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俺とルールと彼女  作者: 幽々
日常の世界
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果たし状 【2】

「聞こうか。 その方法とやらを」


「いや別に勿体ぶるつもりもないけどな。 でもそうやって偉そうな態度されると話す気なくなるね」


 柊木は両肘を机へとつき、両手を混ぜ合わせるように組み、顔の前へやるとそう言った。 なんでこいつこんなに偉そうなの。 一応立場的には一緒だよな、俺たち。 柊木の偉そうな態度は今に始まったことではないが、さすがに最近度が過ぎてきた気がしなくもない。


「良いから話せ。 早くしろ」


「……はいよ」


 しかしまぁ、脅されたら折れる俺である。 だって柊木さん竹刀持ってるんだもん、下手したら俺が今日帰るのは病院になってしまいかねない。 人生とは妥協の連続である。 著:成瀬陽夢。


「まず、これを出してきたのは運動部じゃない。 文化系の部活だろうな」


「どうしてですか? 部室が欲しいのなんて、どんな部活でも共通のことだと思いますが」


 うーん、そうでもないんだよな。 今回のことで言えば、運動部ということはまず間違いなくない。 教員が絡んでいるのなら話は変わるかもしれないが、生徒間だけのやり取りで歴学部の部室を奪おうとする運動部は確実にいない。 それは断言ができてしまう。


「立地条件が合わなすぎる。 運動部の活動場所は校庭か体育館、それか学校の周りって感じだろ? サッカー部と野球部は校庭で、バレー部バスケ部は体育館、陸上部は学校の周りをぐるぐる走ってる。 校舎内で運動をしている部活は、この高校にはない。 そんな部活がわざわざ四階の隅っこにある部室が欲しいと思うか?」


「……確かに欲しくないかも。 階段、疲れるもんね」


「おう。 俺が一日の体力の半分を使うくらい疲れる」


 とは言っても、運動部の奴らにしてみれば校舎の四階まで行くのにそこまで体力は必要としないだろう。 だが、わざわざ四階まで上がって部活のときは校庭まで降りて……なんて面倒なこと、時間を大切にするあいつらにはちょっと考えられない選択なのだ。 それをするなら校庭の隅などに集まった方が、断然効率は良い。 決まった部室を用意できなかったとしても、放課後ともなれば空き教室なんて一階にいくらでもある。 そういう場所を日替わりで使ってしまえば、問題はない。 というわけで、運動部という線は消える。


「んじゃ次な。 これを出してきたのは上級生だ」


「あ、分かりました。 偉そうだからですね!」


「ちげえよ馬鹿……。 クレアな、お前俺がそんな適当なことで断言してると思ってるのか」


「違うんですか? 成瀬って案外適当なので」


「……そうですか」


 そんなことはないと言いたいけど、案外そんなことはあると思ってしまった。 人生適当が一番良いからね。


「帰りたくなってきた。 そんで、上級生だと思う理由な。 この部室が、前に数学準備室だと知っているからだな」


「それは変なことか?」


 俺の言葉に、最初に口を開いたのは柊木。 ああ、そうだな。 変なことなんだよ。


「んじゃ質問する。 柊木、お前この部活に入る前、ここが元数学準備室だって知ってたか?」


「……言われてみれば、そうだな。 知らなかったが」


「ってこと。 普通なら知らないんだよ、こんな未開の地にあるような教室が、元々なんの教室だったかなんて。 今じゃもう使われてない教室で、人が出入りなんて滅多にしない教室。 俺たちの学年は当然知らないし、新しく入ってきた新入生だって知らないだろ。 そうなると、知っている可能性があるのは上級生ってことになる」


「なるほどぉ……だからわたしたちよりも上の学年の人ってことになるんだね」


「そういうこと。 それじゃ最後。 その部活の規模について」


 言いながら、俺は机の上に紙を一枚置く。 そこに四角を書き、歴学部と記入した。


「これが部室。 広さは見ての通り、俺たち四人で少し持て余すくらいの広さだな」


「……今度こそ分かりました! その部活とやらの規模は、私たちと同じくらいということですね!」


「結論を急ぐなよ。 だからお前は短絡的なんだ、クレア。 良いか? この高校で部活を作る条件はなんだ?」


 俺がクレアに向けて言うも、クレアは「うーん」と唸り、明後日の方向を見る。 おいまさかこいつ、それすら知らなかったのか。


「……柊木、頼む」


「部活設立の条件だな。 その一、理念と活動内容を明記すること。 その二、定期的に活動報告書を提出すること。 その三、部員数に規定はないが、部員がゼロになった場合は廃部とする。 その四、新年祭には必ず何かしらの出店をすること。 その五、部室として、教師の確認を取り、教室をひとつ利用すること。 以上だ」


「ありがとう。 というわけで、部活を作るため、続けるためには部室が必ず必要になる。 言ってる意味分かるか?」


「……そういえば、私たちの部活の理念ってなんなんですか?」


 興味がそっちに持って行かれたか。 てか返答に困る質問をするんじゃない、柊木様の前だぞ。 もしも下手なことを言えば廃部だぞ。 分かっているのか、こいつ。


「一応、時間を大切にってことになってる」


「なんかキャッチコピーみたいですね。 時間を大切に、歴学部」


 それは俺も思っていたけど言うなよ。 いきなり安っぽくなってきたじゃないか。 間違えても大切にの前に「電気」とか入れるんじゃないぞ。


「話を戻すぞ。 それで、部活動をするには部室が必須ってことは分かったか?」


「ええ、なんとか」


 なんとかなの!? 俺、柄にもなく懇切丁寧に説明してやったのに、それでなんとか理解できたの!? こいつ正直聞く気ねえだろ! 俺も段々説明する気なくなってきたよ!


「……まぁもう良いや。 つまりさ、そうなるとこの果たし状を出してきた奴らは既に部室を持っているってことになる。 なのに、新たな部室を必要としている。 人数は間違いなく多いんだろうな」


「ふむ。 だが成瀬、その場合でも立地条件というのはどうだ? その部活が現在持っている部室では、活動を行う上で立地条件が悪い。 そこで立地条件が良い歴学部の部室を必要としている……という動機はどうだろうか」


「うん、そういう可能性も当然ある。 だけど、それなら俺の場合はこんなゲームにしないで、教師やらに頼むな。 そっちの方が確実に手に入る可能性が高い。 俺たちがこの部室を使っている理由なんて、ただ偶然空き教室だったからなんだからさ。 部室を交換って話になったら、それこそ問題ないだろ?」


「……確かにだな。 だとすると、やはり部員数の問題か」


 要するに、第二の部室としてここが欲しいということだ。 他にも空き教室はまだあるが、それでもここを選ぶということは、たった今柊木が言ったように活動上の問題、というのも含まれているかもしれない。 しかしそれはついでの理由で、メインの理由は部員数の方だろう。


「まとめると、このお手紙を出してきた人は……文化系の部活で、上級生で、部員数が多い部活ってことだね。 なんだか、見つけられる気がしてきたかも」


「あー、それは無理。 さっきも言ったけどさ、この果たし状は乗った時点で負けが決まってる。 探すだけ無駄で、やろうと思えば方法はないわけじゃないけどな。 それでも圧倒的に時間が足りない」


 方法としては、全生徒に「果たし状を出した部活の奴だな」とのことを言ってみれば良い。 そうすれば言われた奴は特定されたと思い、白状するだろう。 しかし、恐らくは俺たちの部活よりも規模が大きい部活で、その部員全員を見つけるのには時間が足りなさすぎる。 一週間では到底無理な話だろう。


「え! で、でもそれならどうするの? このままじゃ、部室が……」


「……もしかしたらってのはひとつあるんだよな。 でも、俺一人じゃないとちょっとできないこと。 悪いことじゃないからな?」


 その言葉は嘘ではない。 嘘であって、嘘ではない。 西園寺さんや柊木、クレアが思う「俺一人ですること」に関しては、嘘じゃないんだ。 俺が今までしてきたやり方は、今回はいらない。


「この話は一週間後、この部室でしよう。 そのときにちゃんと話す」


「……私にも言えないことですか、成瀬」


 と、クレアは俺にだけ聞こえるように、言う。 そんな風に言われてしまったら罪悪感がやばいんだけど、言ったら言ったで終わってしまう可能性がこれは高い……。 さて、どうしたものか。


「西園寺さんたちが心配してるようなことにはならないよ。 さすがにな。 だから俺に預けてくれないか、この果たし状の件は」


「……うん、わたしは分かったよ。 成瀬くんがそういうなら、大丈夫だと思うから」


「そうだな、私もそれなら手を引こう。 だが、万が一の場合は教師に相談する。 良いな?」


「了解了解。 九割方、俺の想像している方向になるとは思う」


 そして最後、クレアを納得させるのが一番難しい話である。 だから俺は、クレアに向けて言う。


「今日は帰るか。 クレア、話しながら行こう」


「……そういうことなら」


 期限は一週間、それまでにはなんとかなる問題だ。 いや、なんとかなるのではない。 なんとかなってしまう、それが今回の果たし状の問題。 多くの問題は自然的に解決され、多くの問題は時間によって忘れ去られる。 今回のこれは、前者の方だ。 俺が何かしなくても、自然に解決される問題ということ。 そして俺が立てた犯人像は、あくまでもこの果たし状が本物であった場合なのだ。


 それを悟られるわけには行かない、が……。 仕方ない、クレアに隠し事をしてしまうのはやはり気が引けてしまう。 そんな言い訳を自分にし、俺はその内容をクレアに話すのであった。


 ちなみに、俺は大分決心をして伝えたのだ。 クレアなら心配はなかったが、万が一ということもあり得るからである。 だというのに、俺の話を聞いたクレアが最初に言った言葉、なんだったと思う?


「よく分かりませんが、なんとなく理解しておきます」


 俺はそれを聞き、正直頭が痛くなったのであった。

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