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願い事

午後7時半。

前園うさこの部屋では気まずい雰囲気がながれていた。



「あ、あの。ウサコさん...」

「は、はい。あ、名前呼び捨てでいいです。」

「え、あ、はい...」


狭いアパートに女の子と二人きり。

普段、女の子と喋るなんてことがない高岡裕也にはハードルが高い状態だ。


さっきまでウサコと一緒にいた色彩要という男は、ある程度の説明だけして帰っていった。


要が説明していったのは、だいたいこんな話だった。


ウサコは人間ではなく、うさぎの幽霊が人間の姿になっている。ダッパーズと呼ばれる存在であり

人間化した理由は、生前世話になった俺への恩返しがしたいらしい。

恩返しができるまでは成仏できないとも言っていた。

だから俺の住む鷹宮荘にきて、恩返しをするのだと。


「あの、さ、恩返しって...俺は何をしてもらえばいいと思う?」

「えっと...。物をあげるとか、洗濯物を手伝うとか、そういう簡単な恩返しじゃ駄目です。」

「じゃあ、どんな事?」

「裕也さんの、一番の願い事をかなえるお手伝いをするんです。」


(一番の願い事かぁ。考えたことなかったよ今まで。)


「たとえば、一番の願い事がない場合ってどうなるの?」

「私、一番の願い事じゃないと成仏できないです。」

「成仏できなくても、このまま人間として生きるってのは駄目なの?」

「それは困ります!成仏できないと。私、一度死んでいるので歳をとっても死にませんから。」


...へ?


「歳はとるんです。おばあさんになりますし、もし裕也さんが年老いて亡くなってからも永遠と生きつづけて、ミイラのようになっても死ねません。」


 !!!


それはあまりにも残酷じゃないか。


「だから、裕也さん。私に一番の願い事を教えてください。」


ウサコの澄んだ赤い瞳が、俺の目を真剣に見ている。

非常に言いづらいが、はっきり言った方がいいと思った。


「ごめん。俺、一番の願い事って思いつかない...」


ウサコが驚いた表情を見せ、それから少し考えている顔つきになった。



「大丈夫です。想定内です。願い事が決まったら手伝います!」


そう言ってウサコは笑顔を見せた。

絶対、想定外だっただろうに。



もう帰って、自分の願い事を考えたほうがよさそうだ…


「長居しちゃったね、俺今日はもう帰るよ。」

「あ、はい…あ、あの…」

「ん?」

「今日は久しぶりに裕也さんに会えて、とってもうれしかったです。」


そう行ってウサコはうつむいた。

どことなく、顔が赤くなっている気がした。


(か…かわいい)


「じゃ、じゃあ俺はこれで!」


なんとなく自分まで顔が赤くなった気がして、気づかれないように素早くウサコの家を出た。



バン!


ドアを開けたところに妹の美雪がいた。

完全にドアをぶつけてしまった!

恐る恐る顔色を伺う。


「おにいちゃん…」

声のトーンが低い。ヤバイ、怒ってる。


「夕飯の時間に帰ってこないと思ったら!もうウサコさんナンパしてたんだ!へー!!ヘタレかと思ってたけど、手は早いんですね!でも残念!ウサコさんみたいな美人さんにはお兄ちゃんは釣り合わないもんね!」


怒涛のようにまくしたてられる。


「ちょ、誤解だ!誤解!それに美雪、お前なんでウサコの事知ってるんだよ!」


「あれ?お兄ちゃん、ウサコさんのこと呼び捨て?ヘタレなお兄ちゃんにしては勇気だしちゃったの!?」


「いや、これは成り行きで…ってか、お前はなんでウサコの事知ってるのか答えてくれてないし!」


「お兄ちゃんが出かけてる間に、お引越ししてきたって挨拶しにきたの!かわいいお花のプランターもらったんだから、お兄ちゃんもお礼言ってよね!」


「なるほど…知らなかったよ」


そんな兄弟喧嘩を玄関先でしていたので、ウサコが心配そうに顔をのぞかせた。

また黒髪、黒目の最初に会った時の姿にもどっていた。


「美雪さん、こんばんわ。お兄さんのことあまり怒らないであげてください。私がお話があって引き止めちゃったんです。」



「ウサコさん優しい…でも、兄は女の人に慣れてないから、優しくしすぎると勘違いしてストーカーになりえます!気をつけてください!」


「オイオイ、人聞きのわるい…。

あれ?そういえば美雪、なんでウサコの部屋の前に突っ立ってたんだ?お前の部屋は隣だろ?」


「あのね、お兄ちゃんがいなかったから今日は私が夕飯用意したんだよ!それでいっぱい作ったからウサコさんにもと思って!」


!!!


「ウサコ!それは毒だ!危険だ!食べちゃだめだ!」


すかさず美雪のハイキックがとんでくる。


「ガハッ…」


父さん、母さん、妹はたくましく育っています。


「お兄ちゃん失礼ね!今日はきっとウマくできてるもん!カレーに失敗は無いって言ったのお兄ちゃんじゃん!」


「確かに言った気もする」



うちの家族は、父親は海外転勤中。母親は失踪中で3年ほど行方不明だ。


だから、俺と妹は2人暮らしで、主に俺が食事を作っている。美雪の料理はマズイとかの次元じゃない。


「で、美雪。お前そのカレーは味見したのか?」


「してないよ?」


「…持って帰るぞ!」


「え!え!?ウサコさんにも食べてもらおうと思っていっぱいつくっちゃったよ!」


(いっぱい作ったのは確信犯か!)


「あのー、私食べてみたいです」


!!!


「わーい!じゃあ今日は3人でワイワイご飯食べましょう!」

美雪の目が輝いている。


(ごめんな、ウサコ!)




案の定、美雪のカレーライスは酷かった。


米はお粥状態。だが、まだそれはいい。

肉のかわりにチクワ。まだ…いいとしよう。

だがなんだ?


なんで子持ちシシャモが入っているんだ!


一気に魚くさいカレーになっている。


カレーを器によそるとき、お玉を持ち上げると顔を出してくるシシャモはホラーだ。


こんなカレー!シシャモは全部美雪のところへ入れてやる!


ウサコはウサギだし、ニンジンか?


…おれはチクワ…か。



食べ始めると、案外ウサコはニンジン大量カレーを黙々と口へはこんでいるし、美雪はシシャモの卵を堪能している。

食が進んでないのは俺だけなんだが、もしかして俺が異常なのか?世間様はシシャモカレーを欲しているのか?


なんだか自信がなくなる夕飯だった。


3人「ごちそーさまでした!」


「ウサコさん、私のカレーどうだった!?」


(よく聞けるなそんなこと!)


「あの、私、カレーって初めて食べたんですけど、不思議な食べ物ですね!」


「ですよね!私も初めてカレー食べたときは驚きましたもん!ちっちゃい時だったけど!」


なんか違う気もするが、絶妙に話として成立してるからツッコまなくてもいい気がした。


こうやって2人が楽しそうに話をしていると、まるで姉妹みたいに思えてくる。

特に美雪は凄く嬉しそうだ。


考えてもみれば、美雪は今14歳で、小学生の時から俺と2人きりで夕飯食べるのが当たり前になっちゃったんだもんな。


俺の願い事が叶うなら、家族みんなで暮らせるようになりたい。とかでもいいのかもしれない。



高岡裕也は1人でそんな事を考えていたのだった。

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