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エマの初出勤

新人侍女たちの勤務が始まります

美の国、王都、クラウディアータ。

ディアロポス宮殿を頂点に繁栄を続ける優美極める、美の国最大の都市だ。


そんな王都の一日は、朝、6時に王宮の塔の鐘が鳴ることから始まる。

その鐘の音はクラウディア-タの街中にも響き渡り、

一日の始まりを告げるのだ。


商店は店を開ける準備を始め、朝食を提供する定食屋が開店する。

そして、街に住む多くの市民もこの時間になるとそれぞれの朝の支度を始める、にわかに街が活気づいていく。


ディアロポス宮殿に出勤する人々の姿も少しずつ増え始め、

王宮につながる道は、徐々に渋滞が始まる。


王宮でも同じだ。

王宮内で暮らしている者たちも、鐘の音と共に朝の支度を開始するのだ。


王宮の宿舎で初めての朝を迎えたエマも、

鳴り響く大きな鐘の音で目を覚ました。


昨夜はあれこれ考え事をしてしまったおかげで、寝付くのが遅くなったが

やはりエマもかなり疲労していたと見えて、その後はぐっすりと熟睡した。

起きた瞬間、自分がどこにいるのかわからなかったほどだ。


ベッドから起きだして、洗面所に向かう。

既に同室の皆も起きていた。


「おはよう、よく眠れた?」

と声をかけてくれる先輩のルイス。


「さ、これを着て」

と衣類ダンスから、侍女の制服を出してくれた。


「ここではこれを着るのよ」

とエレナ。


長いスカートのシンプルなワンピース、華美ではないが質のいい上等な生地だ。

エマ、アレクサンドラ、ルナ・ルイーズ、新入りの3人が制服を着て、髪をまとめた。

長い髪は一つにまとめる、これも侍女としての決まりなのだそうだ。


「じゃ、行きましょう」

そう言うルイスたちと向かったのは食堂だ。


広い食堂、ここで住み込みの使用人たちは日々の食事を摂るのだ。

5人で同じテーブルに付く。


焼きたてのパンとスープ、そしてフルーツ。

これば美の国の定番の朝食だ。


周囲には、同じように「新人」を連れたグループがいくつもあぅた。

「新人」たちは皆、真新しい制服を着ている、その姿は皆初々しい。。

隣のテーブルにいた「新人」の一人がエマを見て、鼻で笑った。


「あの子、ご辞退はしないようね、いい度胸だわ」

と言うひそひそ話が聞こえて来た。

昨日、エマの配属先を聞いていたのだ。


そんな陰口を、同じ部屋の皆も聞いてはいたが、誰もエマに気をかける者はいなかった。

何事もなかったように食事をし、そしてまた宿舎の部屋に戻った。


部屋に帰るなり、

「あー嫌味な奴、あいつ大嫌い」

とルナ・ルイーズが言った。

聞けば、先ほど嫌味を言ってきたのはルナとは知り合いなのだそうだ。


「同じ学校の同級生だったのよ、昔から張り合うのが好きでさ、私がフィオナ・クリスティーネ様の侍女になったのが気に入らないの、それでエマに嫌がらせのように言ったんだわ。

私に言えばいいのに」

とルナ。


「エマはとばっちり、ってわけね、ルナ」

とアレクサンドラ。


先輩、ルイスとエレナも話に加わる。

同じ侍女同士であっても、優劣をつけ妬んだり、妬まれたり、

手柄の横取りや足の引っ張り合い、そんなことは日常茶飯事なのだそうだ。


「おそろしいね」

とルナが笑う。


「それで、なんでさっきのあの子はあなたには言えなかったの?嫌味を」

とルイスがルナに言う。


「それは」

と口ごもるルナ。


「言ってもいい?」

とエレナ。


「あなた、平民じゃないんでしょ?2つ名だし、クラウディアータの出だし」

と続ける。


「まあ、そんなところかな。うちは没落した貴族で私が侍女として働かないとやっといけないほど。

でも血筋だけは高貴らしいわ。でもさ、家族は気位だけが高くて、面倒くさい。身の丈ってものを知らないの」

とルナ。


「だから、フィオナ・クリスティーネ様の侍女なのね。新人では異例の抜擢だものね」

とルイス。


「でもね私なんかより高貴な家柄の子、大勢いたわ。それなのに私を選んでもらって、もう嬉しくて」

とルナが言うと、


「なんか、あなたってさ、お品がよろしいわ。だからじゃない?」

とアレクサンドラ。

そして、笑いあう二人。


「色んな人がいるから、気にしない、気にしない、ね、エマ、あなたもよ」

とルイス。



そんなやり取りにエマも思わず表情を緩めていた。

そうしている間に、廊下が慌ただしくなってきた。

バタバタと急ぐ足音、話し声、ドアの閉まる音。


「あ、そろそろ行かないとね」

とルイス。


エマたち、新人は一旦食堂に集合だ。

そして、そっから各配属先に出向く。初出勤というやつだ。


この年の採用者のうち、第4王女、テレーザに仕えるのは3人。

エマ、侍女として。

カイ、侍従として。

マイ、食事係として。


テレーザ王女の第一侍女という女性に連れられて3人は王宮、クリスタルパレスの中を進む。

使用人専用エリアを出ると、そこは豪華絢爛な装飾品で溢れている。


クリスタルパレス、その上層階が王と王の家族の居住エリアだ。

エレベーターが止まり、第一侍女と共に降りるエマたち。


「この先、王女様、王子様のお部屋になります。

余計なおしゃべりは謹んで、それからきょろきょろしないでください」

第一侍女にそう言われ、無言で前だけを見て歩く。


長い廊下を進み、一番奥の部屋の前まで来た。

そこで、重厚な扉をノックする第一侍女。


「テレーザ様、レイアでございます。新しく着任した者たちをおつれいたしました」

とレイアと名乗った侍女が言う。


扉が開かれた。

大きくて重たそうな扉。


扉をくぐると、また廊下が続いている。

その一番奥に日の光が差した、明るい部屋があった。


その真ん中に、侍女に伴われたテレーザ王女が立っていた。

見事なドレス、そして王女のガウンを着て、結い上げた髪にはティアラ。

手に白い手袋をはめて、扇を持っている。


さすが、五大王国の姫君だ、美しく、気高く、気品が漂っている。

恰好だけをみるとそんな感じのテレーザ王女。

しかし、その表情はどこかうつろで、目の前のエマたちには何の興味もないようだ。


「任務にまい進することを希望します」

隣にいた侍女に促されて、一言、こう言ったテレーザ。

3人はひざまずき、頭を下げて姫が棒読みに語った言葉を聞いた。


「さ、テレーザ様、本日は郊外の農園を慰問いたします」

と侍女。

ぼーっと立っているテレーザはかすかにうなずいた。


王女は無表情、つまらならなそうな顔だ。

エマの隣の2人に落胆の色が見えた。

こんな王女に仕えるのか、そんな心の声が聞こえてきそうだ。


「あの人たちも辞退したかったのかしら」

2人の絶望的な心の色を見て、エマは思う。


エマは立ち上がりながら、テレーザの顔をふと見た。

遠くを見つめ、目の前の3人には視線を落とすこともしない。


それでも、

「やはりすごい力だ」

とエマ、

テレーザの心では、秘めたる力が静かに美しく輝いている、そうはっきりと感じることができた

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