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農場で

不愛想?テレーザ。

馬車に乗り込んだエマ、テレーザ王女のご指名により、その隣に座る。

今、エマのすぐ隣にいるのは、王女テレーザだ。

狭い馬車だから、隣同士に座ると、身体の一部が密着してしまう。


王女の身体のぬくもりがエマに伝わってくる、温かい。

ほんわりと漂う香水、上品ないい香りだ。


そして、

馬車は動き始め、王宮を出る。

王都、クラウディアータのメインストリートを進むテレーザ王女の一行。

この道は、常日頃から王族の馬車がよく通る。


クラウディアータの市民たちは王族の移動には慣れている。

美の国王家の紋章が入った馬車が通るが、周囲の人々は騒ぐことはせず、

黙って、静かに一礼をする。


馬車の窓から、外の様子が見えていた。

人々が、通り過ぎる馬車に向かい、帽子を取り頭を下げる。

女性ならスカートをつまんで一礼だ。

手を振る小さな子供もいる。


窓から顔を見せながら、テレーザ王女は手を振るわけでも、笑顔を向ける訳でもない。

ただ黙って外を眺めているだけだ。


そんな王女の様子は、正面にすわっているエレインからはよく見えていた。

王女を見つめるエレイン、その視線に気付いたのか、


「なに?」

とテレーザ王女が一言。


被りを振ってうつむくエレイン。

そこで、エマが、


「手をお振りにはならないんですか?」

と聞いた。


しばらく考えた後、


「そうね、今度はそうするわ」

とテレーザ王女。


エマの言葉にエレインの表情に緊張が走った。

この時も、すこしの妬みがエマには感じ取られた。


馬車はクラウディアータの街を抜けて、周囲には田園風景が広がっていた。

訪問する農場まであと少しだ。


目的の農園が見えてきた。

広大な敷地、その入り口には木製の素朴な門。

その門は花とリボンで飾られて、

「ようこそおいでくださいました」

とかかれたプラカードが掲げられている。


馬車が停まり、まずは先頭の馬車に乗っていた、第一侍女、レイアが降りる。

そして、テレーザ王女を乗せた馬車のドアが開けられる。

ドアを開けたのは、御者のカイだ。


馬車から、降りるテレーザ王女。

周囲を取り囲んでいた民衆から歓声が上がる。


歓喜の声と当時に、

「なんだ、いらしたのはテレーザ王女か、姉姫たちならよかったのに」

そんな声も聞こえていた。


農場主に出迎えられ、手を取られながらテレーザ王女は農場の館の、一番豪華な応接室に通された。

その後に続く、エレインとエマ。

農場の来客用応接室へと二人も続く。


その道すがら、


「ねえ、王女に話しかけるなんて、あなた怖いもの知らずなの?もし業務以外の発言って受けとられたらどうするのつもり?」

とエレインが不満げに言う。


エレインの話では、公務の事を伝える以外では王族に侍女である自分たちから話しかけることは許されていない。

王族から話しかけられて、初めて言葉を発することができるのだ。


「でもさっきは王女から先に」

とエマ。


「でも何?って一言でしょ。それじゃあなたから話しかけたと受け取られて兼ねないわよ。

業務の話かどうかも微妙だし」

エレインは言う。


「もし、話しかけちゃったらどうなるの?」

とエマが聞くと、


「それは、最悪は退去よ、まあ軽くて謹慎ね、あ、退去っていうのはクビってことよ」

とエレインが言った。


「話しかけただけで、クビなんだ」

とエマが小さく言う。


「そりゃそうよ、国王ご一家ですもの,五大王国の」

とエレイン。


応接室では、農場主とその家族、そして何人もの農場関係者がテレーザ王女を待ち構えていた。

一段高い、壇上にテレーザが立つと、一斉にその前で膝ざまずいた。


歓迎の言葉、感謝の言葉、そして農場の作られている特産品の事、などが王女に語られる。

王女は背筋を伸ばし、所々で頷きながら話を聞いていた。


「何にも聞いてない」

王女の後ろに控えていたエマはそう感じていた。

馬車の中よりも、愛想は良いが、それでも上っ面だけの笑顔だ。


一通りの挨拶が終わると、農場の子供達による歌とダンスが披露された。

美の国王家を称える歌を唄い踊る、小さな子供たち。

とても愛らしく、けなげな姿に心が打たれる。


歌が終わると、テレーザ王女が立ち上がり子供たちの元へ歩み寄った。

子供たちはみな、ほほを紅潮させながら王女を取り囲む。


「ねえ、ねえ、おうじょさま、私たちが育てている作物もみてくだしゃい」

小さな子供が突如テレーザも話しかけた。


先ほど、

「先に話しかけてはいけない」

と聞いていたので、おどろくエマ。


しかし、テレーザは


「わあ、楽しみ、連れて行ってもらえるかしら」

と笑顔で答えた。


テレーザの手を引っ張りながら、応接室を出る子供たち。

慌てて、農場主や第一侍女、レイアが後を追うが、子供たちもテレーザも駆け足だ。


「あなたたちはここで控えていなさい」

とレイアがすれ違いざまにエレインとエマに言った。


大慌てで応接室を出て行く、農場関係者たち。

エレインとエマの2人だ取り残されてしまった。


「しばらく、待っているしかないわね」

とエレイン。


応接室の大きな窓から外を見ると、

そこには、農園で美子供の背丈ほどもある作物の中に子供たちとテレーザがいた。


子供の一人がテレーザに出来たばかりの野菜を手渡す。

その取れたての野菜をそのままかじるテレーザ。

そして子供たちも。


テレーザは笑顔だった。

エマが初めて見る、心からの笑顔。

その輝く笑顔は容姿端麗な姉たちに比べても引けを足らない、いや心の中にある真の美しさ漂う笑顔だった。

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