何もなかったかのように
AM01:51
ザッ、ザッ、ザッ、という足音が聞こえる。誰か戻ってきたのだろう。
「駅長、まだここに居たんですか?」
駅舎の警備に戻っていった沢田が声を掛けてきた。
「ああ、ちょっと…考え事してたんだ。」
「もしお召し列車が通過するタイミングでこれが起きてたらとか、ですか?」
「……沢田くん、そんな縁起でもないこと言わないの。」
「失礼しました…」
「ま、消防にも警察にも本部にも知られていないみたいだし、なんせ真夜中だから近所の人たちも気づかないだろうね。」
「住宅街からも少し離れてますし………ん?あれ?」
沢田はその場にしゃがみ、黒焦げた燃えカスを眺め首を傾げた。
「沢田くん、どうかしたか?」
「いや……何でもないです!すみません、持ち場に戻ります。」
「おっと、私もここでじっとしているわけにはいかないな。すまんな沢田くん、私も持ち場に戻るよ。」
ほんの少し間を置いて私と沢田はそのまま持ち場へと戻った。
AM05:21
夜が更けた。山々の間から差し込む朝日が線路と古びた駅のコンコースを照らす。さっきまで何もなかったかのように駅の灯りを点けホームに停車していた始発列車のもとへ向かった。
「梅本くん、車両に異常などはないか?」
今日の始発列車を担当するのは梅本。始発列車に運転士は前日の最終列車を運転し、駅で一泊してから始発に乗務する。この駅を発着するのは急行列車以外全てワンマン列車なので他に乗務する人は居ない。
「ええ、特に異常無しです。定刻通り出発できるかと。」
「……そうか、ならよかった。あ、それと___」
「分かってますよ、口は閉じておきますから。」
「…運転がんばってこいよ……」
「ええ、行ってきます」
(駅長なんだか最近顔色悪いな、大丈夫なのだろうか…)
梅本は乗務員室のドアを閉めた。いつもよりか申し訳なそさうにゆっくり閉めていた。
ファーン!!ガガガ……
列車は汽笛を鳴らしエンジン音を響かせながらゆっくりと駅を離れていった。




