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俺とルールと彼女  作者: 幽々
呪いの世界
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クレア・ローランドの課題 【14】

「居ては駄目? お前、何を言っているんだよ」


既に残された時間は一時間ほど。 行くべき場所は既に分かっていて、そこへと向かう途中のことだった。 米良は俺の前に現れ、そしてその事実を告げる。


クレアは、俺が探していた奴は、居ては駄目な人間だと。


思い出すことに、時間はかからなかった。 あの恐ろしくもあるキーホルダーを見つけ、それが切っ掛けでその人物を思い出したから。 花見をした当日、朝の散歩で見かけたあいつだ。 あいつのポケットからは、これと同じ物が出ていたのだから。


お揃いのキーホルダー。 しっかりとそれを使っていたのはあいつだけだったけど、それでも付けてくれていたおかげで思い出すことができた。 結構前に買ったものだったのに、今でもあいつはそれを大切にしていた。 俺はそんなことすら、今になってようやく気付いたんだ。 今更、だよな。 本当に。


「世界の話をしよう。 君が経験してきた四つの世界、ループ、人狼、異能、妄想。 そして、この呪いの世界だ」


「ああ、覚えているよ。 それで、人狼の世界で俺はあいつに会ったんだ」


エレナではない。 俺が人狼の世界で会ったのは、クレアだ。 最初こそ妙な奴、厄介そうな奴、そして直感的能力がずば抜けているということくらいしか分からなかった。 でも、そこで知り合って一緒に帰って。 それからあいつは俺と西園寺さんの高校に編入して、同じ部活になって。 すごい奴だと思っていた。 だけど、一緒だったんだ。 俺や西園寺さんのように、笑いもすれば怒りもする、普通の奴。 なんら変わりなく、同じだった。


「そう、人狼の世界。 そこで成瀬くんはクレアちゃんに出会った。 けどね、それはズレた出会いだったんだよ」


「ズレたって……そりゃ、普通とは違う出会い方だったけどさ」


「違う。 そういうことじゃなくて、いつもと違う出会い方だったんだ」


いつもと……? なんだ、その言い方は。 いつもと違うって、そんな言い方をされてしまっては、変な勘違いをしそうになるじゃないか。


「どういう、ことだ。 米良、何を言っている?」


「……ここまで来たならもう隠さないよ。 成瀬くん、君は繰り返している。 その意味が分からない成瀬くんではないよね」


「は……いや、待てよ米良。 それって、あれだろ? 俺と西園寺さんが経験した、あの夏のことだろ?」


俺はきっと、その言葉を肯定して欲しかった。 そうだと言って欲しかったんだ。 けど、米良は。


「いいや」


そう、短く返す。 肯定ではなく、否定として。 そして、続ける。


「あの夏は、()()()()()()()()()()だ。 成瀬くん、まず前提としてあるのが巨大なループなんだよ。 様々な世界、その全てを君たちは繰り返している」


「待て待て待て。 理解できないぞ、そんなのは。 ループしている? あの夏だけじゃなくて、人狼とか異能とか妄想の世界もか?」


「少し違うね。 異能まではその通りだけど、今回のは細部で変わっていた。 その確たる例がクレア・ローランドとの出会いとその関係。 良いかい? クレアちゃんは本来、君たちには心を開かない」


つまり、クレアは違う動き方をしているということ。 米良が言う巨大なループの中で、あいつは本来と異なる動きをしたということになる。 しかしそんな突拍子もない大袈裟な話……さすがに、俺でも。


「異能の世界でもそうだ。 彼女は本来、あそこで右腕を失っていた。 今回は成瀬くん、君のおかげで元に戻ったけどね」


「……なら、妄想の世界は? 米良はさっき、異能の世界まではって言ったよな?」


「あの世界は本当にイレギュラーだったよ。 成瀬くんはあの世界に行かなければ、エレナちゃんに会うこともなかった。 だからこその歪が生じているってわけなんだ」


……エレナと出会うことによる歪。 それは、まさか。


「クレアの立ち位置……ってことか? 本来ならクレアが居るべき場所にエレナが埋まったのも、そのためか?」


「さすがだね。 その通りだよ。 だからこのままクレアちゃんが元の位置に戻ってしまうと、世界のバランスが崩れるかもしれない。 許容人数をオーバーすればエレベーターは動かないんだよ」


「……そうか。 そういうことか。 でも、米良の目的は俺たちを助けることなんだよな? それって、ループからの脱出ってことだよな? それなら、今回のイレギュラーは受け入れるべきなんじゃないのか?」


「いいや、ダメだ。 成瀬くん、わたしにはそれなりに未来が分かる。 それも先数日とか、そのレベルだけどね。 だから言おう。 クレアちゃんが今いる場所、それは分かっているだろう? ならそこへ行くべきではない。 そしてこのまま忘れるべきだ」


「忘れろって……もう思い出したことだ。 それを忘れろって、無理な話じゃないか」


できるだけ自分を落ち着かせ、俺は言う。 感情を抑えて、怒らないように。 ここで米良に当たったって仕方ないことだ。 客観的に考えても、ここで落ち着いている俺は随分おかしいと思った。 ただでさえ異常なことが連続して起きているというのに、それすら大きな異常の内だったということを知らされて、更に友達が一人消えるのを受け入れろと言われて。 それでも、俺は落ち着いていた。


「それは心配いらないよ。 この三月が終われば、成瀬くんは綺麗さっぱり忘れる。 痕跡も、消えてなくなる」


「はいそうですかって言えると思うか、それ。 俺は行くべきだと思っているし、あいつのことを忘れるなんて嫌なんだよ。 それに無理だ、忘れるなんて」


例え、例えだ。 クレアの存在が俺たちが巨大なループを脱出する上で、居ては駄目だったとしても。 それでも、俺にとってあいつは。


「違う。 違うんだよ、成瀬くん。 このままだと、成瀬くんが壊れてしまうんだ。 言い方が悪かったのは謝るよ? 問題なのはクレアちゃんの存在なのは事実だし、イレギュラーとして受け入れるべきなのはわたしも分かる。 けど、これから成瀬くんが経験することによって、成瀬くんが壊れてしまう。 わたしが一番危惧しているのはそれなんだ」


「俺が……経験すること?」


米良は、クレアの元へ行く俺を止めた。 そして、未来が分かると言った。 最後に、俺がこれから経験することによって、俺が壊れると言った。 繋げると、それは。


「クレアちゃんはこれから死ぬ。 そして、成瀬くんはそれを目の当たりにする。 その出来事は、大きすぎて消え切らない。 目の前でそれを見てしまったら、もう終わりになってしまうんだ。 そして成瀬くん、最悪の場合を考えてくれ」


「……そんな、冗談だろ。 くだらないこと、言うなよ」


「わたしは少し先の未来が分かる。 成瀬くん、わたしがこの場面で嘘を吐く理由なんてないよ。 成瀬くんにもそれは分かるはずだ。 だから成瀬くん、忘れよう。 大丈夫、わたしが責任を持って、みんなを助けるから」


米良は言う。 俺に向けて。 そして、手を伸ばしてきた。 掴めと、そう言っているんだと理解した。


俺がこのままクレアのところへ行けば、あいつは死ぬ。 恐らくだが、課題をクリアできなかったとしてだ。 そして、俺はそれを目の前で見てしまう。 きっと俺は自分の責任にするのだろう。 そうすればどうなるかなんて、俺じゃなくても分かることだ。


逆に、行かなかった場合。 そのクレアの死を目の前で見なかった場合。 その場合は、幾分かショックは抑えられると米良は言う。 そして、その抑えられたものであれば四月に移れば綺麗に忘れることができる。 多少のイレギュラーはあれど、順調に進んでいる今回の物語。 それを成功させるためには、米良の言う通りにするのが一番なのだろう。 この巨大なループを脱出するための手段、それに必要なピースが俺という人間。 ここで俺が壊れてしまえば、それが不可能となり、また始めからのスタートになるということ。


俺が考える最悪の場合。 それを米良は提示してきた。 最悪の場合を考えて行動しろ。 ずっと、俺がしてきたことだ。 俺がここで回れ右をして帰れば、明日には綺麗に忘れている。 そして、西園寺さんや柊木もこの一連のループに巻き込まれなくなるかもしれない。 みんなのために、俺がするべきことは。


「米良、俺は行くよ。 お前はさ、みんなを助けるって言ったよな。 お前が言うその中に、クレアは入っていない。 だったら、誰があいつを助けるんだよ」


俺は、言った。 言いながら、米良が伸ばした手を振り払った。 米良はそんな俺を見て、悲しそうに笑う。


「俺はあいつを助ける。 伝えたいことも、怒ってやりたいことも、沢山あるから。 米良、未来が見えるって言ったよな。 俺が行っても結局はクレアの夢を叶えるって課題は失敗して、クレアが俺の目の前で死ぬって」


「……うん、そうだよ。 言っておくけど成瀬くん、未来は変えられない。 確定した未来を変えることは成瀬くんの力ではできやしない」


「それは、お前の主観が入っているんだろ? 米良の考えとか、そういうのがあって、見えているんだろ?」


「否定はしない。 でもね、成瀬くん。 君ももう分かっているだろうから言うけど、クレアちゃんの課題である夢は、成瀬くんと結ばれることだ。 だから君はクレアちゃんに告白するつもりなんだろう。 けど、それをしたとしても未来は変わらない」


俺のしようとしていたことが、読まれていた。 米良が言う未来が見えるということは、そういうことだ。


「今のクレアちゃんには、君の言葉は届かない。 無駄だ。 彼女は君が言ったその言葉を信じるなんて、しないんだから」


「……それが本音だったとしてもか? あいつは、勘が鋭いから」


「だとしてもだよ。 彼女に言葉は届かない。 行動もね。 成瀬くん、もう無理なんだよ。 もう、駄目なんだ」


言葉も、行動も、届かない。 米良が知っているクレアの現状は、そういうものだ。 それはきっと真実だし、そういう結末は決まってしまっている。 それこそ神頼みも無駄なほどに。 そしてそうなってしまった全ての責任は俺にある。 俺が目を背けてきたことは着実に降り積もって、俺だけではどうにかなるレベルを超えてしまっているのだから。


「まぁさ、見といてくれよ。 お前が何者か未だに分からないけど、全知全能の神ってわけじゃないだろ? だから、想定外ってのはあるもんだ」


俺は続ける。 米良の横を通り抜け、一度足を止めて。


「ちょっと格好良いこと言うから聞け。 お前が言う未来、そんなの俺が変えてやる」


なら、そうだな。


どこかの誰かみたいに、今回は正面からいくとしよう。

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