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ふたり  作者: さくら
3/3

休日に その3


「うわ、さむっ!」


コンビニの自動ドアがひらくと

予想外の冷たい空気が出迎えた。

昼間は暖かかったのに、日が沈むと

気温が下がる。

上着を部屋においてきたことを

軽く後悔しつつ、歩き出す。


レポート、もう終わってるやろな


疲れきった顔でパソコンを

睨み付けていた彼女の顔が浮かぶ。

バイトでへとへとだったようだし、

ちゃんとできたんだろうか。


彼女はしっかりしているようにみえて

どこか頼りなくて、気になって仕方ない。

今日のレポートだって、

メールしてやるだけでよかったのに、

心配でついつい手伝ってしまった。

我ながら、おせっかいだと思いつつ。


彼女のアパートの階段をのぼり、

何気なく階下を見下ろした。


隣の敷地の桜が咲いている。


家々の明かりに照らされて

密やかに咲く花は美しかった。

彼女はこの花に気がついているのだろうか


ひゅうと冷たい風が襟元に滑り込み

思わず首をすくめる


「さぁっむ!花どころちゃうわ・・・」


彼女の部屋へ急いだ。




「ただいま」


彼女に声をかけたが返事がない。

部屋に入ると、テレビの音。

みると彼女はベッドでリモコンを握りしめ、細い体を丸くして 眠っている。

まるで猫だ


「ったく、鍵閉めとけいうたのに…」


眠る彼女が無防備すぎて心配になる

そっと頬にふれ、髪を撫でる


「んー…」


迷惑そうに僕の手を

払いのけようとする。


どきりとする。


そのしぐさや表情が

妙に色っぽい。

普段は子供っぽいくらいなのに


思わず手をひっこめようとしたけど、

その手を彼女がしっかりとつかんでいる


「んん…おかえり…」


寝ぼけまなこを、空いた手で

こすりながら身を起こし

僕の胸に頭を預けた


「ねむいー」


彼女の体温が伝わってくる

ああ、ここにきみがいる。

そう実感させてくれる。


「レポートできたん?」


彼女の髪に顔を埋めながら

一応確認する


「ん、できた…ありがとね、

助かった…」


彼女の声が自分の中に響くようだ。

この感覚が僕は好きだ

ふたりひとつになってるみたいで。


「お疲れさん」


僕は彼女を抱き締めた


平静を装ってるふりをして

労いのことばをかけたけど、

好きという気持ちが溢れて止まらなくて

レポートなんかどうでもよくなっていた


ただ、こいつが好きだ


僕は彼女にキスをした。


「お前かわいすぎやねん…」


何度もくちびるを触れあわせる


「…寝顔とかズルい…」


「え…あ…ズルいって、何それ」


彼女が、小さく呟く


「あんなん…我慢でけへんやろ」


彼女の頬がぱっと染まる

さっき見た桜のように。

色づいた彼女は美しい


また唇をあわせて

そのまま二人重なる


テレビのリモコンに手が触れた

僕はキスをしながら、電源ボタンを

押した。




静寂が押し寄せて、ただきみの

息づかいだけが聞こえる


「好きや、好き…」


その目もその鼻も、その唇も

その首筋も、腕も…声も

きみのすべてがたまらなく

いとおしくて、好きと囁きながら

口づけた


「ん、もうっ…わかったから…」


彼女がキスを遮る


「まさき、好き言い過ぎ…」


「あかん…?うざい?」


彼女の頬にキスをする


「そ、そんなことないけど…」


くすぐったそうに彼女が首をすくめる

はだけた襟元から鎖骨がのぞいて

艶かしい。

そっと鎖骨に指を滑らせて


「言葉にせな、伝わらへんやろ…」


この想いが伝わってないのなら

うざいくらいに囁いて伝えたい

きみが好きでたまらないこと

この想いが溢れて

きみをいつか溺れさせてしまっても

きっと僕は想いを止められない


彼女にまた口づける


「ん、私も…伝えたいから…」


吐息の間から彼女の言葉


「私も好き…」


そうか、伝えるだけじゃ

ダメなのか。

一方通行じゃ二人でいる意味がない


彼女は、いつも気づけなかったことを

気づかせてくれる


「ああ…うん」


想いを受け止めることも大切なんだ


彼女が僕の背中に手を回す


きっと恋は天秤のようなもの

一方的じゃ釣り合わない


これからも伝えあえる

二人でいられたら


「ずっと好きでおってや…」


彼女が小さく頷く。

その幸せそうな微笑みが

二人通じあっている証拠だろう

体だけでなく気持ちも

ひとつになりたい


きみを守りたいと心から願う

この手を離したくないと。














「わあ、ほんまや、桜咲いてる」


ふたりで窓から顔だけ出して、

階下の桜を見た。

ちょうどベッドの横の窓から

さっきの桜が見えるのだ


「ちょっとのぞいたら見えるのに

咲いてるのしらんかったわー」


彼女は、ほんとに知らなかったようで

ショックを受けている


「なんか損した気分…」


窓枠に頬杖をついて

ふてくされている


そんな顔していても、

彼女は花のように可憐で

かわいい


僕は桜なんかより、

きみをみていたい


そんな言葉が喉元まで出てきて

自分で恥ずかしくなった


「一番いいときにみれたんやし、

ええんちゃう?損してないって!」


照れ隠しに彼女の頭を

くしゃくしゃとした



「なんか、拗ねた子供なだめてるみたいやん…」


上目遣いで睨む

その顔がまた魅力的すぎて

まともにみられない


こいつは小悪魔だ


にやけた顔をかくしたくて

目をそらす


「どーせ子供やけどねえー。」


ぱたんとベッドに身を投げる


「も、限界…」


目を閉じて、すぐに

気持ち良さそうな寝息


「ふふ、のび太並みの早さやな」


音をたてないように窓を閉め

彼女の隣に寄り添う


明日、授業終わったら

お花見いこう。


窓から月明かりがみえる

きっと、明日は晴天だ


夜の桜もいいけれど、

晴天のしたの桜は

格別だろうから


桜に目を輝かす彼女を

思い浮かべて、僕は

目を閉じた




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