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これが私の生きる道~国を追われた美の国第4王女~「私が貴女をマダムに変える、美の国王女の名に懸けて」  作者: 明けの明星


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ニアミス

いよいよ都留田家にホイ王子がやってきました。

都留田の家の門の前に、止まった一台の高級車。

そこから降りて来たのは、

孝太郎、カミヤマ、そして。


フィル・グレン侯爵だ。


慌てて出迎える瑛子と尊。

都留田の家は、古くからの道場が敷地内にあり、このあたりでは敷地が広く、家屋も大きい。


それでも、門の前の乗りつけられた高級車がとてつもなく場違いに感じられる。

ただの庶民の住む民家だ。

家の前の路地を通る人が、目を見張りその車と出てくる人々を見ていた。


フィル・グレン侯爵を素早く敷地内に招き入れようとしたが、

フィルは立ち止まって周囲を見回していた。


「このあたりはなんだか、雰囲気が違うんですね」

そう言いながら。


カミヤマの邸宅があるのは、倭の国でもトップクラスの高級住宅地だ。

区画整理された美しい街並み、そこにあるのは、どれも豪邸ばかり。


そんなところに比べると、ここはまるで。


「なんだか、ここは、人の息吹が聞こえます」

とフィルが言う。


そう、ここは倭の国、息吹の街の一角だ。

都留田の家のような、比較的大きな家もあれば、

小さな戸建てもある。

そして、古くボロい、アパートと呼ばれる集合住宅も。

そんな街並みがフィルには珍しいのだ。


「だよな、王子様だ、こんな庶民の街、しらないんだろう」

と孝太郎。


「ようこそ、我が家へ、まずはおあがりください。

それから道場にもご案内しますね」

と瑛子が優しくフィルを出迎えた。


瑛子と共に、家の中へ消えるフィル。

何気なく、フィルの右側に立った。


右側の路地の先、そこには二人の人影があった。

テレーザと駆の後姿だ。


駆に連絡を取り、テレーザを家から連れ出してもらった。

最初は急な外出をいぶかしがっていたテレーザだったが、駆がうまく口実を作った。

「駆の同級生、たまきの家に行こう」

と。


そして二人で家を出てすぐ、と言う時、

あの高級車が止まったのだ。


瑛子に伴われたフィルは、ほんの一瞬だったが、テレーザと駆の後姿を見た。

その時、フィルの鼓動が急に早くなっているのを瑛子は感じていた。


「この子はテレーザを知っている」

そう確信する瑛子。


しかし、フィルは何もなかったかのように、すぐに平静に戻った。

そして、瑛子とともに家の中へと向かった。


その後姿をみながら、カミヤマが、


「お前の奥さん、なんだか」

と孝太郎に言う。


「ん?妻が?」

と聞き返す孝太郎。


「いや」

と首を振り、


「それでは、9時には迎えにくる。それまで殿下をよろしく頼む」

とカミヤマが言う。


「お前は一緒にいないのか?」

と孝太郎。


「いや、殿下がご自身だけでと仰せでな」

カミヤマが言う。


万一のために、極秘でフィル・グレン侯爵の側近、いやホイ王子の侍従が周囲に配備されているが、

名目上はフィル一人だけでの道場見学だ。


「じゃあ、当、都留田家でも、フィル・グレン侯爵を精一杯おもてなしいたしましょう」

と孝太郎が大げさにカミヤマに言って、そのまま家の中へと入って行った。


皆が家に入るのを見届けたカミヤマが車に戻る。

その時、孝太郎の妻、瑛子の姿が脳裏に浮かんだ。


「あの奥さん、あんなに綺麗だったっけ」

そう思うカミヤマ。


カミヤマは大学を卒業して、数年たったころ妻を娶った。

盛大な結婚披露パーティーを催し、孝太郎も友人として参加した。


その後、ほどなくして孝太郎も瑛子と結婚をした。

しかし、結婚式も披露パーティーもなし。

写真入りのはがきだけが友人たちの元に届いたのだ。


その写真に写っていた、新婦瑛子。

素朴で人柄はよさそうだが、どこか垢ぬけない、華やかさにはまるで縁のなさそうな女性だった。


その後、年賀状の家族写真で見た瑛子も、

いつも生活感を漂わせ、パッとしない風貌だった。


それが、今見た瑛子はなんとも、

「輝いて」いる。


あの孝太郎の奥さんが。

と思わずにはいられないカミヤマ。


家の中で、食卓に座るフィル。

その前には、緑茶と胡麻せんべいが並んでいた。


「これは、こんないい香りのお茶は初めてだ」

そう言いながら緑茶をすするフィル。


「これは、なんでしょうか、くろいつぶつぶは胡麻の様だけれど」

とせんべいをまじまじ見ながら言うフィル。


「そうよ、これはね胡麻せんべい。この胡麻は彩の国で摂れたものよ」

と葵が説明をした。


ここ、倭の国、遥か彼方の彩の国の食物を多く輸入している。

胡麻もその一つだ。


「そうなんですね、この胡麻。なんだか懐かしい味がします」

そう言いながらせんべいをかじるフィル。


彩の国を出てまだ数日。

懐かしいと感じるほどの時間は経っていないはずなのだが。


「もうすぐ、道場での倭剣術の稽古が始まります。

そろそろ道場へまいりましょう」

と瑛子。


先程、元門下生のオオヤマたちがやって来たのをみていたのだ。

オオヤマと今日稽古に来る元門下生には、ざっとこのいきさつを知らせてある。


「ありがとうございます。楽しみだなあ」

とフィル。

その笑顔に嘘はないだろう。


と孝太郎がフィルの顔を見て思った。

我が家にテレーザの気配を感じて、偵察でもしに来たのか、

内心そんなことまで勘ぐっていた。


テレーザの結婚相手、それがホイ王子だという確信を持っていた訳でもないのに。

孝太郎はこの二人に何か因縁があると察していた。


「あの、手を洗った方がいいかも」

と葵がフィルに言った。

せんべいのせいで、指先に醤油がたくさんついていた。


洗面台に連れて行き、手洗いを促す葵。

フィルはただ黙って両手を差し出したままだ。


その姿は。


「この家に来たばかりの頃のテレーザとそっくり」

だった。


5大王国ともなれば、貴族たちも相当に高貴な身分だ。

王族並みの扱いなのかもしれない。

この侯爵の坊ちゃんも、自分の事などすべて使用人任せなのだろう。

と葵は思った。


手を洗い、タオルで水滴をぬぐおうとしたその時、

フィルがそれを制止した。


「あの、ぼく肌が弱くてね」

とそう言いながらポケットから小さなハンカチを取り出した。


「この素材じゃないと、肌荒れしちゃうんだ」

そう言いながらそのハンカチで手をふくフィル。


その時、葵はハンカチの隅に刺繍してある紋章に目が留まった。

その紋章は、テレーザの持ち物に刻印されているものとよく似ている。


「これはね、王位継承権を持つ王族の印なのよ。国によって少しずつ違うけど、だいたいこんなのよ」

テレーザはそう言っていたっけ。


「この子も、王位継承権を持つの?じゃあ、侯爵なんかじゃない、王族じゃない」

と葵は思った。


「どうしよう、パパとママ、知ってるのかしら」

と葵。


「どうしたの?」

そこに瑛子がやってきた。

中々戻ってこないので様子を見に来たのだ。


瑛子もフィルが手に持つハンカチに目をやった。

そして刻印を確認する。


瑛子と葵、二人で顔を見合わせた。

「これはどういうことなの?」

と心で叫びながら。

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