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ふたり  作者: さくら
1/3

休日に その1

「おつかれさまでした~」


いつものように通用口の

ガードマンに挨拶をして、

バイト先を後にする


今日は、なんだかバタバタして

すごく疲れた。


ショッピングモールの一角の

ファストフード店の土日はまるで戦争だ

お昼のピーク時なんて、特に。


みんなの休日に働いている自分にも

嫌になるし、疲労感が半端ない

バッグに忍ばせてきたキャンディを

口に含み、疲労回復をはかる


「私も出掛けたいつうの!」


キャンディの包み紙をゴミ箱に

投げつけた。


今日は、すだくんバイト休みだったのに。


すだくんというのは、私の彼氏だ。

同じ学校の同級生で、去年から

付き合っている。


口のなかに甘味が広がって

少し気分が落ち着いた。


バイト先のショッピングモールは

駅ビルやショップの立ち並ぶ

繁華街の中にある。休日の今日は、

カップルや親子連れ、

実にいろんな人がひしめき合って

いつも以上に混雑している。


朝からあくせく働いた身には

なかなかキツイ。

なんだってこんな場所をバイト先に

選んだのか怨めしくなる。

すだくんみたいに家庭教師できたら

いいのになあ。

ま、私にはそんな頭脳も

教える根気もないけど…


はあ


ため息ひとつついて、

バッグのなかからスマホを

取り出して、ロックを解除する

ケータイ中毒な自覚はないが、

長い時間チェックしていないと

やはり気になる。

こういうのは、日本人特有のことらしい。

ファントムバイブレーションとかいう

鳴ってもいないのに、携帯が

鳴動していると勘違いしてしまう

現象まであるのだから驚きだ。


人と常に繋がっていたい。


それは、ずっと個々よりも集団を

優先してきた日本人には

当然のことなのかもしれない。




LEDがちかちかと点滅して

LINEの通知を知らせている


タップしてメッセージを表示する。

いくつか妙なスタンプが

続いて、最後に


『おつかれ!』


とだけある。すだくんからだ

最近はじめたLINEが面白くて

時々こうしてスタンプで笑わそうと

してみたり、無駄にメッセージを

送ってくる。

私の場合はこういうのが嬉しくて

ついついスマホをチェックしてしまうのだが。


「おつかれ、の先をおねがいしたいんだけどな…」


会いたいとかさ…


ひとりつぶやきながら、メッセージを

送ろうとしたら、画面に新しい

メッセージが現れた。


『気づけよ』


え?何に?


とりあえず顔をあげてあたりをみまわすと


「お前周りみてなさすぎ」


聞きなれた声が耳に飛び込んできて

突然ポンと頭に手を置かれる。


「わ!」


振り返ると、すだくんがそこにいた


「ちょ、後ろに…なんで?!」


「はは、驚きすぎやろ…っふふ、

おもろいわー」


私の反応をみて喜びすぎだ!

私は少しむっとしたけど、

笑っている彼をみてたら

そんなことすぐどうでもよくなった。

彼の笑顔は、どんな病気でも治してしまう

魔法の薬みたいだ。観ているだけで、

疲れなんて忘れてしまう。

このドキドキは、

驚かされたせいだけじゃない


「通用口のすぐそばにおったのに、

素通りしてくんやもん、ふふ」


まだニヤニヤしながら歩き出す


通用口ってことは、私がゴミ箱に

八つ当たりしてたの、見られたかな?

だとしたら顔から火でも出そうなくらい

恥ずかしい…


手が触れあい、自然と手を繋ぐ。

その左手がひやりとしてる。

私が出てくるまで少し待ったのだろうか。

きれいな横顔を見上げながら

そんな心配をしていたら


「こら、聞いてんの?」


繋いだ手を引っ張られた


「え?」


「だから、スタバ寄って帰ろっていうたの!」


「ああ、うん」


なんの約束もしてないのに、

当たり前のように一緒にいるって

不思議だ。

その当たり前が嬉しくて、

繋いだ手をきゅっと握りなおした


バイト先に程近いところにあるスターバックスに入ると、やはり店内は混雑していて、空いてる席もない。

仕方なく、カフェラテをテイクアウトすることにした。


「天気いいし、外でも問題なしやなぁ」


買ったカフェラテを早々と

飲みながら彼が言う


確かに空はぬけるような青空で、

降り注ぐ日の光がほのあたたかく

室内にいるより心地いい


もう春だ。



ショッピングモールの隙間に

器用に植えられた桜が、

ピンク色に染まっている。

道行く人がみな、一様に花を

見上げて行く。


ちょうど目の前のベンチが

奇跡的にあいたので、

とりあえず座ることになった。


「今日何してたん?」


休みだった彼が半日何してたのかきになってふと尋ねた


「え、昼前に起きてーメシ食って…」


カフェラテのストローをくわえたまま

思い出すように答える


「レポートしてたんやけど…」


げ、そういやレポート明日提出だ。

レポートというワードで、幸せな気分が

一気に消え失せた


「私、全くしてへんわ…」


ここのところ、バイトに明け暮れてたので

そんなものすっかり脳内から消去されていた。こんなところでのんびりしてる場合ではなさそうだ


「やっぱしか」


「え!」


「一ミリくらいは、やってるかもって

思っててんけどな!」


意地悪そうに笑って彼が立ち上がる


「ほれ、帰ってやるよ?」


私の手を引っ張る


レポートのこと、メールでも

してくれたらよかったのに…


「教えてくれたらよかったのにー」


私がふてくされると


「メールしてたら、できてたん?」


そういわれると、ぐうの音もでない

今週はバイトに明け暮れてたし、

そんな暇あるわけがない


「いや、多分してない…」


「だよなー。やっぱきてよかったわ」


ん?もしかして、はじめから

私のレポート手伝うつもりで

きてくれたんだろうか?


「レポート手伝うつもりで

来てくれたの?」


「え、あ、まあそれもあるけど…」


「………たし…」


目をそらして向こうをみてしまう

短い髪からのぞく耳が真っ赤に

なっている


彼の声は小さかったけど

確かに


会いたかったし


と聞こえた。彼は照れると声が

小さくなって、すぐ赤くなる。

みんなにクールだとかいわれてるのに

かわいい人なのだ




レポートはかなり憂鬱だけど

彼が私のレポートのことまで

気にしてくれてたのだと思うと

顔がゆるんでしまう。


にやにやしていると


「何笑ってんねん!はよいくで!」


容赦なく腕を引っ張られて、

半ば引きずられるみたいに

歩き出した。

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