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俺とルールと彼女  作者: 幽々
呪いの世界
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エピローグ

私にとっての友達。 私にとっての私。 そして私にとっての彼。


ありがとう、ごめんなさい、嬉しい、悲しい。 そういう感情を私が誰よりもぶつけられるのが、今私が一緒に居るみんなだと思っている。


私は多分、性格が悪い。 あのループを経験した少女に比べたら真っ黒だ。 真面目で真っ直ぐな彼女に比べたら捻くれている。 いくら彼女たちが私を受け入れてくれたとしても、私は所詮人殺しに過ぎない。 どれだけ笑って、どれだけ前を向いても過去は変えられない。 それを言ったら、彼はきっと言うだろう。 俺もお前と同じことをしてるだろ、だからそんなこと一々気にするな、と。


けれど、彼が言う「同じこと」とは結局こことは異なる世界でのこと。 狼の世界であったり、異能の世界であったり。 そういう言わば異世界と呼べる場所での出来事だ。 だけど、私がそれをしたのはこの世界でのこと。 私が生まれ、生き、彼が生まれ、生きた世界でのこと。 だから彼が言うそれと私が言うそれとでは全く違う。 私は所詮人殺し、それがこの世界での私の生き方だったから。 たまに思うのだ。 夜、ベッドに入り目を瞑ったときにふと思い返すのだ。


私は今、こんなにも幸せで居て良いのだろうかと。 沢山の人を殺し、沢山の友達を見殺しにしてしまった自分にその権利があるのかと。 幸せになる権利なんて誰にでもある、何も知らない人はきっとそう言う。 本人がそれで悩んで、頭を抱えて、後悔しているというのに、そんな無責任なことを言う。 実は、私は一度彼に相談したことがあるのだ。 いくら他の人とは違うと私が感じても、彼もそんな無責任なことを言うのだと思い、私は聞いたことがある。 私は多分、そう言って欲しかったんだと今になって思う。 そのとき既に、私の気持ちは彼に傾いていたから。 そう言ってもらえば、私は何もかも忘れることができると感じたのだろう。 だけど、彼は言った。


「俺にはそれについてどうこう言えないな。 けど、敢えて言わせてもらうとその権利はお前にはないよ。 そんで、俺にもそんなものはない。 幸せなことってさ、大体あとになってから気付くものだろ?」


「確かにそうですね。 少し前のことを思い返して、あのときは幸せだったと思ったりすることもありますし」


「だろ? 幸せになってる最中って案外自分では気付かないものだからさ、お前もそういうのをあとになってから分かれば良いんだよ。 まぁ、とびっきり幸せなことがあればそのとき感じられるかもだけど」


「なるほどです。 ですが、先ほど私には幸せになる権利はないと言ってませんでした?」


「ん? ああ、権利はないよ。 だからもらうんだよ、その権利を。 お前の場合は西園寺(さいおんじ)さんとか柊木(ひいらぎ)とかリリアとか……あと、一応俺も入ってるのかな、それ。 そういうのから貰うものじゃないのか? 人が一人で幸せになることもあるだろうさ、だけどそれに権利はない。 本当の意味での幸せになるってことは、きっと自分以外の誰かが居て成り立つんだ」


「少々私には難しい話ですね……。 要するに、個人に幸せになる権利はなく、その権利は人からもらうもの。 ということですか?」


「まぁそんな感じだな。 てか、お前はもっと直感的に考えれば良いんだよ。 頭を捻るのは得意じゃないんだから、感覚的に捉えれば良い。 俺が今する質問に五秒で答えろ、いいか?」


「五秒ですか。 別に構いませんが」


「よっし、じゃあ質問だ。 俺と今こうして話していて、お前は幸せか?」


「……はい、幸せですね」


「……おう、そうか。 言わせようと思って聞いたんだけど、いざそう言われるとなんだかな……。 まぁそれならさ、お前は俺からその権利を貰ってるってことになる。 他のみんなもそうだろうけど、つまりはこうだ」


「……」


「お前は俺たちと居るときは、幸せになる権利がある。 な?」


「……ふふ、そうですね。 では、私からも質問いいですか?」


「ん?」


「私と居るとき、成瀬は幸せですか?」


「……さぁな。 今のところ質問は一個一個で釣り合ってるから、その質問には答えない」


「ふふ、分かりました」


彼はそう言っていたけれど、私には分かった。 幸せだと言っていることが手に取るように分かった。 それがどうしようもなく嬉しくて、どうしようもなく幸せで、その日はなんだか良く眠れなくなってしまった。 忙しなくベッドの上でごろごろ転がり、なんだか恥ずかしくなって布団を頭までかぶっても思い返してしまうだけで。 そんな、良い意味で眠れない夜は久し振りだった。 久し振りどころか、初めてだったかもしれない。 もう二度と味わえないであろう、そんな瞬間でもあった。


私の気持ちは決まっている。 決まっているし、それが揺らぐことはない。 だから余計に苦しいのだ。 その気持ちを相談すれば、彼はきっと真摯に答えてくれる。 だが、言えるわけがない。 それは私にとって初めてのことで、分からないことが多すぎる。 それに何より、私の過去でのことが原因で後ろめたさがどうしてもあるのだ。 だから私は言えない。 そして、彼には私よりも幸せになれる、してくれる人が居る。 叶わぬ想いは早々に消すべきであって、残すべきではない。


だから私は頼んだ。 目の前に居る狐男に。 泣きそうな想いを堪えながら、泣きそうな気持ちを殺しながら、私は言った。


「私の中から、彼らの記憶を消してください」


様々なことが重なっていたというのもある。 今は妙な異常、課題に取り組んでいる所為で混乱もしていた。 それに私の精神を不安定にさせることが多すぎた。 けれど、それを言ったときは安心していたはず。


そうして私は忘れる。 そして彼らも忘れる。 そうなるのがあるべき姿だと言わんばかりに。 この話は、私が私に終止符を打つ話だ。 クレア・ローランドが自身のエピローグを語る話だ。 私は笑おう。 いつものように笑おう。 辛くないと、悲しくないと、涙は出ないと笑おう。


そして殺そう。 私自身を殺そう。 所詮は人殺し、最後の最後で自分を殺すというのは、中々趣があって良いかもしれない。 クレア・ローランドの話を終わらせるために、彼らの話を続けるために、消えるべきはきっと私だ。 この先の話に私の姿はきっとない。 消えてなくなるのだから、彼の目に入らないのだから、そうなってしまえば私が彼らの物語に出ることはなくなるのだから。


私は結末を先に知るのがわりと好きだったりする。 だから先に結末を言ってしまおう。 この話に幸せは存在しない。 私が不幸になる話だ。 私が不幸になるのを見たい人は沢山居るだろう。 是非、私の終わりを見て欲しい。 そして出来れば笑って欲しい。 人殺しの末路としては、ピッタリではないだろうか?


前置きもそこそこに、そろそろ話の始まり始まり。 クレア・ローランドの、終わりと終わるまでの物語だ。

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