── 序奏 ──
バラバラと降り注ぐ幾千の拍手の雨を浴び、ステージへと歩み出る。眩しいほどのライトが自分を照らし、影が一層深くなった気がして後ろを振り返りたくなるが、ぐっと堪えて足を踏み出す。
決まった位置で立ち止まり観客の方を見て頭を下げると、一層激しく襲いかかってくる拍手の雨。顔を上げて客席を見てみるが、ライトが眩しすぎて誰一人として確認できない。それなのに自分のことを見つめる幾多の視線はしっかりと感じる。
──あぁ、孤独だ。
いつもの感覚がまた襲ってくる。後ろにオーケストラがいようがいまいが、ソリストはこの瞬間、いつも孤独だ。ステージ上でたった一人、ミスしようが、音を飛ばそうが、誰も助けちゃくれない。
楽器を構えて天井を仰ぎ見ると、途端に眩い光が視界いっぱいに広がった。まるで天からのお迎えのようだ。
──どうか、このまま俺を連れ去ってくれ。
最初の一音を鳴らす瞬間、心にはいつもそんな祈りが浮かぶ。ここではない何処かへ行けたら。過去も、現在も、未来もない、ただ心地の良い永遠へ。
だが、わかっている。そんなものはない。
割れんばかりの拍手とブラボーの声がいつも意識を現実へと引き戻す。残酷で、非情で、辛いばかりの現実へ。
その瞬間、いつも思うのだ。
音楽なんて嫌いだ、と。




