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第三話 新しい可能性



 私とノエルは、月光亭の前でマグナスさんを見送っていた。


 マグナスさんは大きな荷物を背負い、出発の準備を整えている。


「じゃあ、行ってくる」


「はい。お気をつけて」


「しばらく忙しくなるが、同じ街だから、困ったことがあれば連絡してくれ」


 マグナスさんは、私たちに紙切れを渡した。


「商人ギルド経由で連絡が取れる。この名前を言えば、俺に伝わる」


「ありがとうございます」


「店のことは任せた。昨日倒れたんだしルミナは無理はするなよ」


 マグナスさんは、私たちの頭に大きな手を置いた。


「お前たちなら、大丈夫だ。信じてる」


「はい!」


「頑張ります!」


 マグナスさんは満足そうに頷くと、大きな背中を向けて歩き出す。


 その姿が街の向こうに消えるまで、私たちは見送り続けた。


「……行っちゃったね」


 ノエルが、少し寂しそうに呟く。


「ええ。でも、同じ街にいるんだから、大丈夫よ」


 私は、ノエルの肩に手を置いた。


「さあ、私たちも頑張りましょう。まずは、食材を買いに行かないと」


「うん!」


 朝のクレセントベイの市場は、今日も活気に満ちていた。

 漁師たちが今朝獲れた魚を並べ、農家の人たちが新鮮な野菜を売っている。


「すごい賑わいだね」


 ノエルが、目を輝かせる。


 私は、マグナスさんから前借りした運営資金の入った袋を確認した。銀貨が何枚か。決して多くはない。


(……無駄遣いはできない)


 私たちは、魚売り場に近づいた。


 様々な魚が並んでいる。


「いらっしゃい!今朝獲れたばかりだよ!」


 威勢の良い声が響く。

 私は魚を見た。


 その瞬間――


「あれ……?」


 魚から、淡い光が見えた。

 魔力が放つ淡い光だった。


 魚の一つ一つから、わずかな魔力の光が放たれているのが見える。


(食材にも……魔力が含まれているんだ……!)


 私は、驚嘆した。

 そして、よく見ると、魚によって魔力の強さが違う。

 ある魚は強く輝いている。別の魚は、光が弱い。


(これは……新鮮さの違い?それとも……)


「お嬢ちゃん、どれにする?」


 魚売りの女性が、笑顔で尋ねた。

 私は最も強く輝いている魚を指差した。


「この魚を、お願いします」


「おお、目利きがいいね!それ、今朝に獲れた奴だよ。一番新鮮だ」


(やっぱり……。魔力の強さは、新鮮さと関係してる!)


 私は、興奮を抑えながら魚を購入した。

 次は、野菜売り場。


 ここでも、同じように野菜から魔力の淡い光が見える。

 どれも微妙に魔力の強さが違う。

 私は魔力が強い野菜を選んでいく。


「お嬢ちゃん、本当に目利きがいいね。良いのを選んでる」


 野菜売りのおばさんが、感心したように言った。


「ありがとうございます」


 私は、微笑んでお礼を言う。


(この能力……。本当に便利だわ)


「ルミナ、すごいね!」


 ノエルが、私の横で目を輝かせている。


「どうやって分かるの?」


「……なんとなく、よ」


【魔力知覚】のことは言わなかった。昨夜マグナスさんに相談した時に他人には言うな」と言われたから。

 でも、ノエルにはいつか伝えようと思う。


 私たちは、最高の食材を、適正な価格で購入することができた。


「よし、帰りましょう。仕込みを始めないと」


「うん!」


 二人で買い物袋を持って月光亭へと向かった。


 月光亭の厨房。


 私は、買ってきた食材を調理台に並べた。

 新鮮な魚。瑞々しい野菜。どれも魔力が強く質が良い。


(さあ、始めましょう)


 私は、エプロンを着け、髪をまとめる。


「ノエル、あなたは接客の準備をしていて」


「え、手伝わなくていいの?」


「大丈夫よ。料理は私に任せて」


 実は、ノエルに料理を手伝わせるのは少し不安だった。彼女、魔力制御が全くできないから、何か暴走させそうで……。

 私は丸一日寝込む程度だったがもしノエルの膨大な魔力が逆流したら……。


「分かった!じゃあ、ホールの掃除してくる!」


 ノエルは、元気よく厨房を出て行った。

 私は、一人になった厨房で、深呼吸をした。


(前世の記憶……思い出して)


 日本のスーパーの惣菜コーナー。

 毎日作っていた料理。

 唐揚げ、コロッケ、ポテトサラダ、煮物。


 レシピ。調理法。火加減。味付け。

 全てが、記憶の中に蘇ってくる。


(よし……できる)


 私は、魚を手に取る。

 まずは、下処理。鱗を取り、内臓を取り出す。丁寧に、慎重に。

 次に野菜。皮を剥き適切な大きさに切る。


 前世の記憶が、手を導いてくれる。

 魔導コンロに手をかざす。


(今度は、慎重に……)


 少しだけ魔力を注ぐ。コンロが柔らかく光り、熱が発生する。


(よし、成功)


 フライパンに油を引く。魚を置く。

 ジュウ、という音。

 良い香りが立ち上る。


 私は料理に集中した。

 火加減。焼き色。香り。

 全てに気を配りながら、丁寧に調理していく。


 魚のソテーが完成する。

 次は、野菜のスープ。

 丁寧に野菜を煮込む。塩で味を調える。


 パンはマグナスが用意してくれていたものを温める。


 そして――


「できた……」


 私は完成した料理を見た。

 魚のソテーは、美しい焼き色がついている。

 野菜のスープは、湯気を立てて良い香りを放っている。

 パンは、温かく、ふんわりとしている。


(美味しくできてるかな……)


 不安と期待が入り混じる。


「ノエル、できたわよ!」


 私は、ホールにいるノエルを呼んだ。

 私たちは、カウンター席に座った。

 目の前には、私が作った料理が並んでいる。


「わあ、美味しそう!」


 ノエルが、目を輝かせる。


「さあ、食べましょう」


「いただきます!」


 ノエルが、魚のソテーを一口。

 その瞬間、ノエルの表情が変わった。


「美味しい……!」


 感動の表情。


「すごく美味しいよ、ルミナ!」


「本当?」


 私も、自分の分を食べてみる。

 確かに、美味しい。

 前世の記憶と、この世界の新鮮な食材が組み合わさって、良い味になっている。


(よかった……)


 私は安堵した。


「それに……」


 ノエルが、不思議そうに呟く。


「なんだか、体がポカポカするかも」


「え?」


 私は、顔を上げた。


「体がポカポカ?」


「うん。なんか、温かくなってくる感じ」


 私も自分の体に意識を向ける。


 確かに体が温かい。


 それだけじゃないかも……?


 何か、体の中で変化が起きている気がする。


(まさか……)


 私は、【魔力知覚】を使って、ノエルを見た。


 ノエルの体の中を流れる魔力が、わずかに増えている気がした。

 ほんのわずかだが、確かに増加している。……かも?


(え……?)


 私は、自分の手を見た。

 自分の魔力経路も、少しだけ明るくなっている。

 魔力が、増えている。


(どういうこと……?)


 そして、気づいた。

 料理だ。

 この料理に、何か秘密がある。


 私は、残った魚のソテーを凝視する。

 すると――

 魚から、通常よりも強い魔力の光が放たれているのが見えた。


 市場で買った時よりも、明らかに魔力が増幅されている。


(これは……)


 理解が、頭の中で繋がっていく。

 料理に集中していた時。

 無意識に、私の魔力が流れ出ていた。

 その魔力が、食材に染み込んだ。


 結果、食材の魔力が増幅された。

 そして、その料理を食べると魔力が、少しだけ増える。


「もしかして……」


 私は、震える声で呟いた。


「ノエル、あなたの魔力、少し増えてる」


「え、本当?」


 ノエルが、目を丸くする。


「ええ。この料理……魔力を上げる効果がある」


「えええっ!?」


 ノエルが、驚きの声を上げた。


「どういうこと?」


「私……料理に集中していたから、気づかなかったんだけど……」


 私は、自分の手を見た。


「無意識に、魔力を料理に込めていたみたい」


「魔力を……込めた?」


「ええ。そして、その魔力が食材に染み込んで、増幅された。だから、この料理を食べると、魔力が少し増えるの」


 ノエルは、しばらく呆然としていた。


 そして、ゆっくりと笑顔になった。


「それって……すごくない?」


「ええ……すごいわ」


 私も興奮を抑えきれなかった。


「魔力を上げる料理……そんなものがあったら……」


「みんな欲しがるよね!」


 ノエルが、目を輝かせる。


「魔法使いなら、誰だって魔力を上げたいもん!」


 私は、頷いた。


(そうだ……これなら……)


 希望の光が、胸の中に灯る。


「ノエル」


 私は、ノエルの目を見た。


「無意識に魔力を込めていたということは……」


「意識的に込めたら……」


「もっと効果が上がるかも!」


 二人は、同時に言った。

 そして、互いに笑い合う。


「店を開けましょう」


 私は決意を込めて言った。


「この魔力料理で、お客さんを集める。評判が広がれば……」


「半年後、一年後の目標が現実になる!」


 ノエルが、私の手を握った。


「私、接客頑張る!ルミナの料理を、たくさんの人に食べてもらう!」


「ええ。一緒に、頑張りましょう」


 にっこりと微笑み合った。


(前世の知識と、この能力があれば……)


 窓の外に目をやる。

 活気がある街並み。

 この街で私たちはやり直せるっ!

 

(私たち、きっとできる)


 セラフィナ先生の言葉を思い出す。


『あなたには才能がある』


 そして、イザベラの言葉も。


『その程度の魔力量で』


(見てなさい、イザベラ)


 心の中で誓う。


(一年後、笑うのは私たちの方よ)


「さあ、新しい人生が始まるわ」

 

 私はノエルと共に立ち上がった。


「準備、しましょう」


「うん!」


 落第少女二人の新しい物語が月光亭で始まろうとしている。

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