慌ただしい1日2
…
姫さんが急いで出ていく。
裕也も急いで着替え、わざわざ遠回りしてお客様入口から店内に入った。
するとすぐにメイドの女の子から耳打ちされる。
「ここではお客様として振る舞ってください。マネージャーの要さん以外男性は働けない聖域と呼ばれてるんです。」
「わ、わかった。で、なんで呼ばれたの?」
「あの奥のテーブル席見てください。」
女の子が指さす方向をみて瞬時に理解した。
(ウサコが客に絡まれてるのか!!!)
「裕也さんは、あくまでお客さんとして止めてきてください!」
ドンっと背中を押され、何の解決策も思いつかないまま客席にたどり着いてしまった。
「おい、なんだ?君は文句あるのか?」
「…ウサコちゃん…嫌がってるじゃないですか…!」
「僕はただ、オムライスをアーンしてあげただけだ!」
「わ、わたし…お肉苦手で…そのオムライスは食べれないんです…ごめんなさい!」
「本当は僕がアーンしてるのを食べるのが嫌なんだ!」
(本当に肉が苦手なのに!…でも客として入ってきた俺が知ってたら、よけいややこしくなる…そうだ!)
「肉を食べるウサギは可愛いですか?」
「は?何いってるの君。」
「ウサコちゃんはウサ耳メイドさんです。ウサギなウサコちゃんがこのオムライスを食べたら、ただのメイドさんだ!!」
今まで固まったように静かだった他の客から声援がおくられる。
「いいぞ若者!」
「そうだそうだ!!」
「姫姐さん出番です!」
(ん?今姫さん呼ばれたような?)
客達がコールを始める。
「姫姐さん!それ!姫姐さん!」
姫さんがホールに出てくる。
「私が呼ばれたということは、客同士の喧嘩か?」
(え?何?俺どうすればいいの!?)
「二人ともこっち来い。」
「ま、まさか客に手を挙げたりしないよな?ぼ、僕は暴力反対だ!」
(!!暴力で解決するの?マジか!?姫さんの怪力でシバかれたら死ねるぞ!?」
「安心しろ。お客様に暴力はふるえないからな。2人には勝負してもらう。」
(え?まさか、ここで客と喧嘩して通報されるパターン?)
「だから、安心しろ。勝負はお姫様抱っこだ。私を抱えてどれくらい進めるか勝負してもらう。勝った方の言い分が正論だ。」
「うぉぉぉお!」一般客が叫ぶ。
それと同時に、メイドさんたちは床にテープを貼りスタートラインを作り、客は椅子や机を真ん中によせあつめはじめた。
(すげぇ…こなれてる…)
四角い店内は、真ん中に机がまとまったために、小さなコースができていた。
(俺、体格よくないし、さっき鍋まぜててチカラ入らないよ…でも、負けたくない!)
最初に裕也が姫さんをお姫様だっこすることになった。スタートラインに立ち、お姫様抱っこしてみる。が、すぐ降ろす。
(重い…)
姫さんに耳打ちする。
「さっきの秘薬作りで腕に力がはいりません…。ヤバイです。」
「大丈夫だ。お前は腕でささえてるフリするだけで、わたしがしがみ付いて離さない。」
「は、はい。」
「大体のやつは半周すぎたころくたばる。1週すれば勝てるぞ。」
「がんばります!」
改めてスタートラインに立ち、気合いをいれる。
「準備できました。」
「じゃあいくぞ。よーい…スタート!」
(力は入らないけど、姫さんがしっかり掴まっていてくれるからあまり腕に負担がない。)
「がんばれー!」
「俺も応援してるぞー!」
声援が嬉しい。
だが、裕也に余裕はない。
(脚かガクガクしてきた...)
肩に姫さんの腕が食い込んで痛い。
(頑張れ俺!まだ半分もいってない)
だんだん腰の力が入らなくなって、前かがみになる。
だがその姿勢は負担が大きくて、悪循環が始まってしまった。
(朝、ウサコが言ってたじゃないか!お肉を食べるのは、その動物が可哀想になってしまうって!無理に食べさせたくないよ!)
勝ちたい気持ち一心で一歩づつ進む。
2つ目の曲がり道はもう目の前だった。
(ここさえ曲がってしまえばもうすぐ半分おわる!)
脚に力をいれて、慎重に進む。
!!
ガッ!
脚をコーナーの内側にあった机にぶつけて前に倒れる!
(姫さんの上に倒れる!)
瞬時の判断で、姫さんを守るようにして横から倒れこんだ。
ドスン。
…声援が消えて静まりかえる店内。
「大丈夫か?」
姫さんに声をかけられて我に返る。姫さんはもう俺から離れていた。
(…半分にとどかなかった…)
パチパチ…
音の方を見ると、ウサコが泣きながら拍手している。つられて周りのメイド達も拍手する。
(拍手なんてしてもらえるほど俺は頑張れなかったのに・・・)
悔しさで涙が滲む。
「おい。男がこんなことで泣くな。私がなんとかする。」
姫さんは裕也に耳打ちしてから、大きな声でこう言った。
「ちょっと、トイレいってくるわ!」
姫さんはさっさと従業員トイレのある3階へ行ってしまった。
ざわめく店内。
ウサコがピョコピョコと駆け寄ってくる。
「大丈夫ですか?」
「あ、うん。でも…ごめん。」
ウサコの涙がたまった目を見て悔しさがこみ上げる。
「まだ勝負が決まったわけじゃありませんし、謝らないでください。」
「ありがとう。俺はいいんだけど。・・・やっぱごめん。泣かないで?」
勝負相手の客は、もう勝った気でニヤニヤしている。
そのとき、勢いよく2人の客が入ってくると、すぐメイドが呼ばれて何やら話始めた。
2人の客は俺の方に近づいてくる。
「若者、遅れてすまなかったな。」
もう1人の客も、「君はよくやった。ウサコちゃんを守ろうとしたんだ!その勇気が大切なんだよ。」と、優しい言葉をかけてくれた。
「あ、ありがとうございます…(誰?)」
2人はヘタリこんでいた裕也を抱えて立たせると、奥のテーブル席に座らせた。
「おーぅ。待たせたな。」
ドスドスと姫さんがやってくる。
(…ん?ドスドス?…てか、なんか姫さんの雰囲気が違う。そもそも、さっきよりデカイ
!?)
「遅くなってわるかった。思いのほかデカかったもんでな。難産だった。」
!!
(メイド喫茶でこんな会話が…夢が消える…)
「用意はできてるな?続きはじめるぞ。)
姫さんが、ウサコに絡んでいた客の前に立つ。
「お、おい。なんだよよこれ!おかしいだろ!僕に勝たせたくなくて服の下に何か仕込んだな!?」
(た、たしかに体がデカすぎる…)
「ほう。私が不正を働いているというのか?
ならば…」
バッ!!
姫さんが制服を脱いで、水着姿になる。
!?!?
(さっきまで女性アスリート体系だった姫さんが、男性ボディービルダーのような身体に!!)
「これでも私が重りを仕込んでいるとでも?」
「い、いえ。勘違いでした…」
「ならば始めるぞ。」
「…はい。」
客は納得したくはなさそうだが、現実、姫さんは水着姿にまでなってるのだ。
「よし、準備できたな。…ヨーイ…スタート!」
相手の客が姫さんを抱き上げようとする。
「ぐっ…んんん…くっ…」
姫さんを持ち上げることすらできない。
(あれ?…いくらなんでもおかしいぞ?)
ウサコが耳元で説明してくれる。
「姫さんはさっきシャワー浴びてきたみたいです。ダッパーズはお湯を全身に浴びると、本来の動物の特性が強まります。」
「じゃあ姫さんの元の動物は…」
「象です。あの姿だと象の半分の体重。つまり4000キロとその力があります。」
!!!
(持ち上がらないわけだ…)
対戦相手の客は、しばらく奮闘した後、降参した。
俺の勝利が決まった。
(一安心だ。…でも、全部姫さんのおかげだな…)
店内は、裕也コールをしている。
姫さんから、パフォーマンス用のマイクが渡される。
「お前は勝利なんだから一言いえ。」
何を言うかなんてモタモタ考えてたら場の空気が冷める気がして、頭に浮かんだ一言を言う。
「みなさん応援ありがとうございました!」
お辞儀をして奥に行こうとすると、さっき遅れてきた客が、マイクを持って隣へきた。
「ミルク応援団のみなさん、もう一度この少年に拍手を」
客たちが一斉に立ち上がって拍手する。
「今日活躍してくれたこの少年には、私から例のドリンクを奢ろう!!」
「うおぉぉぉぉ!!」
「さすが団長!」
「羨ましすぎるぅぅぅ!」
客達が興奮している。
(この人何かの団長か?…それに例のドリンクってなんだ?)
「さあ少年、君のメイドさんはどの子かな?」
(俺のメイドってどういうことだ?…でもまぁ、ウサコしかメイドさんの名前覚えてないし…)
「ウサコちゃんです。」
客席が沸き立つ。
「同志たちよ静粛に。では、ウサコちゃん、彼がご指名だ。」
団長と呼ばれる男がウサコに耳打ちする。
「か、かしこまりました!」
ウサコは急ぎ足でキッチンへ行ってしまった。
「挨拶がおくれたね。私はカフェミルクミルクの応援団を立ち上げている者だ。みんなには団長と呼ばれている。」
団長から名刺をもらった。
「ありがとうございます。」
「そろそろドリンクが届くはずだ。楽しみたまえ。」
本当にウサコがドリンクを持ってやってきた。
「お待たせしましたご主人様。」
(これ、昨日飲んだスペシャルミックスジュースじゃないか。…ってあれ!?)
裕也は気がついた。昨日との違い…
(ストローが昨日のより短くて2本!)
姫さんがテーブルと椅子を運んできてドリンクを置き直してくれた。
「ご主人様、一緒に飲みましょ?」
顔を赤らめたウサコがモジモジしている。
(そ、そういうことなのか!?)
ウサコはもう座ってストローに口をつけている。
「遠慮するな少年。女の子は待たせちゃいけないよ。」
「は、はい。」
(座ったはいいけど、このストロー短くて一緒に飲むと近すぎる気が…)
ウサコが、ストローを咥えて上目遣いしている。顔が赤い。
(な、なんかこの図はエロいこと想像してしまうでははいか…!ヤバイ。目をつむって飲もう!)
目をつむり、短いストローでドリンクを飲む。
(顔が近いって、目を閉じててもわかるんだな…)
身体が熱くなってくる…
勇気を出して、少し目を開けてみる。
(あ…)
目を閉じていたときには気付かなかったが、もう、鼻と鼻がくっつきそうな近さでウサコが目を閉じてドリンクを飲んでいる。
(キスできるくらい近くに女の子の顔が…な、なんかヤバイ。ドキドキしてきた。)
ウサコがストローでドリンクをチュルチュルと吸っている・・・
(うぁぁぁぁぁぁぁぁぁ・・・)
このドキドキとした空気に耐えられなくなって、裕也は勢いよくドリンクを飲み乾した。
ストローから2人して顔をあげると、ウサコはニッコリして首を傾げていった。
「ごちそうさま・・・でした。」
その言葉にノックアウトされた裕也だった。