↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
これが私の生きる道~国を追われた美の国第4王女~「私が貴女をマダムに変える、美の国王女の名に懸けて」  作者: 明けの明星


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
76/323

母の日、そして思い出

瑛子がショートヘアにしてきたのを見て、自分も髪型を変えてみたい、

ここに来て以来、自分の見た目に少しは興味を持つようになった。

今までは、すべてが言われるがまま、だった。


しかし、それよりも、今は母の日の夕食だ。


こちらが最優先、自分の事はあとで考えよう、

そう思って、一旦道場の自分の部屋に戻った。

ここには、自分の姿を映せる大きな鏡と、手で持てるサイズの小さな鏡があった。


「女子の必需品」

と葵が配慮してくれたのだ。


全身を鏡に写してみた。

倭の国で買った、パンツとシャツを着ている自分。


鏡を見るのは嫌いだった。

自分が「美しくない」ことを知っていたから。

美の国の姫なのに、美しくない自分。

そんな姿は見たくはなかった、そして何も感じないようにしていた。


それでも、自分が着ていたのは最高級品のドレス。

しかも自分のためにあつらえられた。


今着ている、このパンツもシャツ、衣料品店には同じものがたくさん並んでいた。

サイズ違いや色違いもあった。

いったい何人の人たちが、同じ服を着ているんだろう。


美の国ではパンツなんか履いたことがなかった。

いつもドレスだった。

テレーザのために特注されたドレス。


納品した王室御用達のデザイナーが自ら持参したドレスを着るテレーザ。

そのデザイナーの顔が一瞬曇る、それがいつものことだった。


そんな王女として暮らした美の国での生活、随分と昔の事の様だ。

そして、本当に自分は美の国の王女だったのだろうか、夢で見たたことを信じ込んでいるだけではないのか、いつしかそんなことまで考えるようになっていた。



「さ、準備、準備」

頭を切り替えるかのように、そう言うときれいなカードを取り出し献立表を書くテレーザ。

この前、葵に見せたカードに手を加え、清書したのだ。


「瑛子ママのための夕餐」


【前 菜】フルーツトマトのヴィネグレット、エモーシュオイルを添えて

【スープ】ゴールデンコーンの冷たいポタージュ ア―モンドの香り

【魚料理】深海フカヒレの アジュール風ブイヤベース仕立て

【肉料理】アントルコートのロティ ほろほろの実とレフォールの効いたジュ

【デザート】メビアピーチとアールグレイのムースとリコッタのアイスクリーム


これが母の日の夕食メニューだ。

どれも美の国の王宮で、家族の夕食に出されたメニューだ。

作り方もわかっている。


食材は、スーパーマーケットロイヤルですべて調達済みだ。

どれも選りすぐりの逸品ばかり。


調理手順はタブレットで下調べもしたが、美の国の王宮の調理室で何度も見たことがある。

調理室をこっそりと覗くテレーザを王専属料理人のイーグルが見て見ぬふりをしてくれる。

それどころか、テレーザが見やすいように体の向きを変えてくれたりもした。


時にはイーグルが直々に包丁の使い方を教えてくれたこともある。

「王女であろうと、料理は出来たほうがいい、その方が楽しいから」

そう言いながら。


始めは自分の嫌いな食材を少なく盛ってほしい、そう談判するために調理室に来ていたのだが、

それはすぐに別の目的に変わっていた。


「食材はこうやって調理され、私たちの皿にならぶんだ」

テレーザは調理室で見る光景が、まるで魔法ように見えていた。


「いつか自分もこんな風に、お料理を作ってみたい」


そんな希望が心に沸いていたが、

その料理を振る舞う人々、そこには王や王妃、姉たちの姿を思い浮かべることはできなかった。


でも、今は。

食卓に並ぶテレーザの手料理、そしてそのテーブルを囲むのは、

津留田家の人々だ。



「さ、残る難関は」

とテレーザ。

意を決したように部屋を出て、母屋に向かい台所にいた瑛子の前に立った。


「ねえ、テレーザ、これは何?冷蔵庫の中がすごいことになってるんだけど」

テレーザより先に瑛子が言った。


冷蔵庫は、テレーザがスーパーマーケットロイヤルで買い込んだ食材で満杯だ。

それに気付いた瑛子が驚き、孝太郎や葵に聞くが「知らない」と即答されてしまった。


そういうことは、テレーザだ。

尊と駆が食材の買い物などするわけがない方。


「あ、気が付いちゃったんですね。あの食材に」

とテレーザ。


「いや、冷蔵庫、もう何も入らないほどいっぱいだし、気付くでしょ、そりゃあ」

と瑛子が少しあきれたように言った。


「それに、あれって」

と瑛子。


「私が準備した食材です。スーパーマーケットロイヤルでそろえたの」

と得意げなテレーザ。


そこあたりで、ピンときた瑛子。

そういえば、明日は「母の日だ」


それでもテレーザはとぼけたように言う、

「あの明日にはあの食材はなくなりますから、それまでは入れさせてくださいな。

そして、瑛子さんは素敵な食器をお持ちだとか。

よろしければ、それを貸していただけないでしょうか」

と。


バレてしまえば、仕方ない、とも言っていたのに、

「母の日」の夕食を作るため、とはいわないテレーザ。

なんだか気恥ずかしいのだ。


「いいわよ」

瑛子は何も詮索することなく承諾した。


「テーブルに出しておくわ」

と。



いよいよ母の日の日曜日。

テレーザは昼食の後、夕食の準備にとりかかることにした。

助手として名乗りを上げた葵と共に。


「おい、たまには出かけないか」

その日の午後、孝太郎が瑛子を誘った。


これもテレーザに頼まれて、の事だったが、

瑛子と二人で出かけるなんて、久しぶりだ。


内心、そう思いながらも、しぶしぶテレーザの頼みを聞いた。

いや、きいたふりをした。


尊と駆は、注文してあった花を取りに出かけて行った。

台所には、テレーザと葵。


「さあ、始めるわよ」

そう言うと、テレーザは腕まくりをして、並べた食材を満足げに眺めていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。