなんだ? 桐生院は人外……なのか? だとすれば納得が行くが、少々それっぽすぎる。 あんな行動、分かる奴からすれば明らかにミスリードとしか思えない。 それとももしや、本当にそれが正解だと思っている? 或いは、別の何かを考えている?


……いや、止めよう。 一旦はそれについて思考するのは止めだ。 まずは、今日の投票先。 霊能のどちらかに投票するのは変わらない。 怪しさで言えば、やはり椿(つばき)の方か。 有栖川の方も怪しいと言えば怪しいけど、どちらかと言えば椿の方が人外臭くはある。 問題は、それを感じ取れた奴がどれほど居るか、だけども。


そう考えている間にも、俺以外の全員が投票を終える。 そして、最後に残された俺もゆっくりと投票台へと向かい、投票先を選ぶ。


モニターに表示されたのは、投票結果。


成瀬陽夢(ようむ)→椿(かおる)


西園寺夢花(ゆめか)→椿薫。


矢郷矢取(やどり)→有栖川弥生(やよい)


鈴見羽美(はねみ)→桐生院庄司(しょうじ)


屋代(はじめ)→有栖川弥生。


八代(やしろ)木葉→有栖川弥生。


有栖川弥生→矢郷矢取。


桐生院庄司→クレア・ローランド。


鮫島(れん)→有栖川弥生。


椿薫→桐生院庄司。


クレア・ローランド→矢郷矢取。


『結果。 有栖川弥生さまが四票となりましたので処刑です。 お疲れ様でした』


それからのことは、あまり覚えていない。 有栖川弟が処刑室へと向かっていき、俺たちはそれを黙って眺めていて。


最後に見たあいつの顔は、酷く絶望したそれだったのくらいしか、覚えていない。





「クソ……。 まんまとやられたな」


自室へと戻り、ベッドの上に座って髪を掻き上げる。 やはり、人がごちゃごちゃ居るところよりはこうして一人で落ち着ける場所の方が、よっぽど考えるのに向いている。


俺目線、明らかに黒いのは桐生院と椿薫。 あいつらは恐らく、人外。 だとは思うのだが……そうだとすると、殆ど全部の人外が炙りだされていることになる。 果たして、そんな簡単に物事は進んでいるのか?


何か、うまいこと嵌められているような気がして仕方ない。 ここまでの流れから考えて……一番最悪のパターン。


……占いが、人外に乗っ取られている? いや、それはないと決めつけたはずだ。 あの二人は限りなく白に近い占い師。 そこを信用しなければ、話は進まない。


だとすると、不自然な点を考えるべき。 まず気になるのはやはり、クレアだ。


あり得るとすると……あそこが狂人、或いは人狼か。 そうすると、狂人は有栖川姉、狂人または人狼がクレア。 この二人が確定していることになる。 やはりこうなってくると、クレアを占ってもらっておくべきだったか?


で、問題は人狼。 一人は夢島で確定だ。 残るのは二人。 クレアが狂人だった場合は椿か桐生院、こいつらのどちらかが人狼だと考えられる。 そして、クレアが人狼だった場合。 その場合もやはり、人外臭いのは椿か桐生院だ。 つまり。


クレアが村人側だった場合。 その場合、椿か桐生院のどちらかが人狼で、更にもう一匹人狼が潜んでいると考えられる。 可能性としては、椿が狂人で桐生院が人狼。 そして、もう一匹俺たちの中のどこかに人狼が潜んでいるパターン。


次に、クレアが人狼側だった場合。 その場合、クレアが狂人のパターンと人狼のパターンで二通り。 まずは狂人の場合だが、そのパターンは椿が狂人という可能性がより濃くなる。 有栖川姉、クレア、椿が狂人の三人で、夢島と他に二人の人狼が居る場合だ。


最後に、クレアが人狼だった場合。 そのパターンだとどうなる? 狂人の所在が掴みづらくなるな。 そして、椿が狂人か人狼か、そのどちらかというのも見えづらくなってしまう。 このパターンはないと思って良いか? さすがにこれだと、人狼側が露呈しすぎな気がしてならない。


考えろ、考えろ考えろ考えろ考えろ考えろ。


今、この状況で考えられる可能性。 全てをひっくり返した場合はどうなる? その場合、最悪の可能性は……。


……椿が真の霊能で、桐生院もまた村人側?


『ワオーン!! ワオーーーーン!!』


聞こえてきたのは、遠吠え。 洋館全体が揺れるような、低い低い声。 そして、廊下を駆ける音。


もしも俺が噛み先に指定されたら、この足音は俺の部屋の前で止まるのか。 そりゃちょっと、笑えそうにはない。


それから再び思考をしようと思ったのだけど、どうやら予想以上に疲れは溜まっていたらしい。 気付いたら俺は、寝てしまっていた。


夢の中でまた寝るのにも、早くも慣れてしまったものだ。 これが日常になって欲しいとは、露ほども思わないけどな。






『四日目の朝となりました。 鈴見羽美さまが無残な死体で発見されました』


そんな最悪な知らせのアナウンスと一緒に、聞こえてきたのは悲鳴。


何事かと思い、慌ててその声の元へ行った俺が見たものは、普通に暮らしていれば絶対に見ることのない光景。


どうやらその場には全員が集まっていて、その全員の顔が一部を除いて青ざめていたのがはっきりと分かったんだ。


簡単に、ごくごく簡潔に述べてしまおう。


つまり、俺たちが見たのは鈴見羽美の()()だ。

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