第12話 呪いのエルフ、初配信を無事終える
《戻って来た?》
《知らない天井だ……》
《急に何があったんだ?》
《ギルハ大丈夫そう?》
呆然とする私の視界の端にまだコメントたちがいてくれている。でも内容は困惑のそれで、それは私もそう。さっきまであった景色はすっかり変わっていて、とりあえず見覚えのある室内に視線を巡らせる。
「あ――」
そして、部屋の端の方にいるニドゥカの姿を見つけた。どういうことか説明して貰わないと。そう思って声を発しようとしたけど、その前に頭の中に彼女の声が響いた。
『おかえり。何があったかは後で聞くし、話せることは話す。だがまずは配信を終わらせろ』
『む……。わかったよ。ぜっっっったい話してよ?』
『わかってるわかってる』
私の言葉が適当にあしらわれた気がするけど、今は気にしない。ニドゥカは嘘は言わない。長年の付き合いだからわかる。
ともかく、まずは言われた通り配信を終わらせないと。
……どうやって?
「――ピピ、バッテリー残量低下。一分以内に配信システムを終了します」
「早い早い! 何の準備もできてないから!?」
でもこれで勝手に終わってくれるかも。そう期待して、コメントたちにも説明を始める。
《配信システム終了って言わんかった?》
《もうそんな時間か》
《今日はもう終わり?》
「うん! 皆、ごめんね! ちょっとバタバタしちゃった」
《大丈夫よ》
《ギルハちゃんのペースでやってくれればいいから》
《おもろかった。なんてゲームなん?》
《続き待ってます!》
「ええっと、時間もないので詳しい話はまた今度ね!」
そろそろ時間だろうか。いやまだ一分経っていないかも。せっかくだしもっとコメントたちと会話しようかな。
そう思っていると再びニドゥカの声が鳴った。
『配信を終わる時に言ってほしいことがある』
『言ってほしいこと?』
『ああ。この配信を少しでも気に入ってくれたら、チャンネル登録、高評価、コメントも全部待ってます! って言え』
『どうしてそんな――』
『言え』
『はい……』
こうなったら彼女は聞かないから、私が大人になってあげよう。まったく、仕方ないんだから。
「え、と? もしこの配信が気に入ってくれたなら、チャンネル登録と高評価、コメントも全部待ってます?」
《なんで疑問形なん?》
《もうしたよ~》
《二回押しといた》
《10000000000回ぽちった》
「そんなにたくさん!? ありがとう!」
《押せるわけなくて草》
《騙されないでギルハちゃん》
「え!? 嘘なの!?」
どういう仕組みなのかあんまり知らないけど、でもコメントたちが何かをしてくれたようで、私は嬉しくなってしまう。
こんなに不特定多数の人たちと話すのは、今までになかった。
だから、楽しいんだろう。
「皆、観てくれて……、コメントしてくれてありがとうね!」
《もち》
《次も観るよ~》
《配信感謝代=1000円》
《良かったぞ。続きも頼む=10000円》
「あ、ありがとう! それじゃまた――」
言いたいことはたくさんあったけど、それを全部言うことなんてできるはずもなくて。
アトラの機能は停止、私の視界に映っていた配信画面も消えてしまった。
「……」
これで私の初配信は終わった。さっきまで賑わっていたのに、まるでそこにいた全員が離れ離れになったみたいな、そんな虚しさが去来する。
「とりあえず、お疲れさん。初回にしては良かったんじゃねえか?」
「ニドゥカ」
それまで息を潜めていた彼女が、堂々と私の前に姿を現す。それを見て安心したのか、なんだかどっと全身に疲労感が押し寄せてきた。
「ほら、水だ。配信者は喉が命だって言うらしいからな。喉乾いてなくても飲んどけ」
「ありがとう」
渡されたグラスに入った水を一気に飲み干すと、先ほどまで体を纏っていた疲れが少しだけ和らいだ気がした。
ほっと、一息吐くとニドゥカは手近な椅子を持ってきてそこに座る。私もそれに倣って、近くにあった椅子に座った。
「配信はどうだった? オマエに合ってただろ?」
「……そうだね。ニドゥカの言う通り、私にぴったりかもって思ったかな」
初めはコミュニケーションなんて取れるのか不安だったけど、配信を観てくれている人たちは皆優しくて寛容だった。まともに人と会話もできない私とも相性がいいし、何より近くに人がいなくても話せるのがいい。
そこは問題ないんだけど。
「そもそもこの配信ってなに? どうしてニドゥカはこれをしようと思ったの?」
彼女には説明の義務がある。色々詳しそうだし、話してもらわないと。
私の質問に、ニドゥカは難しそうな顔を示しながら、ブツブツと声を吐き出す。
「いや、オレも実は詳しくは知らねえっていうか。言われてやってるだけなんだよな」
「ニドゥカ?」
「……よし――」
それから、何か閃いたかのように、あるいは決断を下したかのように澄んだ瞳を湛える彼女は立ち上がる。
「行くぞ、ギルハ」
「え? 行くって、どこに?」
ニドゥカを見上げてそう問いかける。テキパキと出掛ける準備を始める彼女を不安げに見ていると、やがて振り返ってニヤリと笑った。
「この国の王がいる場所だ。今から行けば、陽が暮れるまでには間に合うだろ。そいつに全部説明させる」
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