始まりは舞い上がる砂埃のように
気持ちの悪い描写が入るかもしれません。
どうかよろしくお願いします。
風が吹けば砂埃が舞うほど道が乾いていた。道と言っても、砂地で猛獣が腹を擦った跡のような窪みが先の先まで伸びてるだけだ。山の向こうまで雲は見つけられず、これ幸いと太陽が痛いほどの日差しを注いできている。
エンキの影は、墨を垂らしたみたく、くっきりとした人形で地面をのたうっていた。
うっかりしていたら干からびてしまいそうな日照り。また顔をつたって汗が顎から滴り落ち、地面にささやかな変化をつける。そして、みるみる立ち上って霧となり、中空に散っていった。この陽気で砂地。エンキの足元はさくさくと乾ききっている。歩く度に埃が上がり、あがっては靴を出来るだけ汚して下がっていった。
いい加減、喉の乾きも限界だ。エンキは吸筒を取り出した。不快な熱をこもらせているだろうそれを耳元で振ってみる。頼りない水音で返事をしてきた。
吸筒の蓋を開けてそろそろと傾け、ちょうどひとくち分の水を頬に含んだ。
熱持って温い。竹の味がしみ出してて苦い。はっきり言って不味い。
それでもエンキは一息に飲まず、諦め悪く口を濯ぐように水気を味わいながらちびちびと飲み下していった。たっぷり三百歩、歩いたあたりで無くなった。
クラン村を出たのは、夜が明けというにはあまりに頼りない天明の下。すべてが青白く染まり始めたときだった。なのに、それでも街道市ホムロがある茂林は遠かった。砂地越えだけで太陽は天辺にまで昇ってしまった。
(馬の足で半日。人の足で一日半。あんたの怠け足なら三日はかかるだろうねぇ)
祖母のアタカからの忠告を決して軽んじたつもりはなかった。それでも、つい――
(明日には帰って来てやるよババァ!)
と虚勢を張ってしまった。
歩き易さのみを求めて少なく荷造りしてしまったのだ。背袋を下ろして何度中をさぐっても、予備の吸筒などは無い。
――このままじゃあ〝ホントノハナシ〟行き倒れちまう。
そしたら行商人の馬車に拾われて村に帰される、というジィジの予想通りになる。そんなことになったら、村の短髪坊主に後ろ指さされて侮れてしまうだろう。開かれた背袋の茶巾口がアタカそっくりに大口あけて笑っていた。
エンキはギュッと眉根をよせた。額に一筋の血管が縦にはしった。
「――っんなことになってたまるか!」
エンキは背嚢の端をまさぐってこぶし台の巾着を取り出すと、その中身の一つを口に放り込んだ。村でつくっている飴玉だ。なんのかんのと人の旅路に茶々を入れてきたアタカが、今朝の出発前に無理矢理押しつけてきたものだった。
頼るもんかと思っていたがこうなっては仕方がない。連れ戻されるよりマシだ。
舌が踊るような甘みに包まれ、途端に唾が滲み出てきた。これでしばらくは保つ、と奮起してエンキは背嚢を引っかけて再び歩き出した。
遠い地平の向こうに緑を求めて目を凝らす。森はまだ見えない。森なんかあるのか? という不安が時折ちらつき、その度に振り払う。
村と町をつなぐ道しるべに、岩の彫刻が等間隔に並べられていた。そこに目を持っていけば地平に向かって点が次第につながって一本の線になり、針のように延々と伸びているのが見えた。
岩に従って歩いている。だから問題は無いんだ。そう励ましてさっきよりも強く地面を踏み込んだ。さくっ、という音が鳴った。
遅筆、誤字、脱字などなど
ご容赦頂けましたら幸いです。