第6話 勇者、過労問題
魔界は二度壊れたが、勇者の体力はもっと壊れていた。
夜。
勇者、帰宅。
ふらり。
「ただい――みぁああ」
バタン。
倒れる。
三姉妹、硬直。
ナターシャ「……え?」
ベルゼリア「生命反応、急降下」
ルミエラ「ドッキリ?え、嘘ですよね♡?」
聖鎧
「過労値:限界突破」
聖盾
「睡眠不足・精神疲労・世界二度崩壊ストレス」
勇者
「視界が回る……グルグル 」
バタン きゅー
意識薄。
ナターシャ
「任せろ!!体温上げる!!」
爆炎手当て。
布団、発火。
❄ベルゼリア
「却下」
瞬時に凍結。
部屋、氷点下。
ルミエラ
「では癒しの光を♡」
部屋が眩しすぎる。
勇者
「まぶし……」
三姉妹の看病対決、開幕。
ナターシャ
「栄養満点超高熱スープ。喰え!」
ベルゼリア
「完全調整栄養液。投入」
ルミエラ
「勇者様、私だけ見てくださいね♡」
三方向から圧。
勇者、青白い。
そのとき。
エリシア、静かに入室。
何も言わず、カーテンを閉める。
灯りを落とす。
三姉妹の魔力を、そっと押し戻す。
エリシア
「静かに」
声は小さい。
でも、全員止まる。
エリシア
「今は、勝負ではありません」
布団を整え。
額に触れる。
冷水でタオルを絞る。
「熱は高くありません。ただ、疲労の限界です」
三姉妹、初めて気づく。
勇者の手。
小さく震えている。
ナターシャ
「……私のせいか」
ベルゼリア
「負荷計算を怠った」
ルミエラ
「甘やかすだけで、支えていなかった」
沈黙。
エリシア
「勇者様は強いです」
静かに、勇者の手を握る。
「だから、無理をします」
三姉妹を見る。
「私たちは、強さを見ていました」
少し間。
「弱さを、見ていませんでした」
ナターシャ、ゆっくり近づく。
爆炎を消す。
そっと、勇者のもう片手を握る。
「……起きろよ、バカ」
声、小さい。
ベルゼリア、魔力出力を極小に。
室温を最適化。
布団の中だけ、心地よい温度。
「環境、安定」
視線は勇者から逸らさない。
ルミエラ、光を弱める。
膝をつく。
「……今日は、甘えさせません」
そっと額を撫でる。
依存の魔法は、使わない。
ただ、触れるだけ。
部屋、静か。
誰も競わない。
誰も主張しない。
ただ、呼吸を合わせる。
勇者、薄く目を開ける。
「……あれ、戦争は?」
ナターシャ「しない」
ベルゼリア「凍結済み」
ルミエラ「今日はお休みです♡」
エリシア「眠ってください」
勇者、安心したように目を閉じる。
三姉妹、並ぶ。
初めて、同じ方向を見る。
ナターシャ
「私……勝つことしか考えてなかった」
ベルゼリア
「最適化対象を誤認していた」
ルミエラ
「“選ばれる”ことばかり……」
エリシア
「守るのは、一人ではできません」
小さな言葉。
でも、重い。
ナターシャ
「……次は、守る側だ」
❄ベルゼリア
「協調モード移行」
ルミエラ
「奪いません。支えます」
三人の視線が、同じになる。
夜明け。
勇者、目覚める。
体、軽い。
布団の周り。
四人、眠っている。
手を、握ったまま。
勇者、小さく笑う。
「……世界より、こっちが大事だな」
奪い合いから、守り合いへ。
ほんの少し。
でも確かな転換。
魔界は今日、壊れていない。




