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俺とルールと彼女  作者: 幽々
日常の世界
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果たし状 【3】

 それから一週間後、俺たちは再度、部室へと集まった。 俺がその間にしたことと言えば、特になしである。 する必要がなく、動く必要もない。


「えへへ」


 そして、どうしてか先ほどからずっと笑っている西園寺さんである。 笑い薬でも飲んだのだろうか? 心底心配だ。 柊木とクレアは既に席に着いているが、二人とも別々のことをしている。 クレアは本を読んでいて、柊木は生徒会の書類の整理だ。 こいつら絶対、既に興味をなくしているよね。 というか覚えていない可能性すらある。


「どうしたんだよ、ずっと笑ってるけど」


 俺が聞くと、西園寺さんは口を開く。 待ってましたと言わんばかりの速度である。


「今日が楽しみで! ほら、今日ってこの前成瀬くんが言っていた一週間後でしょ? だから、楽しみだったんだ」


 西園寺さんは言い、横に居る柊木とクレアに同意を求める。 が、返ってきた答えはこうだった。


「あ、そういえばそんなこともありましたね」


「どうでも良いが、活動報告書の方は出来ているのか?」


 というもの。 お前ら協調性が大切な生き物ではなかったのか。 良いのか、それで。 というか俺が受けることになったのも、ほぼ柊木とクレアの所為なのだが……こいつらもどうやら、無責任という言葉が好きで堪らないらしい。 仲間じゃんやったね。


「……西園寺さん、耳貸してくれ。 こいつらは聞きたくないみたいだから、西園寺さんにだけ話す」


「うん、分かった!」


 そして、俺は西園寺さんの耳元へ。 近づいたところで、側頭部に硬い何かが命中した。


「いってぇ! おいお前何すんだよ!?」


「私の前でなに破廉恥極まりないことをしてやがるんですかっ!? 怒りましたッ!! 第一私に説明しないとかどういう了見ですか!?」


 どうやらその行動がクレアの逆鱗に触れたようである。 そして、俺の側頭部にシャーペンを……投げつけたということか。 俺に言わせれば殺人未遂である、俺の貴重な頭が傷ついたらどうしてくれる。


「分かった分かった、悪かったよ……最初からそう言えよチビが」


「チビ!? 今チビって言いましたか!? 柊木、柊木! 今、成瀬が私に暴言を!!」


 圧倒的理不尽に思わず本音が漏れてしまったよ。 てかそういうときは柊木を頼るんだな……俺が柊木を恐れていることを知ってのことだ、策略家め。 で、柊木は肩を揺すられながら無視を決め込むも、整理しようとしていた書類はその勢いでくしゃくしゃとなっている。 その表情が無表情から段々と怒りに塗れていくのが傍目から見て伝わった。


そして、最終的に柊木は机を叩く。


「いい加減にしろッ!! 貴様ら、騒ぐなら鳥取砂丘にでも行けッ!!」


「なんで鳥取砂丘なんだよ……」


 柊木の中で鳥取砂丘がどのような扱いになっているか気になるものの、これ以上騒ぎ、収集が付かなくなっては困る。 何より、今日こうして暑い中わざわざ集まった理由は、他でもない『果たし状』の件である。


「無理やり本題に入るぞ。 良いか?」


 俺の言葉に、西園寺さんは待ってましたと言わんばかりに。 クレアは少々不機嫌そうに。 柊木は溜息を吐き。 ようやく部室内を静寂が包んだ。 それを確認し、俺は口を開く。


「この果たし状から察するに、犯人像は前に少し話したな。 上級生で、文化系の部活で、部活の人数が多くて、ふたつ目の部室を欲しがっている、と。 ただ、それなら多分誰でも想像はできる。 問題は、ここからだ」


 この勝負、受けた時点で勝敗は決まっている。 ならば、犯人たちの目的は部室を奪うことか? 答えはノー、犯人の目的はそれではない。


「指定した時刻は、午後四時か。 そろそろ時間だな」


「え、え、ど、どうするの? 成瀬くん?」


 西園寺さんの声と同時、部室の扉が開かれた。 指定時刻丁度、随分律儀な犯人なことで。


「どーも、こんにちは。 私たちの果たし状、見てくれたかな? 部室をもらいに来たよ」


 そこに立っているのは、上級生の女子だった。 とても不良には見えず、イタズラをする人物にも見えない。 見た目だけで言えば、西園寺さんのような清楚系な人物である。


「よーし来やがりましたね!! この泥棒猫がッ!!」


「おい馬鹿やめろ……」


 飛びかかりそうなクレアの襟を掴み、阻止する。 犬かお前は。


「で、どういうことだ。 部室を渡すなんて真似は……」


 柊木の言葉を遮るように、俺はその上級生の前へと立つ。 そして、口を開く。


「初めまして。 俺は成瀬陽夢です」


「こちらこそ、初めまして。 私は小暮(こぐれ)(さくら)、君たち歴学部の答えを聞きに来たよ」


 答えを聞きに来た、か。 それは少しおかしいし、妙な話だ。 俺たちが出すのは答えなんかではない、そう思い、俺は言う。


「面白い話ですね。 答えを知りたいのは、あなたたちじゃ?」


 俺の言葉に、小暮さんは驚いたように口を開けた。 そして数秒後、口元を吊り上げ、笑う。 そして、俺に尋ねて来た。


「ごめんね、成瀬陽夢くん。 君が何を言っているのか、お姉さんに分かるように言って欲しいかな」


「それじゃ、あなたは今こう思っている。 ()()()()()()()()()()()()()()()()()。 とね」


「大丈夫……? すいません成瀬、一体どういう意味ですか?」


 俺と小暮のやり取りを見ていた三人だったが、最初に痺れを切らしたのはやはりクレアだ。 俺はそれを受け、クレアの方を向き、説明を始める。


「この果たし状は、最初から勝ち負けを決めるためのものじゃあない。 明らかに俺たちに不利な勝負、理不尽な賭け、一方的な難題、解けというのが不可能な話だ」


 つまり、最初から解かせるためではない。 ならば、理由は何か? ただのイタズラか、暇潰しか、嫌がらせか。 答えは、そのどれでもない。


「恐らく、この一週間って期間は反応を見るための期間だ。 それで、あなたが果たし状を出したのは俺たちだけではない」


 更に言ってしまえば、犯人の調査を始めた時点で『失格』だろう。 少し考えれば分かる、掴めない影を掴もうとするその行動は、無駄という他ない。 そこでまず、無視をした部活と教師に報告した部活と理解をした部活に分かれてくる。


「小暮さんから見て、無視と理解の判断は難しいと思うけどな。 それはまぁ、予め部活動の行動や成果を見て、クリアできそうな部活に絞ったってところかな」


「……凄いね、驚いたよ。 更に言えば、これをクリアしたのは君たちだけだよ、歴学部諸君」


 小暮は笑う。 安心、のような気がした。 その表情からどんな感情が出ていたのかは俺には難しいが、そう見えた。


「俺の答えはこうだ。 小暮先輩、この果たし状はあなたたちが抱える問題に挑戦するためのテストだ。 本題はこの果たし状ではなく、あなたたちの部活が抱えている問題だ。 それを解ける能力を持った部活を探すための、テスト」


 それを解決してもらうために、この果たし状を出した。 果たし状の意味を理解し、解けるほどの実力を持った者に出会うため。 最初から、部室や部活が狙いなんかではない。 狙いは、そこに所属する人物だ。


「……おおお! さすが成瀬くん!」


 ぱちぱちぱちと、気の抜ける音が室内に響く。 小暮は西園寺さんの方に視線を向け、一瞬不安そうな顔をした。 いやいや、それはただのマスコットだから気にしないで大丈夫です。 ついでに言うと、金髪と生徒会長は一発芸を披露してくれる方たちです。 なのでそちらも気にしなくて大丈夫です。


「部員は四人? 私たちの問題に付き合ってくれる、という認識で良いかな」


「……だとさ。 どうする? 部長」


 俺は小暮からされた質問を西園寺さんへと回す。 あくまでも歴学部の部長は西園寺さんだ。 その問題に付き合うか付き合わないかを決めるのは、西園寺さんの判断である。 これには柊木もクレアも、従う他ない。 そして俺も、西園寺さんがやるというならば、仕方ない。


「もちろん、困っている人が居るなら、見過ごせないよ。 だから成瀬くん、頑張って!」


 腕で小さなガッツポーズをし、西園寺さんは俺に言う。 そこで人任せなのはどうかと思うが、俺が解いてしまった問題なのは事実か。 これもまた……仕方ない。


「事情を聞きましょうか、小暮先輩」


 それに、活動報告書の提出時期も近いしな。 ネタがないなら、とりあえずは関係ないことでも首を突っ込んで見るべきだ。 最近では、廊下で瀬谷に会うと「お前の部活は探偵部か?」と言われるくらいである。 あの教師め……真昼と俺の関係を知ってから、随分と探りを入れてきやがる。 厄介な奴だ。


「オーケイ、くだらない話だけど、付き合ってくれるととても助かるよ」


 そして、ひとつの事件が幕を開けた。

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