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第3話 忍び寄る視線と、クソかっこいい夜

あの日から、私はもう――

梶くんから目を離せなくなっていた。


そうだよね……同じクラスなんだから、

毎日顔を合わせていて、

名前を知らないままでいられるはずがない。


彼の名前は――

谷風 梶くん。


谷間を吹き抜ける風みたいに静かな響きで、

でも、その奥に何かを秘めているような名前。


梶くんは、

何もしていなくても目立つタイプの男子だ。

意識して見ていなくても、

気づけば視界の端に入ってくる。


窓際の席で、無表情に座り、

あまり誰とも話さず、

笑うことも、感情を表に出すことも少ない。

でもよく見ると、

彼の一つ一つの動作が、

まるで最初から“演出されたもの”みたいに洗練されている。


首を傾げる仕草も、

眼鏡のフレームに指を添える動きも、

すべてが――

完璧なタイミングを待っていたかのようで。


そして、もう一つ。

クラス中が知っている有名な話がある。


――梶くんの、成績。


それが、とにかく……おかしい。


おかしいなんてレベルじゃない。

本来、起こりえないはずの異常事態。


数学も、国語も、理科も、体育も、

すべての科目で――

毎回、必ず、50点ぴったり。


49点もなければ、51点もない。

端数すら存在しない。


最初は偶然だと思われていた。

でも二回、三回と続くうちに違和感が生まれ、

やがて噂が広まり、

気づけば学校の怪談みたいな存在になっていた。


「わざとやってるんじゃない?」

「もしかして先生に点数操作させてるとか?」

「実は天才だけど、目立ちたくないとか?」


……いや、それ、

逆にめちゃくちゃ目立ってるから。


でも結局、

誰も彼に直接聞こうとはしなかった。

当の本人が、

成績なんてまるで興味ないみたいだったから。


テスト返却の日。

クラスメイトたちは、

喜んだり、落ち込んだり、ため息をついたりしているのに、

梶くんはただ、

答案用紙の数字を一瞥して、

小さく頷くだけ。


まるで――


『……うん、予定通り』


そう心の中で呟いているみたいに。


50点という数字が、

努力の結果じゃなく、

“狙った通りの成果”だったかのように。


どうしても、

あの雨の中に立っていた梶くんの姿が、

頭から離れなかった。


だから……

今夜の私は、

パソコンの前でぼんやりと座り続けている。


部屋の明かりはすべて消して、

残っているのはモニターの光だけ。

目の前にはマイク、

耳にはぴったりとヘッドホン。


そして画面の中では――

明るい水色の髪のキャラクターが、

視聴者に向かって笑っている。


私の本名は、赤根あかねユキ。

そしてもう一つの私の名前は――

「ルン」。


ネットの世界での私。

現実よりもおしゃべりで、

表情豊かで、

顔を覚えられる心配もない私。


「こんるん〜! ルンでーすっ!」


私の声と一緒に、

画面の水色髪のアバターが、元気よく手を振る。


「今日、雨めっちゃ強かったですよね〜!

 みなさん、濡れませんでしたか〜?」


コメント欄が、勢いよく流れていく。


— 雨やばかった

— ルン外出ちゃだめだよ

— 雨音ASMRすぎる


私はくすっと笑いながらも――

頭の中では、

ある男子の姿が重なっていた。


「……えっと、今日はね、

 ルン、ちょっと不思議な話があるんです」


画面のルンは、

秘密を打ち明けるみたいに、

少しだけ首を傾げる。


「実は……

 ルンの学校にね、

 漫画から飛び出してきたみたいな男の子がいるんですよ」


コメントがざわつき始める。


— 主人公!?

— イケメン!?

— 謎の男タイプ!?


「ち、違います! そういう主人公系じゃなくて!」


私は慌てて否定する。

なのに、心臓の鼓動は早くなる。


「その人、人助けとかもするんですけど……

 何かするとき、

 世界がその人の一言を待ってる、

 みたいな感じがするんです」


あの日の光景が、

また鮮明に蘇る。


赤信号。

雨音。

突っ込んでくる車。

そして、迷いのない手。


「……でね、こうやって立つんですよ」


私は無意識に、

カメラの前で手を伸ばしていた。


画面のルンも、

同じように手を上げる。


「そしたら車が止まって、

 子どもとお年寄りが助かったんです!

 すごくないですか!?」


— クソかっこいい

— 主人公確定

— ルン、それフラグ立ってるやつ


「ち、違いますってば!」


私は顔が熱くなって、

慌てて手をぶんぶん振る。

水色髪のルンも、

画面の中で全力で首を振っていて、可愛い。


……でも、心の奥では、

どうしても思ってしまう。


『谷風 梶くん……

 ねえ、気づいてる?

 あなたの一つ一つの行動が、

 私の心臓、めちゃくちゃにしてるってこと』

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