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broken man  作者: 廃墟
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broken man


田中太郎はブロークンマンである。

見た目は佐藤二郎っぽいただの中年だが、彼は壊れている。

彼はとある国の「完全兵士計画」による改造人間である。

彼の身体能力は見た目通りのちょっと草臥れた中年男性だが、彼の人としてのネジは外されている。

彼は壊れているが故に壊すことに長けている。躊躇いもない。なにかを壊すのに高価な兵器も立派な筋肉も必要無いことを彼は知っている。場所と時間、それさえ正しければ、石を一つ置いておけばすべては壊れる。

壊すのは容易い。

だがそれをできるものは少ない。

実際にそれが壊れることをわかって壊せるものは少ない。それが「ネジ」だ。

一本や二本外れているものはよくいる。だが、田中太郎はすべてのネジを外された。そのように壊された。

本来なら田中太郎は改造された後に全てを破壊して、そして自滅するはずだった。

そのような存在なのだ。

だが、奇跡的にひとつだけ、田中太郎にネジを戻す出来事があった。

それは一匹の老犬によって成された。田中太郎はその老犬とは、生きている間に会ったことすらない。二人は(人類の文明が瓦解することを防いだ老犬は一人と数えるべきだ。そうだろう?)かたや死体、かたやブロークンマンとして出会った。

冷たくなっていく老犬の死体は、田中太郎に「生命」というネジを戻した。

これは田中太郎という存在を生きるものたちに伝える物語である。


どう見ても草臥れた中年でしか無い男が、半グレの集団を瞬殺する。そんなフィクションは腐るほどあるが、実際に目の当たりにして納得できるものは少ないだろう。いわゆる「そんなんじゃ視聴者は納得しねえよ!」ってやつである。

だが、かつて自衛官としてレンジャーってのを長年勤めて汚い仕事もこなしてきてしまった神宮司清貴はどう見ても普通のおっさんがそこそこトレーニングしているピチピチの若者たちを秒殺していく風景を見て、「あ、このおっさん壊れてる」としか言いようが無かった。

神宮司と田中はともにニコニコクリーニングで働く同僚だった。ビルメンテナンスと言えば聞こえは良いが、実際には雑居ビルの掃除人と言える。だが、それは人が居る空間を清潔にするという意味では、人が生きるためには重要な仕事である。

神宮司はこの仕事を素晴らしいと心の底から思っていた。そんなまともな人間だったので、自衛官をやっていたころは地獄だった。体格にも恵まれていたし、そこそこ善良な精神を持っていた神宮司には御国のためとは言えどう考えても頭がおかしいとしか言いようの無いクソのような上層部を看過することはできなかった。

カタストロフィは海外派遣の任地でで十歳に満たない少女を犯す上官を目撃したときだった。

気が付くと神宮司はその上官の四肢を折っていた。

海外でのこともあり、そもそも上官のスキャンダルでもあったので、神宮司は異例とも言える「除隊」という処分で済んだが、上官は終始「被害者」という姿勢を崩さなかった。

代々軍籍であると言うのが神宮司家の誇りであるという糞のような伝統も相まって清貴は「家」から開放され、いろいろな「軽い知り合い」に紹介された転職先よりもハローワークで紹介されたニコニコクリーニングで第二の人生を歩み出し、このまま生きていけると思っていた。人を殺したこともある自分が、こんなふうに生きられるのならむしろありがたいとすら思っていた。

田中太郎に関しては、「すごくいい人」というのが神宮司の評価である。

仕事は迅速とは言い難いが丁寧だし、なにより「相手の言うことを全部聞いてから返答する」という類稀なる性格を持っていた。

神宮司はこのままニコニコクリーニングで掃除をし続ける生活でなんら不満は無かった。

そのビジョンが崩れたのは、ニコニコクリーニングの事務員である神原つかさの前夫が無駄に金持ちでそこそこ政治方面にも顔が効くことだった。

菅原つかさは明るい人で、神宮司と田中にも分け隔てなく付き合う人だった。というか、むしろ神宮司や田中太郎のような人を信頼している節があった。

「キヨさんとかタローさんとか、安心できるよね」と笑うつかさの言葉に、シングルマザーの生きづらさを感じ取れる程度にはまともな神宮司は、彼女の境遇を推察してできるだけ助けたいと思っていた。

神宮司はつかさが無断欠勤したと聞いた時には動き始めた。かなり早い対応であった。

だが田中太郎はさらに早かった。

「わー、やっぱりあなたなら来てくれると思ってたんですよー。嬉しいなあ。」

両手を真っ赤にした田中太郎は、満面の笑みで神宮司を迎えた。

神原つかさの子どもを欲しがった元夫は、地元のチンピラに彼女を襲わせたが、二束三文で集められた連中は田中太郎の手によって二度とその目でなにかを見ることができない身体にされた。

殺すまでも無い。連中は田中太郎によって、眼球を潰されるか抉り出されるか、なんにしろ二度と「何かを見る」ことができなくなった。

「まあ、死ぬよりはマシですよねー」

この件では、田中太郎は誰ひとりとして殺してはいない。

チンピラたちは目撃した犯人の特徴を証言できたが、それによってビジュアライズされた似顔絵なりモンタージュを「これてす」と保証することはできない。

「こーゆー人たちって、殺す必要も無いんですよ。いま話してる僕の声も、連中の言葉では再現できないんです。」

田中太郎はそう言って笑う。

「むしろ生きててもらうほうが、連中が自分の言ってることの信頼性を崩してくれるんですよ。」

田中太郎は壊れている。


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