切ない思い出
テレーザの過去の思い出。
倭の国、「ビューティーコンテスト」マダム部門。
その一次審査、写真選考の結果、瑛子は晴れて二次選考へと進むことになった。
この結果を聞いたテレーザはもう大喜びで歓声をあげた。
あまり感情を表さないテレーザが、ほほを紅潮させ目を潤ませ身体全体で喜んだ。
そんなテレーザに、
「どうした?」
「すごいテンション」
「そこまで嬉しい?」
と、既に冷製になった周囲が言う。
「だって、成果が出たんですもの」
とテレーザ。
「私って、がんばったりして、なんていうの?報われた?そんなことがないのよね。だからすっごくうれしいのっ!」
と未だ興奮冷めやらぬ様子で言う。
「あのさ、今さ、サラっとすごく、切ない事言ったよね」
と葵。
「努力が報われない、って」
と尊も言う。
「そうよ、私だってさ、お姉さまたちみたいになりたいって気持ちはあったのよね、小さい頃は。
だから侍女に頼んで、お姉さまたちと同じようなドレス着たりしたんだけどね。お父様たちとのご挨拶で、みんな並ぶじゃない。するとお父様とお母様はお姉さまたちには声をかけて、私を飛ばして弟に話しかけてたわ」
国王夫妻との挨拶の儀。
王の間で、一列に並んだ王女と王子に、父母である国王と王妃が話しかける。
「フィオナ・クリスティーネ、背が伸びて増々大人びてきましたね」
「カタリナ・オルセウス、先日の慰問先から感謝の書状が届いていますよ」
「ユリアナ・マーガレット、来週は初めての舞踏会ね、心の準備はいいかしら」
「テレーザ」
そこで言葉が止まる。
すると隣のジャン・ルドルフ王子が、「僕の番はまだ?」とばかりに笑顔を見せる。
「まあルドルフちゃん。お馬に乗るお稽古をしたいだなんて、勇ましいわ」
テレーザを抜かして、ジャン・ルドルフ王子に話しかける王夫妻。
姉たちに少しでも近付きたい、そう思って真似して着たドレス。
誰にも気付かれなかった。
それがいつもの事だった。
人前で、ハキハキと話す事は苦手だったが、おしゃべりが達者でいつも笑顔の弟を見習い
無理をしてほほ笑みながら、
「お父様、家庭教師の出した課題、満点だったのよ」
と話してみた。
父、国王は一瞬、テレーザを見たものの、すぐに視線をそらした。
「テレーザよ、その作り笑い、どうにかならんのか」
とそう言う国王。
美の国の王女でありながら、「容姿」に恵まれなかったテレーザ。
それだけで、父に愛される資格はないのだ。
父だけでなく、母にも姉たちにも、そして美の国の国民にもだ。
「ついでの王女、私にぴったりだ」
いつしかテレーザはそう思うようになった。
「だからね、なんか、何かのために頑張るとか、しなくなってて。
だってさ、無駄じゃない」
テレーザは特に感情もなく語る。
先ほどまで、歓喜に沸いていた食卓が静まり返っていた。
みな、なんといってよいのか、わからずにいた。
しかし、その時。
「だめよ、そんなの。許さないから」
と大きない声で言う瑛子。
「いい、テレーザ、あなたはついでの子なんかじゃないわ。
あなたのお陰で、1次選考通過よ、この私が。
あなたが毎朝、私の心を磨いてくれたからよ」
と瑛子が続けた。
「おめーのいない生活、なんか考えられない。クラスの奴らもみんなお前が好きだって。
一回しか学校行ってないのにな」
と駆。
「ほんと、テレーザが来る前の生活には戻れないわ」
葵も言う。
「そんだよ、俺なんか引きこもりだったし」
と尊。
「あ、今もでしょ」
と葵に言われて、思わず皆が笑う、テレーザもだ。
「きみのご両親はほら、世間一般で言う普通の親御さんではないだろう。
だから、決して君を愛していないってことはないと思う。立場がそうさせていたんだよ、きっと」
と孝太郎がテレーザに言った。
「あらら、パパがこんなにやさしく諭すようにいうなんて、珍しいねえ」
と葵。
その言葉に、頷くテレーザ。
いつしか、皆がテレーザを取り囲んでいた。
美の国の王宮ではありえなかった、輪の中心にいるテレーザの姿。
「そんな、切ない思い出、もう忘れちゃいなよ」
葵が言う。
そして、
「だからね、これからは、努力をすることを忘れちゃだめよ。
もちろん、その努力が叶わない事だってあるわ。でもあなたにとってとても大切な経験になるはず」
と瑛子が言った。
「あーあ、ママ、私に勉強しろって言う時、そんな風に言ってくれたらやる気出たのになあ」
と葵が言った。
またしても、笑い声に包まれる。
その真ん中でテレーザも笑顔を見せていた。
「まずは、母さんの二次審査対策だな」
と駆。
「まだ続けるんだろ、修行は」
と尊も言った。
「そうね、今度の審査は、なに?パフォーマンス審査?
瑛子さんの全身から、輝きがあふれ出すように私も頑張るわ!」
とテレーザ。
その翌日、テレーザは再びオルト爺と婆を訪ねることにした。
自分の力の更なるパワーアップに助言をもらおうと考えたのだ。
その頃、壮大な邸宅の書斎にいたカミヤマジュン。
同じく、「ビューティーコンテスト」マダム部門の一次選考を通過した妻のショウコの次の対策を練っていた。
「最終審査までは余裕だとは思うが、念には念を入れて。
ここは魔法の力を借りたいものだ。裏町のはずれに老魔法使い住んでいると聞いた。
ぜひとも、協力を願おう」
あれこれと情報を調べたカミヤマ。
裏町のはずれの老魔法使い、オルト爺と婆の事を探り当てたようだ。
「なんだ、メールも通じないのか。では直接出向くしかないか」
とう言うと、カミヤマは伝説の魔法使いという噂の、老魔法使いの元へ出向くため家を出た。
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