表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
俺とルールと彼女  作者: 幽々
呪いの世界
135/173

柊木雀の課題 【5】

家に帰ると、既にクレアは自宅に帰ったようだった。 家の中には真昼(まひる)だけが居て、騒がしさはなく静まり返っている。 一瞬でもそれを寂しいなと思ってしまう辺り、俺も大分毒されてきたようだ。


俺の携帯にはメールが届いていて、その内容は「ご迷惑おかけしました。 今度は私の家に泊まりに来てください」という簡素なもの。 それに俺は「機会があれば」とテンプレートで返信をして、次に柊木(ひいらぎ)へと電話をかける。


時刻は夜七時。 少し遅いが、まだ話す時間くらいはある。 万が一にも話してくれる可能性に賭けて。 俺はベッドに体を投げ、使うことはないだろうと思っていた柊木の携帯へと電話をかける。


「……」


コール音が一回、二回。 それが丁度六回目になりかけたとき、少しのノイズ音と共に聞き慣れた声が聞こえた。


『私だ』


「よ。 俺だ」


『詐欺なら間に合っているぞ、成瀬(なるせ)


お前が言うかよそれ。 私だって言うから、俺は俺だと返したまでなのに。 そういや、クレアも前に詐欺を仕掛けてきたことがあったな。 あいつの場合は、なんだか噛みまくりなだけだったっけ。


「残念ながら詐欺じゃない。 直球で行くぞ。 柊木、昨日西園寺(さいおんじ)さんと何があった?」


『……なるほど。 私のところにリリアが来たのはお前の仕業というわけか』


おいバレるの早すぎだろうが。 リリアの奴、ほんっと使えないな……。 今度からスパイとして使うのは止めた方が良さそうだ。 もうあいつに残された使い道はクレアをいじることくらいだろうか。 まぁ、クレアをいじるのは大変面白いから構わないけど。


「リリア? さぁ、俺は知らないな。 もしもリリアが誰かの指示を受けて動いてるって思ってるなら、そりゃ勘違いだ。 んで、ついでに言うと深読みしすぎだ。 疑り深いと友達なくすぞ」


『ご忠告どうも。 だが、それはお前にも言えることだよ成瀬。 疑り深いと友達をなくすぞ』


柊木は嫌味っぽく言い、そして続けた。


『ああ、そういえばお前は失う友達なんて居なかったな。 あっはっは、かわいそうに』


ほう、そうか。 そういうことを言うわけか。 よし、良いぞ。 良く分かった。 お前の態度は良く分かった。


「……オーケー、そのつもりなら買ってやるよ。 泣いても許してやらねえからな」


『珍しい、私も全く一緒の意見だよ。 お前が泣こうが喚こうが、許してやるつもりはない』


「は、はは……。 お、俺が、許しを請うって? お前に?」


『もちろん』


「……後悔すんなよ、柊木(すずめ)。 俺を敵に回すこと、後悔させてやる」


言って、電話を切る。


「……」


まずは、携帯を机の上に。 で、俺はそのままベッドの前へと移動する。 ふう。


「あんのクッソ野郎がッ!! なんだあの態度!? 人を馬鹿にしすぎだろッ!! 絶対許さねえ絶対許さねえ絶対許さねえ!! あーくそッッッ!!!!」


「おい兄貴うるせえよ」


怒りをベッドにぶつけていたところ、扉が急に開いて真昼の登場だ。 そして、睨まれる俺。


「お、おう……ごめんなさい」


「静かにな」


真昼はそれだけ言うと、部屋をあとにした。 怒られてしまった、妹に。 なんだこの虚無感は。


……風呂、入るか。




さてどうする。 風呂から出て、再度ベッドの上に横になった俺は天井を見ながら思考する。


柊木から話を聞くことはこれで不可能になった。 問題は解決から遠ざかった気さえしてくる。 根本的な『課題』もやらなければならないのに、おまけとして何かが動いている。 柊木が隠していること、そしてそれに西園寺さんが協力をしているということ。 最善は協力しあってそれぞれのことを解決することだが……今のままじゃそれも難しい。


少しだけ、本当に少しだけ、嫌な感じを受けた。 これは失敗だったような、そんな嫌な感じだ。


「やっぱり西園寺さんの方から崩すべきか? 俺が言えば、答えてくれるかもしれないし」


やはり、もっとも味方になってくれそうなのは西園寺さんだ。 ならば、彼女に話を聞くしかない。


俺はそう結論を出し、ベッドの脇に置いてあった携帯を手に取る。 そして、西園寺さんの家へと電話をかけた。 時刻は夜の八時過ぎ、少々迷惑にもなる時間だが、状況が状況だ。


『はい、西園寺です』


「あ、俺だよ俺。 分かる?」


西園寺さんの困った声が聞きたく、俺は思い付きでそんな詐欺まがいのことをする。 が、俺のそんな行いに対して西園寺さんは。


『えへへ、成瀬くんだ。 こんばんは』


……死にたくなってきた。 俺、何をしているんだか。 こうも真っ白な西園寺さんを見せられると、俺が如何に小さい人間か良く分かる。


「……こんばんは。 時間、大丈夫?」


『うん、平気だよ。 復習してたけど、丁度休憩だったから』


偉いなぁ。 俺もしっかり復讐はする方だけどね。 意味合い違うかこれ。


「そっか、なら良かった。 あのさ、柊木のことだけど」


『……うん』


声のトーンが少しだけ、変わった。 やはりそうだ。 西園寺さんは柊木に関して何かを知っている。 そして、それを口止めされている。


「今から、会えるか?」


『うん、分かった。 場所はどうしよう?』


「あーっと……なら、どっかファミレスとかが良いか。 時間も時間だし」


『それじゃあ、わたしのお家と成瀬くんのお家の真ん中にあるスーパーが良いかな? 待ち合わせ』


俺はそれを聞き「分かった」と言おうとして、やめた。 時間も時間で、外は真っ暗だ。 さすがに、俺から提案しておいてそれはどうかと思ったのだ。


「いや、家まで行くよ。 インターホン押しても大丈夫?」


『えへへ。 うん、ありがとね』


こうして、俺は西園寺さんの家へと一旦向かうことになった。 そして結果としては、この日以降、俺は西園寺さんと行動を共にすることになったのだ。




「悪いな、いきなり呼んで」


「ううん、平気だよ。 いこっか」


西園寺さんはコートを着て、首元にはマフラーを巻いている。 三月ではまだ寒さも厳しく、夜になるとそれは更にだ。 俺も俺で、今日は暖かい格好をしているし。


西園寺さんはそんな姿で玄関から出てくると、鍵をかけて俺のもとまで歩いてくる。 それを確認し、俺は歩き出した。


「あ、クレアちゃんの喫茶店でも良いかな?」


「あー、いや……ファミレスにしよう」


俺は西園寺さんに顔を向けることなく、言う。 西園寺さんはそれを特に気にすることなく「うん」と言い、歩いていた。


「なんだか、こうして成瀬くんと二人でお話するのって、久し振りかも」


「そうか? まぁ、そうかもな。 今じゃクレアとか柊木も一緒のことが多いしな」


電球が切れそうになっている電灯の下を歩き、段々と景色は開けてきた。 大通りに沿って存在しているファミレスは、中途半端に田舎のここでは中高生の溜まり場でもある。 とは言っても、この時間になると客はほとんど居ない様子だが。


「そうだね。 ……あれ?」


西園寺さんは急に足を止めると、反対側の歩道を見て、足を止めた。 もうファミレスは見えてきているというのに、一体どうしたのだろうかと思い、俺も足を止める。


そして、西園寺さんが見ている方に俺も視線を向けた。 丁度そこには信号機があり、横断歩道の先に……見慣れた奴が居た。 きっと、西園寺さんはそれに気付いて足を止めたのだろう。


「……」


前に見た格好とは違い、今日は簡単な上着を羽織っているだけのそいつは、信号が青に変わると歩き出す。 格好を見る限り、どうやらコンビニにでも行っていたのか。 履いてるのサンダルだし。


「あ」


丁度渡り切ったところで、ようやくそいつは俺たちに気付く。 顔を上げ、俺と西園寺さんを交互に見た。


「こんばんは、クレアちゃん」


「あ、と……こんばんは、です」


クレアは驚いているというよりかは、困っているようだった。 何か様子がおかしいとも言えたし、いつもと違うとも言えた。


「買い物か?」


不審に思いつつも、俺は聞く。 すると、クレアはまたしても言葉に詰まりながら、返事をする。


「は、はい。 実は、神田(かんだ)が洗剤を切らしたと言いまして。 それで……その、少しお使いを」


「そっか」


そわそわしているような、迷惑しているような、とにかくクレアからは、早くこの場を離れたいという雰囲気だけは感じ取れる。 だが、これで素っ気なく「またな」というのもちょっとあれだな……。


「今からファミレス行くんだけど、クレアも来るか?」


俺が言うと、クレアはすぐさま返事をする。 手を前にやり、数歩後退り。


「い、いえ! 私はちょっと、急いで帰らないとなので。 その、えと、神田も困っていますし。 あ、あはは」


やはり、いつもと違う。 笑い方も、動揺の仕方も、全然違う。 というか、こいつは何をそんなに焦っている? 何に対して、困惑している?


「……それでは私はこれで!」


「あ、おい!」


振り返り、クレアは走り出す。 まるで俺たちから逃げるように、何かから逃げるように走り出した。 俺はその理由が分からなく、ただそこに立ち尽くすだけだった。


「……クレアちゃん」


だけど、西園寺さんは何かに気付いたようだった。 しかし、俺はそれを尋ねることはしない。 聞いて良いことなのか、悪いことなのか、知って良いことなのか、悪いことなのか。


それすら、俺は分からないのだから。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ