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俺とルールと彼女  作者: 幽々
人狼の世界
28/173

一日目 朝

一日目の朝。


西園寺(さいおんじ)さんの部屋は俺とは隣同士にあり、朝一番で顔を合わせることになっている。 そして昨日、あの男が言っていたように初日には狼に噛まれる者はいない。 配置された人数、十五人からのスタート。


「あ、おはよう成瀬(なるせ)くん。 なんだか夢の中でまた寝るって、変な感じだね」


「……んー、あー、そうだなぁ」


……寝起きはつらい。 低血圧の俺にとってはまさに地獄である。 せめて夢の中でくらい、そういうのにならないよう配慮をして欲しいものだ。 昨日、ついでに要望出しておけば良かったかな。


「えへへ、成瀬くんって朝に弱いよね。 いつも眠そうな顔でちょっと可愛いかも」


「……っはあ!? 何言ってんの!?」


一瞬で目が覚めた。 朝からビックリだ。 可愛いとか言われたの生まれて初めてだぞ……。 俺に向けて「可愛い」って正直言って感性を疑うレベルだが……。 そう思ってから、そういえば自分のことだと思い出して悲しくなる。 いやでもやっぱり俺に向けて可愛いって感性おかしいだろ。


「本当のことだよ? 今度朝起きたら、鏡を見てみて。 絶っ対、成瀬くんも同じこと思うはずだから」


やだよ。 なんでただでさえ気が重い朝に鏡を見て、更に気を重くしないとならないんだ。 考えただけで気が滅入るっての。 どうせ見るなら、西園寺さんのような美人の顔の方が断然良い。 そこまで考え、今でもわりと毎朝見ていることを思い出した。 ということはつまり、朝見る顔でその日のテンションは変わらない。 良い教訓だな。


「今度機会があったらな。 とりあえず、ロビーへ行こう」


廊下での立ち話もそこそこに、俺は西園寺さんへ言い、歩き始める。 いつまでもここで話しているわけにはいかないだろう、俺たち以外に十三人も居るこの状況では。 にしても十三人か……。 一体、どんな奴らが居るのだろうか? 全員が全員、あの番傘の男のような奴だったらぶっちゃけ詰んでるぞ、これ。 攻略的な意味ではなくて、俺の気分的に。 あんな奴を十三人も同時に相手できる気がしない。


「……あ、成瀬くん」


と、先を歩く俺の服を掴んで西園寺さんが口を開く。 振り向くと、西園寺さんはなんだか不安そうな顔付きをしていて。 まぁ、確かに気持ちは分からなくもないか。


「大丈夫だよ。 ルールは説明するし、俺がサポートするから。 西園寺さんは思ったことを言えば良い」


「ううん、そうじゃなくて。 わたし、本当に良かったのかなって」


本当に良かったのか? って、なんの話だろう?


「やっぱりわたしも、成瀬くんと同じ立場になるべきなのかなって。 昨日の夜、ずっと考えてたの」


ああ、そういうことか。 それならば、俺にはしっかりとした考えがある。 だから、問題はない。


俺が出した要望によって、俺は村人会議で処刑される対象にもなれば、狼に噛まれる対象ともなっているわけだ。 そして西園寺さんは処刑もされなければ、噛まれることもない。 いくらあることを調べるためとは言え、絶対的に安全な立場の人間は一人欲しい。 そうすれば、もしも俺に何かがあった場合でも状況を打破できる。 例えば、俺が死んでしまった場合でも。


「良いんだよ、これで。 どっちか片方がこうならなければ駄目だったんだ。 西園寺さんならきっと、俺の考えも分かるはずだから」


「……分からないよ。 わたし、成瀬くんの考えなんて、分からない」


今はそうかもしれない。 けど、絶対に西園寺さんなら気付いてくれる。 俺よりもよっぽど人を見ている西園寺さんなら、必ず。


「今はそれでも良い。 だけど西園寺さん、約束だけは忘れないでくれ」


「約束……」


「そうだ。 俺と西園寺さんがした、友達の約束。 困ったときとか、辛いときとか、悲しいときとか悩んだときに思い出してくれ。 そうすれば、絶対に俺たちは負けたりしない」


俺と西園寺さんが決めた四つのルール。 それさえあれば、今回は乗り越えられる。 お互いがお互いを疑わなければ、お互いがお互いに敵対しなければ、それさえなければ、絶対に必勝のゲームだ。


「うん、分かったよ。 成瀬くん、わたし変なこと言っちゃってたよね」


「良いって。 俺も俺で変なことを言っているわけだし。 んじゃまぁ……行こうか」


言って、俺は手を差し出す。 今から行くのは人が居るところで、そこには当然男も居るだろうから。


「……ありがと」


そんな意思を汲み取ってくれたのか、西園寺さんは俺の差し出した手を握る。 暖かい、人の手だった。




「お。 どうやらこれで全員か? いち……に……さん……」


階段を降りる途中、最初に目に入ってきたのは広いロビー。 そしてそんな広めのロビーの中心に立って、階段を降りている俺たちを見つけると、そう口を開いたのは若い男。 男にしては長い髪で、その髪を後ろで一本に縛っている男だ。 目付きは鋭く、なんだかその筋の人に見えなくもない。


「だーかーらー。 あんたさっきも数えてたでしょ。 それで十三人だったんだから、あっこの今来た二人を入れて十五人。 これで揃ってなかったらホラーよ、ホラー」


腕組みをして、数を数え始めた男に対して言うのは女。 赤い髪のショートカット。 口調は若干男寄りにも思える。


「よっしゃ。 まーまーお前ら早くこっち来い。 とりあえずは自己紹介ってことにしようじゃねえか、旅の人達」


俺と西園寺さんを指さし言うのは、屈強な感じの男だ。 背は高く、体格もかなり大きい。 歳は……結構行っているのか? 俺の父親よりも若そうだが……三十後半、くらいかな。


まず、最初に口を開いたのはその三人だった。 集まっている人達の中心に立っていることから、今この場ではこの人物たちが基本的に取り仕切っていると思える。 そして、一癖ありそうな連中たち。


にしても、旅の人達ってのはなんだ……? そういや昨日、あの番傘の男もそんな感じのことを言っていたっけ?


「よし来たな。 まずは俺からだ。 俺の名前は矢郷(やごう)矢取(やどり)。 この()には、自然保護の仕事で来ていたんだ」


俺と西園寺さんがその場所へ着いたのとほぼ同時に、屈強な男……矢郷は口を開く。 しかし、待て。 今……島と言ったか?


「島……ですか?」


俺の影に隠れながら、西園寺さんは言う。 俺が近くに居るからなのか、距離が少しあるおかげなのか、西園寺さんの手からは震えをあまり感じられない。 前にスーパーで武臣(たけおみ)と遭遇した頃と比べれば、多少はマシになってきているのかな。 だとしたら、それは良い傾向だと思う。


「ああそうよ。 ってか、お前さんたちは旅の途中で寄ったんだろ? この島に。 俺はそう聞いているんだが……」


……なるほど。


「あーはい。 そうです。 そうしたら、こんなことに巻き込まれちゃって。 はは」


「ったく、本当に災難だよねぇ。 あっと、あたしは鈴見(すずみ)羽実(はねみ)。 この島には……へへ、お宝探しでやって来てるんだ」


俺の言葉に反応したのは、ショートカットの赤髪の女。 やはり、そういう()()となっているってことだな、これは。


「……成瀬くん成瀬くん、これってどういうこと?」


「……多分、俺たちの設定が旅人ってことになっているんだ。 そして、ここは島っていう設定。 まぁ窓から外を見た限り……本当に島になってるっぽいけど」


そして、恐らくここは無人島。 そこを様々な目的で訪ねてきた人が十五人。 しかし、そんな最中に人狼の存在が発覚し、ゲームがスタートした。 そんなところだろうか。


「おい、何コソコソ話しているんだよ、お前ら」


「ひっ!」


俺と西園寺さんに顔をぐいっと近づけて言うのは、先程の長髪の男。 威嚇するような目付きと、威圧するような言葉遣いが特徴……か。


「喧嘩は駄目ですよっ! 屋代(やだい)さんッ!」


そんな俺たちと長髪男の間に割って入るのは、背の小さな少女だった。 黒髪のショートカットで、腰には……刀ッ!? おいおい、なんで刀持ってんのこいつ!? 玩具だよな? さすがに玩具だよな?


「お、おう……わりぃ。 お前らも、いきなり悪かったな。 俺の名前は屋代(はじめ)。 この島へは……まぁ、旅行ってところだな。 そんで、このちっこいのは……」


「ちっこいのって言わないでくださいっ! 僕にもしっかり名前があるんですっ! あ、おはようございます。 僕は八代(やしろ)木葉(このは)です」


屋代さんに、木葉……ちゃんか。 屋代さんは何故か、木葉ちゃんには頭が上がらないって感じを一瞬受けたが……どういう関係なのかが気になるな。 それと、その刀は何に使うんだと問い(ただ)したい。 本物ではないよなと尋ねたい。


「えへへ、可愛いなぁ。 木葉ちゃん、よろしくね。 その刀、強そうだね」


……どうやら、西園寺さんは玩具だと思っているらしい。 俺にはどうにも、重量感から本物の刀にしか見えないんだけど。


「はいっ! よろしくですっ! この刀は適度な硬さの物までなら、斬れますよ。 結構強いんです」


そして、握手を交わす西園寺さんと木葉ちゃん。 西園寺さんの性格的に、仲良くなれるのかもしれないな。 西園寺さんが気兼ねなく話せる人が増えるというのは、良いことでもあるか。 なんだか問題がありそうな人物だということは置いといて。


「あーだりぃ。 おいおい、そんな風に仲良しこよしをしたって、どうせ夕方には一人吊るすんだろ? んなら、呑気に自己紹介している場合でもねえだろうがよ」


ポケットに手を突っ込みながら、握手をする西園寺さんと木葉ちゃんを見下ろすのは、金髪の男。 耳にはピアスで格好は今を生きるヤンキーといった感じだ。 この洋館には酷く似合わない服装と出で立ち。 バイクにでも跨っていれば、完全に暴走族のそれである。


弥生(やよい)ちゃん、駄目だって。 そういう風に言うのは、メッ! だよ」


言いながらその男の腕を掴むのは、背の高い女性。 なんだか、口振りからして西園寺さんがそのまま大きくなった印象の人だ。 俺もいつか、西園寺さんに「メッ!」とか言われんのかな。 嫌だなそれ。


「えっと、ごめんなさい。 私は有栖川(ありすがわ)弥音(やの)。 それでこの子が有栖川弥生。 私たち、姉弟(きょうだい)なんです」


「ほお。 なんか仲良いと思ったらなるほどなぁ。 出来の悪い弟と出来の良い姉か。 がっはっは!!」


いや俺もそう思ったよ。 けどそれを口にするのはどうなんだ、矢郷さん。


「んだとこのデブ!! テメェ、喧嘩売ってんのか!?」


……おいおい早速喧嘩かよ。 勘弁してくれ本当に。 こんなんじゃ、まともにゲームにすらならないぞ。


「はっはっは。 元気良いなぁ、君たちは。 けど喧嘩は良くない、なんと言っても俺たちは協力しあわないといけないのだから。 言ってる意味、分かるかな?」


そこで口を挟んだのは、眼鏡の男。 スーツに身を纏い、同時に落ち着いた雰囲気を放っているようにも思える。


「ああ、自己紹介だったね。 俺は桐生院(きりゅういん)庄司(しょうじ)。 この島へは……そこの姉弟君たちと一緒だね」


「一緒……っていうのは?」


言ったのは、西園寺さん。 どうやら、幾分か落ち着いてきているのか、普段ならば決して俺以外の男と話そうとはしないのだが……状況が状況だけに、西園寺さんも努力をしているってことかもしれない。 とは言っても、ある程度の距離は保ったままだが。


「ツアーだよ、ツアー。 無人島ツアーってやつだね。 ここに居る殆どの人間がそうなのさ」


ツアーか。 そりゃまた、とんでもなく運が悪いツアーだな。 ある意味で俺と西園寺さんも相当に運が悪い方だけども。


「ってことは、残りの人達も?」


俺が残された人達の方を見て言うと、早速反論がある。 どうにも、上手く纏まるってことは難しそうな連中だ。 協調性がないというか、それぞれにキャラが立っているというか。


「アタシは違うぜ。 アタシはこの島へ漂流したんだ。 漁師をやってんだけど、最悪なことに船が転覆して……そんで、気付いたらここに居たってワケよ」


女性にしては短髪の、さっぱりした雰囲気の人は言う。 女性で漁師とは……パワフルな人だ。


「あ、あの……ぼ、僕も違います。 ぼ、僕はその……」


おどおどしながら言い出したのは、少年。 ひょっとしたら、木葉ちゃんよりも小さいか? 見た目的に言えば、小学生にも見える。


「だーもう、うっせえなぁ。 おどおど喋るくらいなら黙れ。 さっきからこいつ、ずっとこうでウザくねーか?」


そしてそんな少年を睨みながら言うのは、白いワンピースに身を包んだ大人しそうな女性。 間違えてはいないからな? この如何にも優しそうな雰囲気を放っている、お淑やかな女性って感じの人がこの口の悪さだ。


「はいはい! だから喧嘩はやーめろって! 良いからほら、まずはお前ら自己紹介だ!!」


大声を出して言うのは矢郷さん。 こういう風に進んで場をまとめる役というのは、大変ありがたい。 俺にはとてもじゃないが、この一癖も二癖もありそうな連中を纏めるなんてことは御免だから。 代わりにこうしてまとめてくれるというならば、素直にそれを受け入れよう。


「んじゃアタシ。 アタシは鮫島(さめじま)(れん)。 さっきも言ったように、漁師をやってる美少女ちゃんだぜ」


自分で美少女って言うとか。 それにこう言ったらあれかもしれないけど、西園寺さんの方が十倍は可愛い。 ていうか、この人なんか俺の上の妹に似ていて嫌だな。


「あ……その。 ぼ、僕は……椿(つばき)(かおる)です。 その……迷子になっちゃって……」


どれだけ壮大な迷子だお前。 ここ無人島だぞ、分かってるのか。 というか、あの傘男も傘男でもうちょっとマシな設定にして欲しいものだ。 いくらなんでも迷子はやり過ぎじゃねえか。


「チッ。 俺は夢島(ゆめしま)夢子(ゆめこ)。 よろしくなクソども」


そして最後にさぞ不機嫌そうな顔で挨拶したのは、白ワンピースのお嬢様。 怖いよこの人……。 一人称が俺で、その名前でその容姿、最早ギャップを通り越している。


「……なんか怖い人だね、成瀬くん」


コソコソ言う西園寺さん。 うん、全面同意だ。 関わりたくない人ナンバーワンである。


「ん? てか今まで気付かなかったけどよ……そいつって外人か?」


屋代さんが指さす先には……確かに、外人っぽい女の子。 腰までの長い金髪に碧眼、そしてウサギのぬいぐるみを抱き締めている。 歳は、俺たちと同じくらいだろうか? いや、下か……? 見ようによっては小学生だが、外人ということもあって正確な年齢が読み取れない。


「……あ、アー。 ヘイ、ぐっもーにん」


「西園寺さん何してるの……?」


辿々しい英語で、何故か西園寺さんはその金髪少女へ話しかける。 そういえば、西園寺さんは唯一英語の成績だけは底辺だったんだっけ。 テストの成績も酷いものだけど、英語の授業で指名されたときの空気は相当なものだ。 依然として教室では関わりづらい分類である西園寺さんが、一発ギャグのような英語を言うものだから、教室では笑ってはいけない空気という妙なものができている。 俺は心の中で大爆笑だけどな。で、それを悟られて後で怒られるんだ。


「お話だよ。 えへへ、わたしこうやって外国人の子と話してみたかったの」


そうですか。 どうぞ好きにしてください。


「な、ないすちゅーみーちゅー。 こんにちは、はーわーゆー?」


「さっきからうるさいです。 少し黙ってくれませんか」


必死に英語で話しかける西園寺さんに、その金髪の女の子は流暢な日本語で返答する。 定番的光景だ……。 定番的光景がここにある。 さすが、生きる伝説西園寺さん。 定番もしっかり抑えてくるとは侮れない。


「それと、英語がなってなさすぎです。 良いですか? 英語はこうです。 聞きやがれです」


そして、呆気に取られる西園寺さんへ追い打ち。


「ハイ。 ハウアーユードゥーイング?」


「へ?」


「ワッツザマター?」


「ごめんなさい!!」


敗れる西園寺さんだ。 手を合わせて謝る姿はなんとも物悲しさが漂っている。


「何ですか、折角分かりやすい発音で言ってあげたのに。 まず最初のが「ごきげんいかがですか?」で、次のが「どうしたの?」という意味だから、覚えておいてください」


「……はい」


良い教師になってくれそうで、俺は微笑ましい限りである。 ちなみに俺も英語がすこぶる苦手なので、なんて言っているのか分からなかったのは黙っておこう。


「っと、自己紹介が遅れましたですね。 私はクレア・ローランドと言う者です。 クレアで構わないので、そう呼んでください。 歳は十五歳です」


十五歳、俺たちと同年代か。 そして純粋な外国人……。 それにしては、やけに日本語が得意なんだな。 時折妙な敬語になっているのが気になるけれど、それ以外は日本人の俺でも驚きだ。


「やけに日本語が得意なんだな。 そんな顔をしていますね、そこのモヤシ」


言い、その少女は俺を指さす。 おい待て、今モヤシって言ったかこいつ。 確かにがっしりした体付きではないかもだけど、面と向かって言われると結構傷付くぞ……。


ま、まぁ……それはひとまず見逃してやるとして。 こいつは俺が一番苦手なタイプだ。 人の心を読むのに長けているのだろう。 良くも悪くも、あの番傘の男のようなタイプってことか。


「私はこう見えて、日本語の講師をやっているので。 無論、私の出身国で教えていますけど。 分かりやすく例えると、家庭教師のようなものです」


その歳にして家庭教師か。 日本でいう家庭教師のバイトって感じか? けど、確かにこれだけ日本語が話せれば納得ではあるな。


「へぇ……。 それで、ここにはどうして?」


さすがに指名されてしまっては無視することができずに、俺は会話を続ける。 苦手だ苦手だ。 同年代の女子ってだけで苦手なのに、更に外人で苦手なタイプときている。 本音を言えば会話どころか、目すら合わせたくないレベルだぞ。


「……私は、本来ならばここには居ない人間なのです。 ですがまぁ、敢えて言うのなら暇潰しってところでしょうか」


「本来ならばここには居ない?」


疑問に思ったのか、西園寺さんは尋ねる。 しかし、クレアはその言葉を軽く受け流す。


「あなた方には関係のないことです。 ですので、特に気にする必要もありません」


言いながら、振り返ってその場を離れるクレア。 きっぱりとした拒絶の仕方が、なんとも国の違いを感じさせる。


「……ええっと、そろそろわたくしたちのことも見て欲しいんですけれど」


俺が突っ込んで聞こうとしたところで、横から声がかかった。 その方向を見ると、そこに居るのは年老いた男女。 男性は優しそうな顔付きで、女性は少々困ったような顔付きだ。


「ふむ。 あなたたちは見たところ……この島に住んでいると思われますが、いかがでしょう?」


言ったのは、桐生院。 さすがに頭の良さそうな見た目だけあり、俺たちとは違った雰囲気に気付いたのか。 だとしたら、一番厄介なのはこの人になりそうかな。 それとも、そんな雰囲気を装っているだけの奴か。


「ええ、そうです。 わたくしたちはこの洋館の近くにある小さな家で、ひっそりと暮らしているのです。 ですが、昨日のような嵐のときはここへ避難をしておりまして……」


「そうでしたか。 夫婦で島暮らしとは、憧れますね」


つまり、地元民。 とは言っても、こんな無人島で二人暮らしは出来るものなのか? ああでも、そういう設定ってだけか? なら、それも可能なのかもしれない。


あくまでもここに居る人たち、俺と西園寺さん以外の人たちは作られた存在だろう。 だからこそ、この異常事態に何も違和感を感じていないんだ。


「わたくしの名前は加賀(かが)共恵(ともえ)と言います。 それで、この人は同じく加賀研二(けんじ)と言います」


その老婆の言葉に、桐生院は大きく頷いて口を閉じる。 納得する答えが得られた、ということだろうな。


しかし、そこで発言をしたのは意外な人物。 きっとそれは、俺も桐生院も予測できていなかったことだ。


「あの、すいません。 失礼なことを聞いていたらごめんなさい。 研二さんは、喋れないんですか?」


「西園寺さん?」


その老夫婦の方向を真っ直ぐ見て、西園寺さんは言う。 その瞳には迷いがなく、真剣だ。


「……どうして、そう思います?」


「二人共、とても優しそうだからです。 なのにどうしてか、話すのは共恵さんだけだったので……もしかしたらって、思って」


……それだけで、それだけで言ったというのか? 迷いもなく聞いたってのか? もしも違っていたらとてつもなく失礼なことだというのに、それをまるで確信しているかのように。


「……ええ、そうです。 夫は大分昔から言語障害でして、話すことは出来ないのです。 ですから、何か無礼があっても大目に見てくださると助かります」


「そうでしたか。 ごめんなさい、気を悪くするようなことを聞いて」


「いいえ、構いませんよ」


想像以上だ。 一体どうやったら今の質問と、その答えを導き出せるというんだ。 知りたいな、俺はもっと知りたい。 西園寺さんの考え方も、その見ている景色も。 何より、その可能性を見てみたい。


そして、もしかしたらこの世界でならそれを少しくらいなら見れるのかもしれない。


俺はその瞬間、強くそう思ったのだった。

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